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地質調査研究報告 Vol.77 No.3/4(2026)

特集:九州北西方沖の海洋地質調査 —2024年度調査航海結果—

表紙

2024年度九州北西方沖海洋地質調査

2024年度九州北西方沖海洋地質調査  地質調査総合センター(GSJ)では1970年代から日本周辺海域の20万分の1海洋地質図を発行している.2023年度から沖縄トラフ北東端部調査の一環として,九州北西方沖海域を対象とした調査を実施し ている.本特集号では,2024年度に実施した反射法地震探査,海底地形調査,磁力調査,表層堆積物調査の結果について報告する.

左:調査後のグラブ採泥器と夕日
右上:航走調査時の船尾からの風景.船後方からエアガン,ストリーマケーブル,磁力計を曳航する.
   船尾の海面に見える複数の白い気泡の塊はエアガンの発振による.
右下:五島灘から南方の甑島列島と夕焼けを望む

(写真と文:井上卓彦)

目次

全ページ PDF : 77_03_full.pdf [85.2MB]

タイトル著者PDF
巻頭言
九州北西方沖の海洋地質調査 —2024 年度調査航海結果— 井上卓彦・板木拓也・天野敦子・三澤文慶 77_03_01.pdf [1.3MB]
概報
GS24及びGB24航海での九州北西海域における海底地形観測の概要 高下裕章・佐藤太一・古山精史朗 77_03_02.pdf [7.8MB]
GS24及びGB24航海による九州北西方海域の磁気異常観測の概要 佐藤太一・高下裕章 77_03_03.pdf [2.7MB]
反射法音波探査に基づく天草灘及び周辺海域の地質構造に関する予察的検討 有元 純・石野沙季・井上卓彦 77_03_04.pdf [52.8MB]
GS24航海での高分解能サブボトムプロファイラー探査に基づく五島灘・天草灘周辺海域の海底下浅部構造 三澤文慶・古山精史朗・高下裕章・有元 純 77_03_05.pdf [9.5MB]
東シナ海北東部及び男女海盆北部における海底堆積物採取調査の概要 清家弘治・飯塚 睦・板木拓也・見邨和英・鈴木克明・吉岡純平・小林元樹・有元 純・桑野太輔・山﨑 誠 77_03_06.pdf [4MB]
GB24航海におけるCTD 観測に基づく九州西方沖の水塊構造 見邨和英・清家弘治・板木拓也・飯塚 睦・鈴木克明・鈴木 淳 77_03_07.pdf [2.7MB]
GB24航海で取得した九州西方沖の海底岩石試料及び堆積岩の石灰質ナノ化石年代 石野沙季・有元 純・宇都宮正志・清家弘治 77_03_08.pdf [5.5MB]
九州北西海域(GB24航海)で採取された海底堆積物の化学組成 久保田 蘭・立花好子・清家弘治・板木拓也・鈴木克明 ・飯塚 睦・見邨和英 77_03_09.pdf [2.4MB]
鹿児島県甑島列島北西沖における現生貝形虫群集(予報) 佐々木聡史・鈴木優翔・中野太賀・清家弘治 77_03_10.pdf [1.5MB]
九州西方海域からGB24航海により採集された無藻性イシサンゴ 徳田悠希・千徳明日香・白水菜南子・清家弘治 77_03_11.pdf [2MB]

要旨集

GS24及びGB24航海での九州北西海域における海底地形観測の概要

高下裕章・佐藤太一・古山精史朗

 九州北西海域において,海域地質図作成のための調査の一環として2024年度の調査航海(GS24及びGB24)においてマルチビーム音響測深機(MBES)による地形測量を実施し,高解像度海底地形を作成した.本稿では2024年度の航海(GS24及びGB24)について報告するとともに同海域において実施した2023年度の航海(GS23及びGB23)で取得した地形データをコンパイルし,調査対象海域で明らかになった海底地形,並びにその解釈について報告する.

GS24 及びGB24 航海による九州北西方海域の磁気異常観測の概要

佐藤太一・高下裕章

 九州北西方海域において,海域地球物理図作成を目的とした地磁気観測を実施し,曳航式全磁力計の観測値に基づき全磁力異常図を作成した.調査海域は全域にわたり短波長から長波長の磁気異常が複雑に分布していることが特徴である.まず,五島列島東方から南東方の海域では,短波長の磁気異常が複雑なパターンを示すことが明らかとなった.これは周辺の島嶼部で見られる火成岩類が海底表層にも存在し,それらに起因していると考えられる.一方で,台湾–宍道褶曲帯の基盤岩による正の磁気異常帯からは離れており,その火成活動の解釈については総合的な検討が必要である.さらに長崎半島・長崎海脚・男女海盆北部への南西方向にも変成岩類相当に分類される構造に沿って,正負の磁気異常帯ないし複数の磁気異常が分布していることも明らかとなった.また天草灘においてもダイポール型磁気異常が点在していた.

