口永良部島火山2015年5月



口永良部島火山の噴火に関する情報[2015年5月29日]

活断層・火山研究部門
開設:2015年5月29日(更新:2015年6月4日)
2016年2月18日:火山噴火予知連絡会資料を追加

はじめに

鹿児島県屋久島町口永良部島の新岳で2015年5月29日に噴火がありました。
 産総研地質調査総合センターでは2014年8月3日の噴火以降、関係機関と連絡を取りつつ、現地調査を実施し、解析結果を火山噴火予知連絡会に随時報告しています。また、本ウェブサイトを通じて、今回の噴火に関する研究情報を一元的に発信して参ります。なお、記載された内容は今後の調査研究の進展により修正・変更することがあります。

今回の噴火概要と対応 [2015年5月31日更新]

 口永良部島の新岳で2015年5月29日午前9時59分ごろに爆発的噴火が発生しました。気象庁の情報によると、噴煙は高度9000m以上に達し火砕流が発生(図1)、火砕流は島の北西から南西の海岸まで達しました。噴火警戒レベルが5に引き上げられ、全住民に島外への避難指示が出されました。

図1 口永良部島火山の地質図

図1 口永良部島火山の地質図。2015年5月29日噴火が発生した新岳火口の位置と火砕流の流下方向(青矢印)を示しています。
 ※口永良部島火山地質図(2007)を使用して作成した地質陰影図。

地質調査総合センターでは、噴火状況と今後の噴火推移を把握するために、当日から現地に研究者を派遣し、噴出物や火山ガス等の解析を進めています。

口永良部島2015年5月29日噴出物の構成粒子 [2015年6月2日掲載]

 口永良部島2015年5月29日噴火の噴出物の構成粒子解析を、防災科学技術研究所と共同で実施しました。解析に用いた試料は、気象庁、および屋久島在住の中川正二郎氏から提供していただきました。
 5月29日噴出物は、変質した岩片(~60%)、および新鮮でガラス光沢をもつ粒子(~30%)から構成されています(図2)。ガラス質光沢をもつ粒子は、鋭利な破断面で囲まれています。破断面にはしばしば収縮割れ目と考えられる微細な割れ目が発達しています。発泡度が低く緻密なものから比較的よく発泡したものまでさまざまなバリエーションがあるものの、気泡量が少なく、結晶度が高いものが大部分を占めています。これらの観察から、浅部で固結しつつあったマグマが破砕して噴出したものと考えられます。
 マグマ物質と考えられるガラス光沢をもつ粒子の比率は2014年8月3日噴出物に比べて明らかに増加しています。

図2 5月29日噴火の噴出物の構成粒子

図2 5月29日噴火の噴出物の構成粒子。マグマ物質と考えられる新鮮でガラス光沢をもつ粒子を矢印で示す。その他の粒子は、様々な程度に変質を受けた溶岩片および遊離結晶。

図3 5月29日噴火の噴出物の構成粒子。

図3 5月29日噴火の噴出物の構成粒子。矢印で示した粒子がマグマ物質と考えられる新鮮でガラス光沢をもつ粒子。

図4 比較的緻密なガラス質粒子

図4 比較的緻密なガラス質粒子。鋭利な破断面で囲まれる。表面には収縮割れ目と思われる微細な割れ目が発達する。石基ガラスには微細な気泡がみられる。

図5 比較的よく発泡したガラス質粒子。

図5 比較的よく発泡したガラス質粒子。鋭利な破断面で囲まれる。不定形の微細な気泡が発達する。

火砕流の分布と特徴 [2015年6月4日更新]

 空中写真等をもとに、火砕流等の分布を判読したところ、噴出物は火口から主に北方向に厚く堆積していることがわかりました。また、強い火砕サージは主に北西方向に発生し、新岳山頂火口から最大2kmまで到達したようです。

図6 2015年5月29日噴火による火砕流堆積物などの分布。(暫定図)

図6 2015年5月29日噴火による火砕流堆積物などの分布。(暫定図)
p: 火口周辺で火砕物が厚く堆積している地域。pf: ローブ状の厚い火砕流堆積物が見られる地域。d: 火砕物の堆積により植生がほぼ完全に破壊されている地域。倒木は顕著ではない。s: 火砕サージによる倒木が顕著な地域。倒木方向を矢印で示す。領域dとsの境界は漸移する。c: 火山灰に覆われ樹木が枯死している地域。a:その外側の降灰が顕著な地域。地域a以外にも降灰がみられる。各領域の北側の分布については、この地域の鮮明な写真が少ないため暫定的である。地形図は国土地理院の電子国土を使用した。

口永良部島の上空観察 [2015年5月31日掲載]

