箱根火山の噴火に関する情報

 

箱根火山の噴火に関する情報[2015年6月29日]

活断層・火山研究部門
開設:2015年7月9日
2015年7月16日:火山噴火予知連絡会資料を追加

はじめに

   神奈川県箱根町の箱根火山大涌谷で2015年6月29日から7月1日にごく小規模の噴火が断続的に発生しました。それ以降も火山活動は活発な状態が続いています。
 産総研地質調査総合センターでは関連機関と協力して、6月30日から現地調査及び噴出物の解析を実施し、結果を火山噴火予知連絡会へ随時報告しています。また、本ウェブサイトを通じて、今回の噴火に関する研究情報を一元的に発信して参ります。なお、記載された内容は今後の調査研究の進展により修正・変更することがあります。

箱根火山の活動履歴

 箱根火山はフィリピン海プレートに属する伊豆半島と本州弧の衝突帯に位置し、周辺の断層系(平山および丹那断層系)の動きに関連づけられた開口割れ目(プルアパート構造)との関連が指摘されている活火山です(高橋・長井,2007など)。
 箱根火山は、従来、1個の大型成層火山を形成後、カルデラ形成期を挟んでカルデラ内での盾状火山の形成、さらに中央火口丘の形成に至ったと考えられてきました(例えば、Kuno, 1950など)。しかし、ボーリング調査等によるカルデラ内の構造の解明や、噴出物の年代測定データが蓄積されるにつれ、箱根火山の形成史の再検討がなされ、最近では、中規模の成層火山からなる火山群が複数の小型カルデラの形成・連結等を被ったとする山体形成モデルが提案されています(例えば、長井・高橋,2008;萬年,2008など)。
 箱根火山の形成は約65万年前から始まったと考えられています。初期には噴出中心の異なる複数の中~小規模の成層火山群が形成され(加藤,1984;平田,1999;高橋ほか,1999)、これと時期的に一部重複するように北西部および南東部にスコリア丘やスパッター丘などからなる側火山も形成されました。約25~16万年前にかけては、火砕流を伴うプリニー式噴火が複数回発生し、小規模なカルデラの連結・拡大により火山群中央部に古期カルデラが形成され、その周囲は古期外輪山として残されました。古期カルデラ内には、その後の活動によって、低平な火山体(新期外輪山)が成長しましたが、箱根東京テフラ(約6万年前)に代表される火砕流噴出を伴う大規模な軽石噴火が繰り返し発生したことで新期カルデラが形成されました。箱根東京テフラに伴う軽石流は、特に規模が大きく、その分布域の東縁は横浜市付近にまで達します。
 約4万年前以降には、駒ヶ岳、二子山、神山などからなる中央火口丘が新期カルデラ内に成長しました。最新のマグマ噴火は、神山山体崩壊の直後に発生した冠ヶ岳の噴火(約3,200年前)で、溶岩ドーム形成に伴い火砕流も発生しています(小林ほか,1997)。また、それ以降にも数回の水蒸気噴火の痕跡が確認されており、堆積物として残されている最新の水蒸気噴火は12-13世紀のものです(小林ほか,2006)。

図1 箱根火山周辺の地質図(20万分の1地質図幅「静岡及び御前崎」と「横須賀」を接合したもの)。大涌谷に新たに形成された火口の位置と主な降灰方向を示した。

図1 箱根火山周辺の地質図(20万分の1地質図幅「静岡及び御前崎」と「横須賀」を接合したもの)。大涌谷に新たに形成された火口の位置と主な降灰方向を示した。

今回の噴火概要と対応 [2015年7月9日掲載]

 気象庁の情報によると、2015年4月26日から大涌谷を震源とする火山性地震が増加し、5月6日に噴火警戒レベルが1から2へ引き上げられていました。6月中旬には地震の回数は減少傾向が見られていましたが、6月29日7時30分ころより火山性地震が再び増加し、観測史上初めてとなる火山性微動も確認されました。また、箱根火山の大涌谷から北に約1.2kmの上湯場付近で29日12時45分頃に気象庁により降灰が確認されました。翌30日には大涌谷で小規模な火砕丘が確認され、30日には噴火警戒レベルが2から3に引き上げられました。
 地質調査総合センターでは、噴火状況と噴火推移を把握するために、29日の噴出物の解析を実施するとともに、30日から現地に研究者を派遣し、調査と解析を進めています。

