第九報 2024年能登半島地震の緊急調査報告(陸域に出現した地表変状の現地調査)

活断層・火山研究部門 吉見雅行・丸山 正

はじめに

 2024年能登半島地震(Mj7.6,Mw7.5)では、能登半島北岸および北東沖の活断層が活動しました。これに伴い、能登半島北部の海岸が広域に隆起した(石山ほか、2024;宍倉ほか、2024)ほか、能登半島沖の海底では、活断層の南側に明瞭な隆起が出現しました(海上保安庁、2024)。一方、陸域の複数の地点(珠洲市若山町付近および志賀町北部)において、2024年能登半島地震の地震断層の可能性がある地表変状が報告されています(国際航業株式会社、2024;白濱ほか、2024;鈴木・渡辺、2024;吉田、2024)。筆者らは2024年2月11日から13日にかけて、これら陸域の地表変状の緊急現地調査を行いました。地表変状の位置はハンディGPSを用いて記録し、上下方向のずれおよび横ずれは水田や畦道などを指標として、標尺、コンベックスおよび折れ尺を用いて簡易的に計測しました(図1〜4)。

珠洲市若山町の地表変状調査

 珠洲市若山町では、地震前後の数値表層モデルや航空レーザデータの解析から、若山川に沿って全長約4 km、幅100〜200 mの隆起帯が認められ(国際航業株式会社、2024;吉田、2024)、隆起帯の中央の若山町なかでの現地調査結果が白濱ほか(2024)により報告されています。筆者らはこれらの既往報告を参照しながら、珠洲市若山町延武から上黒丸までの範囲を踏査しました。このなかで最も大きな落差が認められた珠洲市若山町中では、水田や道路を切断して並走、雁行する複数の地表変状が認められました(図2、3)。これらの地表変状は、東西から東北東―西南西方向に分布し、主に南側上がりの撓曲崖状の断面形態を示すともに、隆起側(南側)に顕著な逆傾斜を伴うことから、南北方向の短縮変形によるものと解釈されます。このうち、最大の落差が認められた地点1では、一枚の水田に約195 cmの南側上がりの落差が認められ(図5)、さらに変形は南への傾動として長さ150 m以上にわたって南に続いている様子が、水田の傾きや水が溜まっている様子からわかります(図6)。傾動による変形量を現地で計測することはできませんでしたが、撓曲崖状の地表変状として現れた南上がりの隆起の多くが傾動により解消されたものと考えています。地点2では、3条の並走する南側上がりの地表変状と、それに向かい合う北側上がりの地表変状が一枚の水田や畦道に段差として現れている様子が確認できました(図7)。地点3では、もともと一枚の水田に約120 cmの北側上がりの落差が認められ、その20〜30 m南では南側上がり30〜35 cmの落差が生じ、両者の間の水田が水を湛えている様子が観察できます(図8)。また、地点3の北側上がりの落差の北側では北への傾動が小河川を超えて生じており、南側上がりの落差の南側では南への傾動が見られます。なお、これら地表変状地点では落差に加えて横ずれも観察されました。横ずれは多くの地点で左横ずれを示していますが、場所によっては同じような走向でも右ずれを示す地点も認められました。
 珠洲市若山町宗末では、東に流れる若山川の左岸(北岸)側の水田が北に、右岸側(南岸)の水田が南にそれぞれ傾動している様子が水田の湛水状況から認められました(地点4)(図2、4、9、10)。付近の若山川に建設された砂防ダムに短縮変形が生じていることと合わせて、この場所では、若山川を軸とする背斜状の変形が生じた可能性があります。この背斜軸の位置は、吉川ほか(2002)に示された岡田背斜のそれとほぼ一致しています。このすぐ東の若山川河床には、新鮮な基盤岩(中部〜上部中新統飯塚層珪質シルト岩:吉川ほか、2002)が露出している様子(図11)や河床礫と新鮮な基盤岩が接している様子が観察できます。時間の都合で近寄ることができなかったため詳細は不明ですが、今回の地震に伴う背斜軸部の隆起や断層のずれを示している可能性があります。
 宗末地区のさらに西に位置する珠洲市若山町上黒丸では、東流する若山川に架かる橋の両端に圧縮痕が認められましたが、周囲は山林や耕作放棄地であり明瞭な地表変状は確認できませんでした。
 珠洲市若山町延武において、地震前後の数値表層モデルや航空レーザの解析から示された水田や道路を切断する3条の地表変状(吉田、2024の図7)を現地で確認したところ、崖の高さが20〜40 cmと最も高い南のトレースでは、崖に対応する畦道の撓みやアスファルト舗装道路の段差が確認できました(地点5)(図2、12)。一方、崖の高さが10 cmの2つの北のトレースに沿っては道路の割れや地盤の僅かな撓みは観察されたものの、連続的で明瞭な地表変状は見出し難く、現地調査で検出できる限界以下の変状である可能性があります。

