令和4年(2022年)6月19日に能登半島で発生した地震の関連情報



令和4年(2022年)6月19日に能登半島で発生した地震の関連情報

2022年 6月22日 開設
2022年 11月22日 更新

 令和4年6月19日15時08分に能登半島の北東部でマグニチュード5.4(気象庁暫定値)の地震が発生しました。発震機構は北西―南東方向に圧力軸を持つ逆断層型です。今回の地震の東南東約3kmでは、2021年9月16日にマグニチュード5.1の地震が発生していました。ここでは、今回の地震の発生域周辺の活断層及び応力場について簡単に紹介します。

[2022.11.22 追記]  この地震について、一部を追加・更新しました。主な追加点は、地震発生域周辺の活断層との関係及び能登半島及び周辺における温泉水のヘリウム同位体比と水温に関しての情報を掲載した事と、図5〜図10の追加、図1の差替です。

1. 地震発生域周辺の活断層

 産業技術総合研究所では、2008 年に能登半島の北岸沖で海底地質調査を実施し、海底に分布する活断層の全貌を明らかにしました(岡村ほか, 2010)。それによると、能登半島北岸の 5〜10 km 沖に北東〜南西走向の活動的な逆断層が断続的に分布していることが示されています。それらは東から西へ、20 km 前後の長さを持つ珠洲沖セグメント、輪島沖セグメント、猿山岬沖セグメント、門前沖セグメ ントに区分されています(図 1, 2)。すべての断層は南側が隆起する南東傾斜の逆断層で、中新世の 日本海拡大時に形成された正断層が再活動したものです。
 このうち、門前沖セグメントは 2007 年能登半島地震の震源断層であったことが確認されています (井上ほか, 2007)。高分解能反射断面で、2007 年の地震に伴う変位が確認され、さらに約 15,000 年 間の地層に記録された累積変形構造から 2,000〜3,000年間隔で地震が発生してきたと推定されています(池原ほか, 2007)。また、猿山沖セグメントより東側では、海岸沿いに分布する低位段丘及び離水生物遺骸群集の調査が行われ、最高で7mに達する3段の段丘が断続的に分布すること、過去約 1,500 年間の離水生物遺骸群集が標高2m 以下に分布することが明らかになっています(宍倉ほか, 2020)。 段丘の年代は直接測定できていませんが、間接的な仮定に基づいた参考値として、平均隆起速度は 0.6 〜1.5m/ky、地震発生間隔は数百年から 2,000 年と推定されています。
 今回の地震は珠洲沖セグメントの南東約4~5km付近を震源として発生しましたが、活断層との関係は今のところ不明です。

図1 能登半島北岸沖の活断層と6月19日の地震の震央(青星)図1 能登半島北岸沖の活断層と6月19日の地震の震央(青星)。基図は、井上・岡村(2010)を一部改変。震源位置は防災科学技術研究所Hi-net、気象庁、東京大学、京都大学の各機関の地震観測網で得られた地震波形データと、気象庁一元化処理検測値を使用し、hypoDDにより決定したものである。参考に、気象庁一元化カタログによる2007年3月25日能登半島地震(M6.9)と2021年9月16日の地震(M5.1)の震央を緑星、赤星で示す。

図2 能登半島の海陸シームレス地質図。図2 能登半島の海陸シームレス地質図。
基図は、井上ほか(2010)。2021年9月16日の地震(M5.1)の震央は気象庁一元化カタログより、2022年6月19日の地震(M5.4)の震央は図1と同じである。メカニズム解は防災科学技術研究所のF-net解を示す。

