パネル討論  後半 (会場からの質問・コメントと回答)

パネル討論の後半は、会場の皆さんから直接質問・コメントをいただき、それにパネリストが答える、という形で討論が進みました。以下は、そのときの質疑応答をまとめたものです。
なお、パネル討論の前半部分については こちら をご覧下さい。


Q7. 外務省特命全権大使 西村氏コメント
アメリカ議会の中には気候変動の科学に懐疑を持っている人が多い。科学が正しいかどうかを議論してもなかなか解決しない。むしろ資源は遅かれ早かれ枯渇す るという前提で対応策をとらなければならないのではないか。エネルギー政策について対応策をとれば、環境問題に対するインパクトも与えるのではないか。そういう議論にフレームワークを持っていかなければいけないのではないか、と感じた。

大矢 :
Nur 先生も地球温暖化問題は100年単位の問題だが、石油枯渇は10年単位あるいはもっと短い単位の問題だとおっしゃっている。

石井 :
西村氏の話はその通りだと思う。
京都会議は科学とは無関係で、国同士の利益のぶつかり合いだと感じた。
京都議定書のように、石油減耗議定書 (プロトコル) をつくるべきではないかとヨーロッパで出ている。国際的に議論しようという話があるが、政府機関の人間 にも参加して欲しいと言われている。条文案もできているが、石油が減耗することはもう見えている。地球温暖化のために石油消費を減らすというだけでなく、 人間、現代文明・社会が生き延びるかと言う意味で、石油に対しても同じことをやる必要がある。
各論が正しいかどうかではなく、必要なのはそれぞれが実行できるかという現実論である。

Nur :
温暖化と石油減耗は切り離すことができない問題である。
CO2 や海水面上昇予測も、これからどれだけ炭化水素を燃やすかに直接的なつながりがある。石油やガスの生産予測から見ると、我々が対策をとるからと言うより、使えるエネルギーがないから CO2 が増加しないと言う可能性もある。
石油の生産と消費がどうなるかと言うことを地球温暖化予測に取り入れるように同僚に話している。石油に代わる代替エネルギーで最も早く使えるのは原子力ではあるが、環境上安全上の問題がある。しかしもっとも一番使いやすい代替技術と思う。
木だけではなく森を見ながらやっていくことが鍵ではないか。地球温暖化は低減していきたいが、生活していくためにはエネルギーもまた必要である。両方を最適な形で、先進国にとっても途上国にとっても最適な形で解決していく必要がある。


Q8. 住友電工中山氏質問
アメリカや中国は国外から石油を調達するという戦略をとっているといわれたが、石油が無くなったときのことはどう考えているのでしょうか。

Nur :
中国がしていることは、できることは一つしかないのでそれをやっているということである。アメリカと競争して入手できる石油を入手しようというわけである。
ベネズエラの石油への中国の契約は、アメリカでも大きな懸念を広げているが、中国は過去アメリカがやって来たことをやっている。ほかに何もできることはないからだ。これを平和的に解決できる手段があるのだろうかということが大きな問題になっている。
ユノカルの買収に関しても、アメリカは難しい立場になる。これを承認すれば事実上のパニックになる。アメリカが50年間やって来た自由市場での買収を中国 にやられている。アメリカは止めようとし、中国政府は利子無しの資金を投入して石油の確保を狙っている。石油埋蔵量が減っているこの時期に、この動きを止 めるために何ができるかを考えると懸念せざるを得ない。2つの大きな経済が、枯渇しつつある石油資源を確保しようとするわけで、この経済的な対立が政治 的、もしかしたら軍事的な対立に発展する可能性もある。

住友電工中山氏質問
無くなったときの戦略はあるのだろうか。

Nur :
私は地球物理学者なので、その質問に答えるのは難しいですし、実際に答えはないというしかありません。石油に代わる代替エネルギーをこれから開発する必要 はある。すぐに完全に代替ではなくてもよく、徐々にでいい。ただ量的にはかなりの規模で使えるようにしなければならない。幸い石油資源は半分は残ってい る。
55年先には今使っているエネルギーの約3倍のエネルギーが必要と言われている。それには大きな投資が必要である。1種類ではなくいろいろな種類の代替エ ネルギー開発に投資が必要である。時間がある今のうちに投資を進める必要がある。英知を集めて新しい道を探り新しい発明をしてもらって、必要な量のエネル ギーを確保しなければならない。
私が懸念しているのは、石油減耗そのものよりも、それを知ったことによるパニックである。それを回避するための道を見つけなければならない。そのためには 今後30年間にわたって2000億ドルの投資が必要になる。必要エネルギーの確保には原子力発電所で何千基もの発電所が必要になる。増殖炉でも1万基が必 要になると言う話がある。しかし投資額は1年間イラクに使っている戦費よりは少なくて済むだろう。
しかしそういうことを謳って米大統領選に出ても当選は難しいだろう。日本ではどうだろうか?


Q9. エネルギー工学研究所松井氏コメント
我々が本当にやらなければならないことは何かを考えていきたい。何をすべきかをクリアに人々に訴えていく必要があるのではないかと思う。

芦田 :
金属資源、希少金属の枯渇問題もある。原子力も天然ウラン資源の寿命問題もある。工業原料としての安価な炭化水素は化石資源しかない。できるだけ石油を長 持ちさせたい。海水ウランはコストがかかり過ぎる。増殖炉ができればありがたい。核融合はまだまだである。どういう問題点があるかを考えなければならな い。

大矢 :
日本として政策的に重点的な取り組みをしたほうがよいのではないかというお話だった。質問にも箱崎氏の講演に対して明確な政策の必要性の指摘や戦略性の必要をいただいた。

箱崎 :
明確な戦略の必要はその通りである。もちろん考えているが、公表によるデメリットもあるので、タイミングを計っている。
代替エネルギーの開発のタイミングは、マーケットがフラットなときにやるべき。足りなくなって慌ててやることが多いが、落ち着くとやめてしまう。フラット なときに効率的に投資したほうがよい。それができない理由はいろいろあるが、それらを考えながらやっていきたい。当たり前のことを当たり前のタイミングで やることが大切である。
そういう認識を持てるような活動をマスコミにやって欲しいが、それができないのなら教育が重要。


Q10. 質問
温暖化は100年、石油減耗は10年スケールの問題だと言う。その通りだと思うが、次の世代から見た場合、石油はないだけだが、温暖化や放射性廃棄物は負の遺産が残ると言う点でそちらの方が重要と思うかもしれない。それについてどう思うか。

Nur :
今残されている資源をいかに将来に残していくかは大切だが、答えを私は持っていない。エネルギー問題と地球温暖化問題を分けて考えてはならない。しかし、 実際には分けて考えている。京都会議のときに、将来石油生産、天然ガスがどのように伸びるのか、影響はどうかなどは議論されなかったのではないか。
炭化水素をできるだけ早く使うというインセンティブが制度の中にある。それをスローダウンする必要はあるが、どうしてそれをやるのかを考える必要がある。 増殖炉にしてもそれが作れるのか、付随する安全や廃棄物管理問題などの解決に十分な投資をしているのかどうかが問題。核融合はまだ概念に過ぎない状況であ る。
資源枯渇と温暖化は、お互い密接に関連している問題という認識の元に、科学者・技術者が、問題全体を森を見るように見ていく必要がある。