図1 能登半島の地形と調査位置図。図2の範囲(珠洲市若山町)を赤枠で示す。左下の赤☓印は志賀町北部の調査位置。基図は地理院地図(陰影起伏図)を用いた。

図1 能登半島の地形と調査位置図
図2の範囲(珠洲市若山町)を赤枠で示す。左下の赤☓印は志賀町北部の調査位置。基図は地理院地図(陰影起伏図)を用いた。

図2 珠洲市若山町の地表変状出現地点位置図。右側の黒枠が図3の範囲、左側の黒枠が図4の範囲を示す。基図は地理院地図を用いた

図2 珠洲市若山町の地表変状出現地点位置図
右側の黒枠が図3の範囲、左側の黒枠が図4の範囲を示す。基図は地理院地図を用いた

図3 今回の調査で観察した地表変状(若山町中)。本図の範囲を図2に示す

図3 今回の調査で観察した地表変状(若山町中)
本図の範囲を図2に示す。基図は国土地理院航空写真を用いた。
黄線は撓曲崖状の落差位置。記号の意味は次の通り。V:落差、N-up:北側上がり、S-up:南側上がり、E-up:東側上がり、L:左ずれ、R:右ずれ、S:短縮。数字はcm、矢印は傾動方向とおおよその傾斜範囲を示す 。

図4 今回の調査で観察した地表変状(若山町宗末)。本図の範囲を図2に示す。

図4 今回の調査で観察した地表変状(若山町宗末)
本図の範囲を図2に示す。基図は国土地理院航空写真を用いた。
黄色四角は新鮮な基盤の露出が認められた河床の位置を示す。矢印は傾動方向とおおよその傾斜範囲を示す。

図5 水田に生じた南側上がりの落差(地点1)。南東に向かって撮影。人物の身長は約180 cm。(若山町中

図5 水田に生じた南側上がりの落差(地点1)
南東に向かって撮影。人物の身長は約180 cm。(若山町中)

図6 南に傾斜した水田(地点1、図5の南方)。北に向かって撮影。人物の身長は約170 cm(若山町中)

図6 南に傾斜した水田(地点1、図5の南方)
北に向かって撮影。人物の身長は約170 cm(若山町中)

図7 水田や畦道に生じた3条の並走する南側上がりの段差(地点2)。段差の位置を赤矢印で示す。南に向かって撮影。(若山町中)

図7 水田や畦道に生じた3条の並走する南側上がりの段差(地点2)
段差の位置を赤矢印で示す。南に向かって撮影。(若山町中)

図8 もともと一枚の水田に北側上がりの落差(左側)と南側上がりの落差(右側)が生じ、それらの間で水を湛えている様子(地点3)。東に向かって撮影。(若山町中)

図8 もともと一枚の水田に北側上がりの落差(左側)と南側上がりの落差(右側)が生じ、それらの間で水を湛えている様子(地点3)
東に向かって撮影。(若山町中)