引用文献

  • 池原 研・井上卓彦・村上文敏・岡村行信(2007)能登半島西方沖の堆積作用・完新世堆積速度と活断層の活動間隔.地震研彙報,82,313-319.
  • 井上卓彦・村上文敏・岡村行信・池原 研(2007)2007 年能登半島地震震源域の海底活断層.地震研彙報,82,301-312.
  • 井上卓彦・岡村行信 (2010) 能登半島北部周辺20万分の1海域地質図及び説明書. 海陸シームレス地質情報集, 「能登半島北部沿岸域」. 数値地質図S-1, 地質調査総合センター, https://www.gsj.jp/data/coastal-geology/GSJ_DGM_S1_2010_01_b_sim.pdf.
  • 井上卓彦・尾崎正紀・岡村行信 (2010) 能登半島北部域20万分の1海陸シームレス地質図及び地質断面図. 海陸シームレス地質情報集, 「能登半島北部沿岸域」. 数値地質図S-1, 地質調査総合センター,https://www.gsj.jp/data/coastal-geology/GSJ_DGM_S1_2010_03_a.pdf
  • 岡村行信・井上卓彦・尾崎正紀・池原 研・駒澤正夫・大熊茂雄・加野直巳・伊藤 忍・横田俊之・山口和雄(2010)海陸シームレス地質情報集, 「能登半島北部沿岸域」.数値地質図S-1, 地質調査総合センター,https://www.gsj.jp/researches/project/coastal-geology/results/s-1.html.
  • 尾崎正紀(2010)能登半島北部20万分の1地質図及び説明書. 海陸シームレス地質情報集, 「能登半島北部沿岸域」. 数値地質図 S-1, 地質調査総合センター,https://www.gsj.jp/researches/project/coastal-geology/results/s-1.html
  • 宍倉正展・越後智雄・行谷佑一(2020)能登半島北部沿岸の低位段丘および離水生物遺骸群集の高度分布から見た海域活断層の活動性.活断層研究,no.53, 33-49.

2. 地震発生域の応力場

 今回の地震発生域周辺において、地震の震源メカニズム解を用いて推定した地殻応力場は、最大水平主圧縮軸が概ね北西-南東方向を向いている。地殻応力場データベースに掲載している応力方位(全国0.2度メッシュ)を図3に示す。このデータは、2003年~2020年の地震に基づくものであり、2021年から能登地方で活発化した地震活動のデータは使用していない。そのため、より詳しく地殻応力場を見るため、2021年・2022年のデータを使用して、全国応力地図と同様の手法で、能登地方のみを対象に地殻応力場を推定した結果が図4である。
 今回の地震については、気象庁により北西-南東方向に主圧力軸(P軸)を持つモーメントテンソル解が推定されている。これはこの地域の地殻応力場の特徴をよく反映して地震が発生したことを示している。

図3 石川県能登地方周辺における最大水平主圧縮軸の方位(Uchide <i>et al</i>., 2022)。図3 石川県能登地方周辺における最大水平主圧縮軸の方位(Uchide et al., 2022)。色は、応力場が対応する断層のタイプを示す。基図は国土地理院の地理院地図である。

図4 微小地震(マグニチュード0.7から3.1まで)の震源メカニズム解から推定した最大水平主圧縮軸の方位。図4 微小地震(マグニチュード0.7から3.1まで)の震源メカニズム解から推定した最大水平主圧縮軸の方位。
色は、応力場が対応する断層のタイプを示す。

謝辞

データ解析においては、国立研究開発法人 防災科学技術研究所のHi-netと気象庁、東京大学、京都大学の各機関の地震観測網で得られた地震波形データと、気象庁一元化処理検測値を使用した。

引用文献

3. 地震発生域周辺の活断層との関係

 今回の地震と珠洲沖セグメントとの関係を調べるために、1997年10月1日から2022年6月26日までに発生した地震について、気象庁による一元化処理で読み取られたP波・S波到達時刻を用いて、Double-Difference法(Waldhauser and Ellsworth, 2000)によりその位置を精度よく決定しました(図5)。余震は北東―南西走向で50~60°の南東傾斜の分布を示し、防災科学技術研究所F-net解の節面の一つとも概ね調和的です。この分布をそのまま地表に延長すると、珠洲沖セグメントの北側に抜けます。一方、浅部に向かい傾斜角がやや高角に変化する断層形状を持つ場合は、今回の地震は珠洲沖セグメントの深部付近で発生している可能性があります。また、珠洲沖セグメントの北側には、複数の南傾斜の逆断層が分布していることがエアガンの反射断面で観察できるので(図6)、地下深部にも複数の断層が存在し、その一つで地震が発生した可能性があります。