 噴火翌日の5月30日朝、読売新聞社の協力により口永良部島の上空観察を実施しました。向江浜川に沿って火砕流が流れ下った痕跡を確認できました。火砕流の上流部は比較的厚く堆積した火砕流堆積物が沢沿いなどに見られます。その下流側には、堆積物が薄く樹木がなぎ倒されている領域がみられ、高速の火砕サージ(希薄な火砕流)が発生したことが読み取れます。樹木がなぎ倒されている領域は、前田集落に迫っています.さらに外側には、樹木に火山灰が付着し灰色になっている領域がみられ、その一部では樹木の葉が黄変しています。

 火砕流の痕跡は主に新岳の北西側(向江浜川沿い)、南西側(砂防ダムの沢方面)および東側(七釜方面)に認められます。北西側の火砕流は海岸まで到達しています。東側のものは山腹で停止しています。南西側のものは降灰域と重なっているため到達距離は不明です。このうち、北西側の火砕流が最も顕著で、昨年8月3日噴火における火砕流の到達地点よりもさらに1㎞近く遠方まで到達しました。

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写真1 火砕流が流れ下った向江浜川の谷。右上方に白く筋状に見えるのが火砕流本体の堆積物。その手前の灰色の領域が希薄な火砕流(火砕サージ)が覆った領域。左下に前田集落が見える。

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写真2 向江浜川中流部の火砕流によってなぎ倒された樹木。画面右上から左下に向かって火砕サージの爆風がふきぬけたとみられる。

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写真3 新岳西山腹にみられる火砕流堆積物の作る扇状地。樹枝状に分岐するローブ状の構造が発達している。

2014年8月に発生した噴火概要・火山噴火予知連連絡会提出資料
口永良部島火山の過去の活動履歴と噴火推移

 下記をご覧下さい。

 口永良部島火山の噴火に関する情報[2014年8月]
 https://www.gsj.jp/hazards/volcano/kuchinoerabujima/2014/index.html

火山噴火予知連絡会資料

口永良部島火山の噴火に関し、産総研地質調査総合センターから火山噴火予知連絡会に提出した資料を公開しました。

[2016年2月18日掲載]

口永良部島火山ガス組成(PDF, 102KB)

[2015年9月28日掲載]

口永良部島:無人ヘリを用いた火山ガス観測結果(9月12日)(PDF, 217KB)

[2015年8月27日掲載]

口永良部島2015 年5 月29 日噴火の火砕流(PDF, 766KB)
口永良部島火山噴火推移図(PDF, 121KB)

[2015年7月31日掲載]

口永良部島湯向付近で採取された火山礫について(7月31日)(PDF, 683KB)

[2015年7月14日掲載]

口永良部島セスナ機を用いた火山ガス観測結果(7月7日)(PDF, 105KB)

[2015年7月2日掲載]

口永良部島2015年6月18日噴出物の構成粒子(PDF, 1MB)
口永良部島火山2015年5月29日噴出物に含まれるガラス光沢粒子(PDF, 330KB)

[2015年6月4日掲載]

口永良部島火山2015年5月29日噴火の火砕流等の分布 (PDF, 382 KB)
口永良部島セスナ機による火山ガス観測結果 (PDF, 343 KB)

[2015年6月2日掲載]

口永良部島火山2015年5月29日噴出物の構成粒子 (PDF, 533 KB)

[2015年5月31日掲載]

口永良部島2015年5月29日噴出物構成分析結果(速報)(PDF, 244 KB)
口永良部島2015年5月29日噴火の噴出物分布(速報)(PDF, 412 KB)
口永良部島火砕流シミュレーション結果(速報)(PDF, 536 KB)
口永良部島で行なった2015年4月14〜18日のガス観測結果(PDF:1.3 MB)

関連情報

 「数値地質図V-3 口永良部島火山地質データベース」は、口永良部島の火山地質、これまでの噴火の歴史や活動推移、噴火災害の実績、観測体制等について、地質図や写真を交えた解説文や代表的な噴出物の組成データなどをまとめたCD-ROM出版物です。 この度、「口永良部島火山地質図 1:25,000」と合わせてWeb公開しましたので、ご活用ください。

使用している写真および図表の出典および提供者については、データベース内の解説文や画像内にそれぞれ記されています。特に断りのない写真は、著者による撮影です。
なお、本コンテンツは作成当時のものです。また、ベクトルデータのダウンロードができません。ご了承ください。

  • 「火山地質図 No.14 口永良部島火山地質図(下司・小林,2007)」のラスターデータ
    地質図面(注1):(JPEG / 200dpi / 7.5MB)・解説面(注1):(JPEG / 200dpi / 7.2MB)

産総研地質調査総合センター