地質調査総合センター

2025年7月30日に発生したカムチャツカ半島付近の地震(M8.7)に関する情報



2025年7月30日に発生したカムチャツカ半島付近の地震(M8.7)に関する情報

2025年7月31日 開設

活断層・火山研究部門
行谷佑一・内出崇彦・伊尾木圭衣・澤井祐紀

 2025年7月30日午前8時25分頃(日本時間)、ロシア連邦のカムチャツカ半島周辺でマグニチュード8.7(気象庁)の地震が発生しました(図1)。この地震は千島海溝で発生した逆断層型の地震と考えられます。地震により海底が変形したと考えられ、このため津波が発生し、気象庁は日本の太平洋沿岸の広い範囲に対し津波警報を発令しました。

 千島海溝とは、北海道の東方沖合からカムチャツカ半島東方沖合へと北に延びる、太平洋プレートが大陸プレートに沈み込む部分です。この地域では図1のようにマグニチュード8を超える巨大地震が数多く発生していることがわかります。日本で発生した地震としては、1952年3月4日に発生した十勝沖地震(マグニチュード8.1)や2003年9月26日に発生した十勝沖地震(マグニチュード8.3)が有名です(マグニチュードの値はNOAA National Centers For Environmental Informationによる)。

 カムチャツカ半島周辺においても、図1のようにマグニチュード8を超す地震が多く発生しています。とくに、1952年11月4日に発生した地震はマグニチュード9.0と推定されており、今回発生した地震より一回り大きい地震であったと考えられます。ただし、震央の位置は近い状況です。

 図2はカムチャツカ半島で過去に発生した巨大地震の余震域に、今回の2025年地震の余震の震央位置を図示したものです。余震は本震で破壊した部分の周辺で発生することが多いと考えられ、その分布は地震の発生領域や規模を推定するのに利用されることがあります。これをみると、少なくとも2025年7月30日20時11分の時点では、今回の地震の余震分布は1952年地震の余震分布と同様の分布をしているように見えます。

 このように、カムチャツカ半島はマグニチュードM8.7以上の地震が過去に発生している領域ですが、千島海溝南部に面した北海道においても、カムチャツカ半島のようにM9クラスに近い地震・津波が繰り返し発生していたことが明らかになっています。 産業技術総合研究所や北海道大学等の研究グループが行った地質調査では、過去の津波によって残された土砂(津波堆積物)の分布や年代が明らかになっています。また、その情報をもとにコンピュータによって津波の浸水計算を行うことで、地震の規模が推定されています。この結果、図3で紹介するように、17世紀において北海道の東部沖合でモーメントマグニチュードMw8.8の地震が発生したと考えられています。17世紀に発生したような地震・津波は、400年程度の間隔で発生しており、「17世紀型超巨大地震」と言われています。

 また、千島海溝中部では、1963年に海溝型地震(M8.5)が発生した1週間後にプレート境界の浅部で津波地震(M7.9)が発生しています。同様の一連の地震は1969年に海溝型地震(M8.2)とその約5年半後の1975年にプレート境界浅部で津波地震(M7.6)が発生しています。また、2006年には海溝型地震(M8.3)が発生した約2か月後の2007年にアウターライズで正断層型の地震(M8.1)が発生しています。

図はGeneric Mapping Tools (GMT) (Wessel et al. 2013)を利用して作成しました。

図1 千島海溝周辺におけるマグニチュードM8以上の地震の震央分布(1792-2007年の震央は赤色星、2025年の震央は黄色星。ただし、深発地震は除く)。

図1 千島海溝周辺におけるマグニチュードM8以上の地震の震央分布(1792-2007年の震央は赤色星、2025年の震央は黄色星。ただし、深発地震は除く)。震央及びマグニチュードのデータはNOAA National Centers For Environmental Informationを利用した。背景地図の地形データはGEBCO Bathymetric Compilation Group 2024 (2024)を利用した。



図2 カムチャツカ半島周辺で発生した過去の巨大地震の余震域と2025年地震の余震分布。

図2 カムチャツカ半島周辺で発生した過去の巨大地震の余震域と2025年地震の余震分布。灰色で示す領域は過去の巨大地震の余震域を示す(Fedotov et al., 1982; Johnson and Satake, 1999)(1952年地震は濃い灰色)。2025年地震の余震分布は米国地質調査所(USGS)の地震カタログによる(黒丸)。



図3 北海道沖合で17世紀に発生したと考えられる地震の断層モデル(Ioki and Tanioka 2016)を改変して掲載。

図3 北海道沖合で17世紀に発生したと考えられる地震の断層モデル(Ioki and Tanioka 2016)を改変して掲載。この地震の規模はMw8.8と推定される。



文献

  • Fedotov, S. A., Chernyshev, S. D., and Chernysheva, G. V. (1982) The Improved Determination of the Source Boundaries for Earthquakes of M ≧ 7 ¾, of the Properties of the Seismic Cycle, and of Long-Term Seismic Prediction or the Kurile-Kamchatkan Arc, Earthq. Predict. Res., 1, 153-171.
  • GEBCO Bathymetric Compilation Group 2024 (2024) The GEBCO_2024 Grid - a continuous terrain model of the global oceans and land. ERC EDS British Oceanographic Data Centre NOC. doi:10.5285/1c44ce99-0a0d-5f4f-e063-7086abc0ea0f
  • Ioki, K. and Tanioka, Y. (2016) Re-estimated fault model of the 17th century great earthquake off Hokkaido using tsunami deposit data. Earth and Planetary Science Letters, 433, 133-138, doi:10.1016/j.epsl.2015.10.009.
  • Johnson, J. M. and Satake, K. (1999) Asperity Distribution of the 1952 Great Kamchatka Earthquake and its Relation to Future Earthquake Potential in Kamchatka. Pure and Applied Geophysics, 154, 541–553, doi:10.1007/s000240050243.
  • Wessel, P., Smith, W.H.F., Scharroo, R., Luiis, J. and Wobbe, F. (2013) Generic Mapping Tools: improved version released. EOS Trans. AGU, 94:409-410, doi:10.1002/2013EO450001.

問い合わせ先

産総研地質調査総合センター

災害と緊急調査