図5 能登半島北東部における震源決定結果図5 能登半島北東部における震源決定結果。丸の色は、2022年6月19日の地震(M5.4)の発生時刻を基準にして色分けしている。星はM5.4の地震を示す。赤の線は珠洲沖セグメントの地表位置を示す。3つの測線(A-A’, B-B’, C-C’)の断面図を下図に示す。赤の四角は珠洲沖セグメントの地表位置を示す。

図6  図1に位置を示した珠洲北方沖のNNW-SSE方向のエアガンを音源とするシングルチャンネル反射断面図6 図1に位置を示した珠洲北方沖のNNW-SSE方向のエアガンを音源とするシングルチャンネル反射断面。珠洲沖セグメントの活断層はこの反射断面には含まれず、南端よりすぐ南側に位置しています。この断面では、活断層の北側にも少なくとも南側隆起の3つの逆断層が観察出来ますが、海底には達していないことから、活動をほぼ停止していると推定されます。

謝辞

本稿の作成に当たっては、気象庁一元化処理検測値とhypoDD プログラム(Waldhauser and Ellsworth, 2000)を使用しました。

引用文献

  • Waldhauser, F. and Ellsworth, W. L. (2000) A double-difference earthquake location algorithm: Method and application to the northern Hayward fault, California. Bulletin of the Seismological Society of America, 90, 1353-1368, doi:10.1785/0120000006.

4. 能登半島及び周辺における温泉水のヘリウム同位体比と水温

 能登半島直下での太平洋プレート上面の深度は約250 kmであり、含水鉱物(蛇紋岩、Phase A)として運ばれた水は、脱水してマントル内を上昇します。溶融が生じるかどうかはマントルの温度構造で決まりますが、中部日本は二重の海洋プレートの沈み込みにより冷たい温度場になっているため(Iwamori, 2000)、溶融が生じることは考えにくいです。
 一方、能登半島北東部および北西部の温泉中のヘリウム同位体比は、能登半島南部の温泉中のヘリウム同位体比に比べて有意に高く、マントル起源のガスを含み(図7a)、何らかの流体が上昇している可能性があります。ただし第四紀火山周辺の温泉のヘリウムがほぼマントル起源であるのに対し、能登半島北部の温泉水は地殻起源のヘリウムが卓越しており(図7b)、地殻内での流体の滞留が考えられます。また、温泉水の同位体(δD・δ18O)などからは顕著なマグマ水の寄与は見られず(加戸ほか, 2016)、温泉水の水温は一部の温泉を除いて最大50℃程度と活発な熱水活動を起こしている地域ではありません(図8)。
 温泉中にヘリウムなどのマントル起源ガスを含む理由としては、(1)火成活動によるもの、(2)プレートから脱水した水がマグマ生成を伴わずに地表まで上昇したもの、(3)地殻下部においてマグマが固化した際に脱水した水が地表まで上昇したもの、などが考えられます。本地域内に、第四紀火山は分布していないことから(図9、図10)、火成活動起源ではないと考えられます。本地域は活発な熱水活動を起こしている地域ではありませんが、深層では熱水が存在していることが考えられます。温泉中にヘリウムなどのマントル起源ガスが含まれていることは、断層を介して熱水が深部から上昇する過程で遊離したヘリウムなどのガスが、熱水よりも先に上昇しているためと考えられます。

