2014年11月22日長野県北部の地震

第二報 地表地震断層緊急調査報告(1) [2014年11月26日]

2014/11/26 作成

活断層・火山研究部門 活断層評価研究グループ
近藤久雄・勝部亜矢・谷口 薫

産業技術総合研究所活断層・火山研究部門では、地震発生後の11月23日から25日まで、震源域南方の神城盆地から北へ向かって約5km区間の地表踏査を実施し、断続的に連なる地表地震断層と地表変状の分布を確認した。変位量の計測は、メジャーおよびハンドレベル、歩測等による簡易測量を実施し、可能な限り上下変位、水平短縮、横ずれ変位の三成分を計測した。地表地震断層および地表変状の分布を図1に示す。

図1 長野県北部の地震に伴う地表地震断層および地表変状の分布.
図1 長野県北部の地震に伴う地表地震断層および地表変状の分布。基図は、国土地理院発行の都市圏活断層図(東郷ほか、1999;澤ほか、1999)。

その結果、地表地震断層の南端は、北安曇郡白馬村神城堀ノ内集落の南方を東西方向に流れる谷地川付近であることを確認した(写真1)。これより南では側方流動などの地表変状はみられるものの、既知の活断層トレースに沿って地表地震断層は認められなかった。以下では、南から北に向かって地表地震断層の性状について地点毎に概略を記述する。

谷地川付近の地震断層南端付近から北方へ向かって、地表変位量は大局的に増加する傾向を示す(写真1〜8)。堀之内集落南を東西に延びる道路上では、ガードレールに短縮変形が生じ、約20cmの水平短縮量が認められた(写真2)。この地点では、鈴木・渡辺(2014)によって、地表地震断層による水平短縮の可能性がある場所として報告されている。写真3の地点における舗装道路ではアスファルト面が短縮変形によりバックリングを生じており、側溝の短縮量と合算して、同地点での水平短縮量が36cmと計測された。さらに北に位置する写真4の地点では、神城断層を東西に横断する道路に沿う複数の側溝に短縮変形がみられ、合計の水平短縮量28cmが認められた。

写真5の地点では、明瞭な地表地震断層がほぼ東西方向に生じており、相対的に東側が隆起する上下変位20cm、みかけの左横ずれ20cmが認められる。この地点は、鈴木・渡辺(2014)が地震断層として報告した場所と同一とみられる。さらに約150m北方では、姫川にかかる橋脚の東端に顕著な短縮変形が生じている。この地点では、水平短縮が約90cmと予察的に計測されるが、より精密な測量によって正確な変位量を計測する必要がある。ここより写真7の地点に至る区間では、地表地震断層は姫川に沿って延びているものとみられる。

写真7の地点ではN45ºWで延びる地表地震断層が、ほぼ南北に延びる県道33号線を斜行する。県道および側道には、北東側が相対的に隆起する約50-70cmの上下変位と撓曲変形が生じている。さらに、写真8の地点では、約260mの区間にわたり複数の水田に東側隆起の撓曲変形が生じており、上下変位約20-50cmが計測された。これらの小規模な撓曲崖の大局的な走向はN20ºEであるが、一部ではN24ºWからN46ºEへと走向を変えて大きく湾曲しながら連続し、地表付近の断層傾斜が極めて低角であることを示す。

白馬村深空の東に位置する写真9および写真10の地点の周辺では、約10cmの上下変位を伴う地表地震断層が、不明瞭ながら約1kmの区間にわたり断続的に分布する。これより北方では、白馬村大出において上下変位約40cm、塩島において約90cmの上下変位が報告(廣内ほか、2014)されていることから、地表地震断層の長さは少なくとも7km以上と考えられる。現状では、塩島において最大変位が確認されており、地震断層端で最大変位が生じたとは考えにくいため、今後の調査によって地震断層が塩島よりも北方に延びることが明らかになる可能性が高い。