図9 若山川左岸に認められた一枚の水田の北への傾動(地点4)。水田の写真手前側が低下し湛水している。南に向かって撮影。(若山町宗末)

図9 若山川左岸に認められた一枚の水田の北への傾動(地点4)
水田の写真手前側が低下し湛水している。
南に向かって撮影。(若山町宗末)

図10 若山川右岸に認められた水田の南への傾動(地点4)。低下側が湛水している。北東に向かって撮影。(若山町宗末)

図10 若山川右岸に認められた水田の南への傾動(地点4)
低下側が湛水している
北東に向かって撮影。(若山町宗末)

図11 若山川河床に現れた新鮮な基盤岩(地点4の東)(若山町宗末)

図11 若山川河床に現れた新鮮な基盤岩(地点4の東)(若山町宗末)

図12 アスファルト舗装道路の段差(地点5)。段差は砂利で応急処置されている。北西に向かって撮影。(若山町延武)

図12 アスファルト舗装道路の段差(地点5)
段差は砂利で応急処置されている
北西に向かって撮影。(若山町延武)

志賀町北部の地表変状調査

 羽咋郡志賀町北部の富来川南岸断層沿い(図1)では、南東側が緩やかに撓み上がる上下変位量が50 cm程度、10〜数10 cmの左ずれを伴う地震断層が出現したと報告されています(鈴木・渡辺、2024)。このうち上下変位と左ずれが報告されたA地点(鈴木・渡辺、2024)は、水田に砂を盛土して宅地造成された場所に当たり、液状化による地盤の沈下や側方流動、噴砂が生じていることが確認できます。地震断層とされた地表変状は、こうした盛土地盤の沈下部分や流動化に伴う擁壁や柵のはらみ出しのうちの見かけの左横ずれ部分を指している可能性もあります(図13)。A地点の西方延長部では、造成地と水田とを隔てる擁壁が傾斜し、ガードレールに見かけ上右ずれが生じています。アスファルト舗装道路上に左ずれが確認されたB地点(鈴木・渡辺、2024)は、南の大坂山トンネルから富来川低地に至る道路区間にあたり、道路建設前後の空中写真をみると、同地点は盛土されているように見えます。この左ずれを示す亀裂の南約50 mには、同じく盛土・地山境界部付近にあたる場所に南側(盛土側)低下の右ずれを示す亀裂も確認できます(図14)。これらのことから、B地点の地表変状には工事の影響の可能性も考えられます。

図13 盛土地盤の側方流動によるとみられるはらみ出しで生じたガードレールの見かけ上の右ずれ。北に向かって撮影。(志賀町富来地頭町甲)

図13 盛土地盤の側方流動によるとみられるはらみ出しで生じたガードレールの見かけ上の右ずれ
北に向かって撮影。(志賀町富来地頭町甲)

図14 地山(右手奥)と盛土(左手前)の境界部に生じた右ずれ・西側低下を示す亀裂。人物付近には鈴木・渡辺(2024)で報告された左ずれの亀裂がある。北東に向かって撮影。(志賀町富来地頭町甲、大坂山トンネル出口より約100 m北)図

図14 地山(右手奥)と盛土(左手前)の境界部に生じた右ずれ・西側低下を示す亀裂
人物付近には鈴木・渡辺(2024)で報告された左ずれの亀裂がある。
北東に向かって撮影。(志賀町富来地頭町甲、大坂山トンネル出口より約100 m北)

謝辞

 若山地区の地震断層については、東京大学地震研究所の白濱吉起氏と同志社大学の堤 浩之氏に現地で情報をいただきました。若山町宗末の住民には、被災されているなか若山川沿いの地表変状について情報を提供していただきました。このたびの地震によりお亡くなりになられた方に哀悼の意を表しますとともに、被害に遭われた方々、避難を余儀なくされている方々に心よりお見舞いを申し上げます。

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産総研地質調査総合センター