図7 能登半島周辺(a)および中部地方(b)の温泉水中のヘリウム同位体比から見た、マントル起源および地殻起源ガスの寄与率図7 能登半島周辺(a)および中部地方(b)の温泉水中のヘリウム同位体比から見た、マントル起源および地殻起源ガスの寄与率(Kusakabe et al., 2003; Ohwadaet al., 2007; Umedaet al., 2009; 産業技術総合研究所未公表データなど)。なお、能登半島試料は2009年以前に採取されたものである。

図8  能登半島周辺の温泉水の水温分布図(高橋ほか, 2018)図8 能登半島周辺の温泉水の水温分布図(高橋ほか, 2018)

図9  能登半島周辺の地質(基図は20万分の1日本シームレス地質図V2)図9 能登半島周辺の地質(基図は20万分の1日本シームレス地質図V2)。赤線は活断層、黄緑線は太平洋プレートの等深線、黒破線の矩形は図10の地質図幅の範囲を示す。凡例は図2を参照。凡例の一部は省略した。

図10  能登半島北東端部の地質。基図は、吉川ほか(2002)及び20万分の1日本シームレス地質図V2。図10 能登半島北東端部の地質。基図は、吉川ほか(2002)及び20万分の1日本シームレス地質図V2。凡例の一部は省略した。本地域内で最も新しい火山活動は、栗蔵層(流紋岩)の15.9±1.5Maで、これ以降の火山活動は認められない。青線の楕円は気象庁による能登半島の地震のクラスター、赤色の丸、灰色の丸は地域内で発生した主な地震を示す(地震調査研究推進本部地震調査委員会、2022)。

引用文献

  • Iwamori, H.(2000) Deep subduction of H2O and deflection of volcanic chain towards back-arc near triple junction due to lower temperature. Earth and Planetary Science Letters, 181, 41-46
  • 地震調査研究推進本部地震調査委員会(2022)2022 年6月19日石川県能登地方の地震の評価.https://www.static.jishin.go.jp/resource/monthly/2022/20220619_ishikawa_1.pdf
  • 加戸裕也,上田 晃,中本利正(2016)石川県内温泉水の化学及び同位体組成を用いた地球化学的地熱資源解析,地球化学,50, 279-298
  • Kusakabe, M., Ohwada, M., Satake, H., Nagao, K. and Kawasaki, I.(2003) Helium isotope ratios and geochemistry of volcanic fluids from the Norikura volcanic chain, central Japan: Implications for crustal structures and seismicity. Volcanic, geothermal, and oreforming fluids: rulers and witnesses of processes within the earth. Society of Economic Geologists, pp. 75–89.
  • Ohwada, M., Satake, H, Nagao, K. and Kazahaya, K.(2007) Formation processes of thermal waters in Green Tuff: A geochemical study in the Hokuriku district, central Japan. J. Volcanol. Geotherm. Res., 168, 55–67.
  • 高橋正明,風早康平,安原正也,塚本 斉,佐藤 努,高橋 浩,森川徳敏,清水 徹,宮越昭暢,戸崎裕貴,東郷洋子,稲村明彦,半田宙子,仲間純子,中村有理,竹内久子,大丸 純,清水日奈子,尾山洋一,大和田道子,切田 司 (2018) 深層地下水データベース(第2版).地質調査総合センター研究資料集,no.653,産総研地質調査総合センター
  • Umeda, K., Ninomiya, A. and Negi, T. (2009) Heat source for an amagmatic hydrothermal system, Noto Peninsula, Central Japan. J. Geophys. Res., 114, B01202, doi:10.1029/2008JB005812.
  • 吉川敏之,鹿野和彦,柳沢幸夫,駒澤正夫,上嶋正人,木川栄一(2002)珠洲岬,能登飯田及び宝立山地域の地質.地域地質研究報告(5 万分の 1 地質図幅),産総研地質調査総合センター,76p.

更新履歴

  • 2022年11月22日
    • 図1の差し替え
    • 地震発生域周辺の活断層との関係、能登半島及び周辺における温泉水のヘリウム同位体比と水温を追加

問い合わせ先

産総研地質調査総合センター