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富士火山の火砕流災害
  社会的要請に応える富士火山の地質学的研究

深部地質環境研究センター  長期変動チーム長
山元  孝広

mt_fuji_j.gif    富士火山では平成12年の秋からその地下で低周波地震が数多く観測されている。浅い地震活動や地殻変動は観測されておらず、直ちに噴火に至るような恐れはないものの、改めて富士山が活火山であることが一般にも認識されるようになってきた。一方、産総研地質調査総合センターでは平成11年度から、科学調査ボーリングを含めた富士火山の地質学的研究を既に始めており、社会的要請に旨く応えられる形で、タイミング良く成果を出すことができた。今回紹介する富士山の火砕流災害に関する知見もこの研究の成果の一部であり、3月の富士山ハザードマップ検討委員会、5月の地球惑星科学関連学会にて報告したものである。

   富士山は粘りけの少ないゲンブ岩質マグマの火山であるため、火砕流の発生はほとんどないものと考えられていた。火砕流は固形の火山噴出物と火山ガスや取り込まれた大気の混合物が高速で斜面を流れ下る現象で、雲仙普賢岳のような粘りけの多いケイ酸分に富んだマグマに多く事例がある。ところがこれまでの野外調査から、1) 富士山の西〜南西山麓には3.2千年前、2.9千年前、2.5千年前の火砕流堆積物とこれが再移動した土石流堆積物が広がっていること、2) その発生年代は山頂火口で爆発的噴火が繰り返し発生していた時期と一致することが明らかになった。富士山での火砕流の発生が特殊な現象でないとすると、この火山には火砕流の発生を促す何らかの特徴があるはずである。

   火口から放出された噴出物は大気の流れにのって拡散していく。すなわち、噴出物の分布は噴火時の風向を受けやすく、普通は卓越風にのって火山の東側に分布しやすい。ところが3.2千年前、2.9千年前、2.5千年前の火砕流堆積物の火砕流堆積物は噴火によらず西〜南西山麓にのみ分布する。一方、富士山の地形を解析すると、富士山頂の西〜南西斜面にのみ傾斜角が34度以上の斜面が存在し、火砕流の分布と良く一致することが明らかになった。このことは、富士山の火砕流が噴火様式に規制されるものではなく、地形の効果が強く作用していることを示唆している。火山弾・火山灰のような砕屑粒子の安息角 (斜面で停止可能な最大角) は大きくても34度であり、これを越える斜面では砕屑粒子は転動して斜面上を流れ下ることが期待される。富士山山頂の西〜南西斜面はこの条件を備えており、この斜面上に大量の砕屑粒子が降り注ぐような噴火があったので、砕屑粒子群は定置できず火砕流として山麓まで流そうしたのであろう。斜面の状況は今も変わっておらず、今後も同様の噴火が発生した際には火砕流を伴うと予想される。一般的な、小型火砕流の動摩擦計数 (H/L=0.30) から考えると、火砕流の本体は富士宮市広見や角木沢の集落地まで到達し得るのは確実であろう。それゆえ、このタイプの現象は火山防災上、十分に考慮される必要がある。

up: 2004年3月16日