2015年6月29~30日の降灰分布 [2015年7月9日掲載]

 6月30日に山梨県富士山科学研究所、防災科学技術研究所、神奈川県温泉地学研究所の研究者と合同調査を実施し、6月29日から30日までに降下した火山灰の分布から堆積量を見積りました。その結果、今回新たに形成された火口から約4kmまで降灰が確認され(調査における現地の降灰状況は写真1)、堆積量は約40~130トンと推定されました。ただし、この算出量には、火口近傍に形成された火砕丘の量は含まれていないため、実際の噴出量はより大きくなる可能性があります。今回新たに形成された火口から噴出した量は御嶽山2014年噴火や口永良部島2015年5月噴火での降下火山灰の噴出量に比べて3~4桁少なく、降下火山灰の規模としては極めて小規模です。
 調査中には大涌谷下流部の沢で水の濁りも見られ、火口近傍で確認された泥流発生に関連したものと思われます(写真3)。

写真1 6月30日13:20頃、大涌谷から東北東へ約1.5km箱根ロープウェイ早雲山駅での降灰状況。

写真1 6月30日13:20頃、大涌谷から東北東へ約1.5km箱根ロープウェイ早雲山駅での降灰状況。

写真2 6月30日14:40頃、大涌谷から北へ約1km上湯場付近での降灰状況。

写真2 6月30日14:40頃、大涌谷から北へ約1km上湯場付近での降灰状況。

写真3 6月30日の大涌谷下流部(大涌沢と早川の合流点付近)の様子。

写真3 6月30日の大涌谷下流部(大涌沢と早川の合流点付近)の様子。

2015年6月29日及び30日の噴出物 [2015年7月9日掲載]

 気象庁により6月29日に大涌谷から北に約1.2kmの上湯場付近で採取された噴出物と、産総研による30日の現地調査の際に採取された噴出物について、実体顕微鏡による観察とX線回折による鉱物組成解析を実施しました。その結果、構成粒子はほぼ全てが熱水変質を受けた粒子で、新鮮なマグマ物質を含まないことがわかりました。29日と30日の噴出物の構成粒子の特徴に違いは見られませんでした。構成鉱物解析からは、主要な鉱物は比較的低温の熱水変質による鉱物であることがわかり、熱水変質帯の浅所部分が噴火活動で放出されたと考えられます。

写真4 6月29日(左)と6月30日(右)の噴出物の構成粒子(実体顕微鏡写真)。

写真4 6月29日(左)と6月30日(右)の噴出物の構成粒子(実体顕微鏡写真)。

火山噴火予知連絡会資料

箱根火山の噴火に関し、産総研地質調査総合センターから火山噴火予知連絡会に提出した資料を公開しました。

[2015年7月16日掲載]

箱根火山,大涌谷から流出した熱泥流の構成鉱物(XRD 分析結果)(PDF, 1.1MB)

[2015年7月6日掲載]

箱根火山2015年6月29日及び30日に噴出した火山灰構成粒子(PDF, 196KB):(2015年7月3日に気象庁に提出)

[2015年7月3日掲載]

箱根火山2015年6月29-30日噴火による降灰分布(速報値)(PDF, 1.7MB):(2015年7月3日に気象庁に提出)
箱根火山2015年6月30日に降下した火山灰の構成鉱物(PDF, 1MB):(2015年7月2日に気象庁に提出)

[2015年7月1日掲載]

箱根火山2015年6月29日に降下した火山灰の構成鉱物(PDF, 2.5MB):(2015年6月30日に気象庁に提出)

関連情報

 産総研・地質調査総合センターでは、箱根火山に関して、以下の情報を公開しています。

問い合わせ先

産総研地質調査総合センター