閉会挨拶

佃栄吉(産総研地質調査総合センター代表)

本日は長時間にわたりシンポジウムにご参加頂きありがとうございました。産総研の地質調査総合センターとして、日本学術会議と連携して初めて取り組んだシンポジウムでした。基調講演をいただいた石井先生をはじめ、箱崎先生、Nur先生ありがとうございました。また、パネル討論にパネリストとしてご参加頂いた皆様、難しい討論を司会して頂きました大矢様、ありがとうございました。

リスクの認識と準備

今回議論された広範な内容については、私には今すぐまとめる能力はありませんので、私なりに強く認識した点について述べさせて頂き、まとめに変えさせて頂きたいと思います。
石油の枯渇問題は遠い将来のことではなく、今そこにある危機(Clear and Present Danger)であると改めて認識しました。市場に任せるのではなく、論理的に物事を思考し、「科学技術者」の知恵と的確に将来を見据えた研究展開が重要であると思います。
今回のシンポジウムは石油の入手が困難となる現実を前にして、我々は何をすべきなのか、を考える貴重なきっかけとなったと自負しております。

我々日本人は、数々の不幸な地震・火山災害を経験して、様々な教訓を得ています。これらの災害は歴史的に繰り返しており、そのリスクに対して国としてしっかりとした準備を始めています。被害を最小限に食い止めるため、もう「災害は忘れた頃にやってくる」とはいうことのない社会を目指しています。
石油資源、エネルギー問題においても、その将来のリスクについて、まずは認識することが大事であろうと思います。できれば考えたくはないのですが、もうそれではすまなくなっているようです。最悪のシナリオも視野に入れて考えておく必要があると思います。それによる危機・災害を乗り切るためには、我々科学技術者が、石井先生の言われる「Plan B」について、真剣に取り組む必要があると思います。ご指摘のように社会構造の変革、ライフスタイルの変革、を求めることになるかもしれません。まずは社会の「パブリックアウエアネス」を高める活動が重要であり、この点については我々も大いに貢献すべきと考えます。
昨年インド洋で発生した大津波は記憶に新しいところです。被災の映像が繰り返し報道され、その被害の大きさを驚愕しながらご覧になったと思います。その中で私が一番印象に残っているものは、亡くなられた若いカナダの家族が近づく津波をデジタルカメラで撮影されたものです。決して、悲惨な被害を直接的に撮ったものではありません。近づく津波が間近に迫るまで、数枚の写真に撮っていました。不幸にして亡くなられましたが、カメラが砂の中から発見され、我々はそれをみることができたわけです。津波の怖さを知っているものにはとうてい考えられない行為ですが、この連続写真を見て、知らないということがどういうことか思い知らされました。
将来発生するかもしれない巨大津波について、日本ではたとえ確率は低くてもその影響が大きいものに対して対応できるようにリスクの一つとして考えるようになってきています。
アメリカの西部、ワシントン州南部にあるセントへレンズ火山が1980年に山の半分がなくなるような大きな噴火をしました。この噴火ではアメリカの地質調査所が噴火を予測し、精密な地殻変動観測をしていました。マグマの上昇に伴って山体が次第にふくらみ、少し大きめの地震をきっかけとして、ついに富士山のような美しい山が一気に崩壊し、大量の火砕流を発生させました。被害を予測して、安全と思われる場所で観測をしていたはずですが、その研究者はThis is it !(これがそうだ!)との無線通信を最後に亡くなってしまいました。知っていても判断を間違うと大きな被害になることを示す例と思います。This is itという言葉は私としては非常に印象的で、判断の間違いを戒める言葉の一つとしております。
今回の石油問題でも、実際の影響が出始めたときにはもう遅いという事態になるかもしれません。パニックの回避のためにやるべきことが多いと思います。

地球の調査・観測情報の共有

我々の分野としては、様々な判断に活用されるために、信頼性の高い地球の実態情報について、秘密にされがちなエネルギー資源情報を含めて、世界の国々と共有するシステムを早急に構築する必要があると考えています。現在、GEOSS計画として世界規模で進められている地球観測の推進に積極的に貢献する必要する必要があると思います。環境問題とともに資源問題についても世界で情報を共有し、管理していこうと考えています。その情報が高いレベルの判断に活用されるように、活動する必要があると認識しています。
総合科学技術会議がまとめた社会基盤分野の推進戦略に、「正確なデータが共有されないまま論争と社会対立が果てしなく続いた例が少なくない。・・・『体系的データベースの構築と公開・共有』が重要と指摘しているところがあります。これは社会的に意見の分かれる施設の建設などを意識して書かれたものと思われますが、これは今回取り上げられた石油資源に関わる問題にも、適用されるものと考えます。

今回のシンポジウムを通じて、石油資源問題が非常に緊急性の高い問題であることを改めて認識いたしました。産総研は研究戦略の中に、「持続可能な社会の実現のために」とうたっています。もしかしたら、これは「人類の生存のために」とうたった方がいいのではないかとさえ感じました。
「人類すべてが豊かで快適な生活ができるように」とわれわれもよく言いますが、エネルギー問題を考えると安易に口にする言葉ではないと自覚しました。
繰り返しになりますが、今回のテーマは科学技術者集団としての責務を果たすべき非常に重要な課題であると思います。この問題は今後とも日本学術会議と連携して、継続的に議論を進め、社会に対する提言としてとりまとめたいと思います。

本日はどうもありがとうございました。