地質調査総合センター

第7報 2026年熊本地震の緊急現地調査報告:地震時の断層のずれ方向の測定

2026年8月19日 開設

1) 活断層・火山研究部門 地震テクトニクス研究グループ
2) 活断層・火山研究部門
3) 国立大学法人新潟大学教育研究院 自然科学系

大橋聖和1)・重松紀生2)・小林健太3)

概要

 2026年7月28日に発生した令和8年(2026年)熊本地震を引き起こした断層のずれ方向を把握および記録するため、8月2日〜6日までの5日間、緊急現地調査を実施しました(図1)。
 調査の結果、宇城市豊野町下郷の娑婆神峠付近の2地点で、地震時のずれ方向を直接確認できる地表地震断層の露頭(注1)を発見しました(図2)。また、この露頭以外にも8地点において、地震時のずれ方向を示す構造(条線,注2)を発見しました(図3)。今後、条線の方向や軌跡を詳しく解析することで、断層すべりの開始から停止までの運動の履歴を知ることが期待されます。

調査結果

 地表地震断層のずれの方向を知ることは、その地震を引き起こした活断層のすべりそのものを知ることにつながり、地震発生の際の被害状況を分析したり、次の地震のずれ量・向きを予測したりする際に重要です。産総研地質調査総合センターでは、2026年7月28日に発生した令和8年(2026年)熊本地震を引き起こした断層のずれ方向を把握および記録するため、8月2日〜6日までの5日間、緊急現地調査を実施しました(図1)。本調査では、今回の地震で新たに形成された地表地震断層やずれ動いた断層露頭(注1)などを探して断層表面に残された条線(注2)を見つけ、それらを直接計測しました。
 調査の結果、宇城市豊野町下郷の娑婆神峠付近の露頭(図2)では、過去の地震(断層運動)で形成された断層ガウジ(注3)を再利用して、今回のずれが生じている様子が確認できました。断層ガウジの表面には明瞭な条線が確認できますが、手前側の岩盤は剥落していません。そのため、地震の揺れに伴う崩壊で過去に形成された条線が露出したのではなく、今回の地震によって写真奥側(北西側)の岩盤が右にずれ動くことによって形成されたと考えられます。条線の向きはほぼ水平で、付近の人工物(道路)から判読される断層のずれ方向(第5報)と調和的です。この地点以外にも、このような条線は宇城市豊野町下郷から八代市渡町にかけて断続的に確認されました(図3)。条線はおおむね水平方向から見て北東にやや傾き下がり、今回の地震の運動像(北西側低下を伴う右横ずれ)と調和的です。一方で、一部では南西にやや傾き下がるもの(図3の地点②、⑤、⑥)や、北東に大きく傾き下がるもの(地点①)、途中でずれ方向が変化するもの(地点①、⑨)も認められました。今後は断層すべりの解析を行い、地表変状や測地観測などの結果と合わせることで、複雑なずれ方向の原因となった地震断層の動きを復元し、断層のすべりの開始から停止までの運動の履歴を解明する予定です。

(注1)露頭(ろとう):地層や岩石(いわゆる岩盤)が土や草に覆われず、地表にむき出しになっている場所。
(注2)条線(じょうせん):断層がずれ動いた際に断層の表面がこすれ合ってできたひっかき傷。条線の方向や軌跡を調べることで、断層がすべった方向やすべりの開始から停止までの運動の履歴を知ることができる。断層の上に作られた人工物に条線が記録されることもある。
(注3)断層ガウジ(だんそうがうじ):断層運動にともなう破砕や摩擦で、元の岩石が粉々に砕けて粘土状になった未固結の物質。

 

図1:本緊急現地調査で地震断層の露頭および条線を確認した地点の一覧(青字部分)。基図は第5報の図1。

図1 本緊急現地調査で地震断層の露頭および条線を確認した地点の一覧(青字部分)。基図は第5報の図1。

 

図2:娑婆神峠の地震断層露頭(地点④)。岩盤のヘリに断層破砕帯が見られます。断層破砕帯のうち、柔らかい粘土の部分を断層ガウジと言います。断層ガウジの表面に見られる傷(擦れた跡)が条線で、地震時の断層の動きを鮮明に記録しています。写真の角度によって条線が北東に傾き下がるように写っていますが、実際にはほぼ水平です。

図2:娑婆神峠の地震断層露頭(地点④)。
岩盤のヘリに断層破砕帯が見られます。断層破砕帯のうち、柔らかい粘土の部分を断層ガウジと言います。断層ガウジの表面に見られる傷(擦れた跡)が条線で、地震時の断層の動きを鮮明に記録しています。写真の角度によって条線が北東に傾き下がるように写っていますが、実際にはほぼ水平です。

 

図3:地震断層および人工物の表面に記録された断層すべりの軌跡(条線)。地点⑦は写真の角度によって条線が南西に傾き下がるように写っていますが、実際には北東に傾き下がっています。

図3:地震断層および人工物の表面に記録された断層すべりの軌跡(条線)。地点⑦は写真の角度によって条線が南西に傾き下がるように写っていますが、実際には北東に傾き下がっています。

 

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産総研地質調査総合センター

災害と緊急調査