今後、引き続き詳細な地表踏査と高精度測量による変位量分布の解明、古地震調査等を実施し、長野県北部の地震に伴う地表地震断層の全体像を明らかにする。

地表地震断層と判断した地点の写真

写真1

白馬村神城堀之内、谷地川北岸にみられる短縮変形。水平短縮量は約5cm。

写真2

堀之内集落南の道路沿いガードレールに見られる短縮変形。写真は西へ向かって撮影。水平短縮量は約20cm。鈴木・渡辺(2014)が地表地震断層の可能性があると指摘。

写真3

堀之内集落西側、東西方向の舗装道路にみられる短縮変形。写真は北へ向かって撮影。水平短縮量は36cm。右奥の送電線鉄塔から左手の田圃にかけて、奥村ほか(1998)による堀之内地区トレンチ調査および今泉ほか(1997)による地層抜き取り調査が実施され、ほぼ水平な断層と撓曲変形が確認されている。

写真4

堀之内集落西側、東西方向の舗装道路にみられる短縮変形の1つ。写真は北へ向かって撮影。水平短縮量の総計は28cm。東へ向かって撮影。

写真5

飯田集落北東、田圃および未舗装道路にみられる短縮変形。鈴木・渡辺(2014)が地震断層として報告している。上下変位量は20cm、左横ずれ変位は20cm。

写真6

飯田集落北東、橋脚にみられる短縮変形。写真は東へ向かって撮影。予察的な水平短縮量は約90cm。

写真7

飯盛集落東、県道33号線および側道にみられる撓曲変形。写真は北へ向かって撮影。上下変位量は約50-70cm。

写真8

飯盛集落東、田圃にみられる撓曲変形。写真は南へ向かって撮影。上下変位量は約20-50cm。

今後,詳細調査をおこなう地点の写真

写真9

深空集落東、畑にみられる微弱な撓曲変形。写真は南西へ向かって撮影。この地点については、応用地質(株)黒澤英樹氏の第一報による。

写真10

深空集落東、舗装道路にみられる短縮変形。写真は西へ向かって撮影。この地点については、応用地質(株)黒澤英樹氏の第一報による。

その他の地表変状を確認した地点の写真

写真11

三日市場集落西、舗装道路の側方流動に伴う開口亀裂。写真は南西へ向かって撮影。

写真12

飯田集落東、水田に形成された地すべりに伴う開口亀裂。写真は南へ向かって撮影。

写真13

飯田集落東、水田に形成された液状化。写真は北西へ向かって撮影。

写真14

飯盛集落東、姫川沿いの地すべりに伴う開口亀裂。写真は東へ向かって撮影。

参考資料

廣内大助・杉戸信彦・清水龍来:2014年11月22日長野県神城断層地震における地表変位について(速報).日本活断層学会メーリングリスト(2014年11月24日付)
今泉俊文・原口 強・中田 高・奥村晃史・東郷正美・池田安隆・佐藤比呂志・島崎邦彦・宮内崇裕・柳 博美・石丸恒存:地層抜き取り調査とボーリング調査による糸静線活断層系・神城断層のスリップレートの検討.活断層研究、16,35-43、(1997)
奥村晃史・井村隆介・今泉俊文・東郷正美・澤 祥・水野清秀・苅谷愛彦・斉藤英二:糸魚川-静岡構造線活断層系北部の最近の断層活動 -神城断層・松本盆地東縁断層トレンチ発掘調査.地震第2輯,50、35-51、(1998)
澤 祥・東郷正美・今泉俊文・池田安隆・松多信尚:都市圏活断層図[白馬岳]、国土地理院技術資料D. 1-No. 368、(1999)
鈴木康弘・渡辺満久:堀之内北北西約1kmの地点で水田面に明瞭な変位を確認.日本活断層学会メーリングリスト(2014年11月25日付)
東郷正美・池田安隆・今泉俊文・澤 祥・松多信尚:都市圏活断層図[大町]、 国土地理院技術資料D. 1-No. 368、(1999)

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