反射法音波探査に基づく天草灘及び周辺海域の地質構造に関する予察的検討

有元 純・石野沙季・井上卓彦

 九州西方海域において20万分の1海底地質図を作成するため,2023年度に引き続いて,GIガンを音源とするマルチチャネル反射法音波探査を実施した.本稿では沖縄トラフ北端部を含む,西南日本弧九州西方沖の天草灘周辺海域を対象として,2次元断面に認められる地質構造について予察的に解釈した.調査海域の海底下地質体に,音響基盤とそれを覆う堆積層を認定した.中新統や古第三系の堆積岩類,あるいはより古い基盤岩類に対比される音響基盤は,沿岸部や,海脚・海丘など海底地形の高まり部分で浅部に分布するが,沖縄トラフ周縁の斜面海底下でトラフ側に向かって急傾斜する.本調査で認められた堆積層は,おおむね鮮新統–第四系に対比される.陸棚域に分布する堆積層には,複数層準に累重するクリノフォームが広く分布している.男女群島周辺の東シナ海陸棚域では,海底面の侵食地形や埋積されたチャネル構造などが認められる.一方,斜面部から海盆底にかけて分布する,連続性の良い反射面からなる堆積層は,斜面下部以深で層厚を増し,トラフ側の継続的な沈降を示唆する.五島灘堆積盆と天草灘堆積盆を画する長崎海脚及びその延長部は,音響基盤と著しく変形した下位堆積層の高まりからなり,その周縁部を含む天草灘周辺海域の海底下には褶曲構造が発達する.調査海域には高角の正断層群が卓越するが,これらの多くは横ずれ引張応力場を背景として発達した横ずれ断層群に位置付けられる.さらに,本稿で記載された褶曲・断層構造の多くは鮮新世–更新世に形成されたと考えられる.

GS24航海での高分解能サブボトムプロファイラー探査に基づく

三澤文慶・古山精史朗・高下裕章・有元 純

 GS24航海では,2024 年9月から10月の期間に東京海洋大学の神鷹丸を用いて,長崎西方沖の五島灘・天草灘周辺海域で高分解能サブボトムプロファイラー探査を行い,本海域の海底下浅部に関する地質情報を取得した.本論では,本探査により明らかになった五島灘・天草灘周辺海域の海底下浅部の地質構造をまとめる.本海域の陸棚部分では,九州島側の沿岸部に不整合面が認められた.この不整合面に認められる凹凸は,この地質体が過去に浸食を受けた痕跡と考えられる.五島海底谷では谷及び谷底部分の堆積層の形状が明らかになった.また,長崎海脚及びその延長部の南東麓に沿って海底まで到達した高角な断層が認められ,活断層の可能性が高い.

東シナ海北東部及び男女海盆北部における海底堆積物採取調査の概要

清家弘治・飯塚 睦・板木拓也・見邨和英・鈴木克明・吉岡純平・小林元樹・有元 純・桑野太輔・山﨑 誠

 海域地質図プロジェクトの一環として,東シナ海北東部及び男女海盆北部において海底地質調査航海GB24が実施された.調査海域の大部分は水深200 mよりも浅いが,五島列島福江島の南西部には水深400–600 mの五島海底谷が,また五島列島の南には最深部の水深が約800 mの男女海盆が存在する.本航海では,木下式グラブ採泥器,大口径グラビティコアラー,ロックコアラーを用いた表層採泥・柱状採泥・岩石採取を計141地点で実施した.そのうち139地点において木下式グラブ採泥器によりサンプルを採取した.ここでは,主に木下式グラブ採泥器により得られた海底堆積物試料について報告する.五島列島北西部と南部,天草諸島の西部においては含泥率の低い極細粒砂から中粒砂が見られた.男女海盆では泥質堆積物が卓越していたが,地形的な高まりでは含泥率の低い細粒砂から細礫,あるいは露岩が分布していた.採泥試料には多くの大型ベントス生体や貝殻などの生物遺骸が含まれ,その中には灰色を呈する化石も含まれていた.本概報では堆積物試料に含まれていた環形動物類,及び石灰質ナノプランクトン群集や浮遊性・底生有孔虫群集に関する予察的な内容も報告する.

GB24航海におけるCTD 観測に基づく九州西方沖の水塊構造

見邨和英・清家弘治・板木拓也・飯塚 睦・鈴木克明・鈴木 淳

 2024年10–11月にかけて実施されたGB24航海において,採泥器にCTDプロファイラーを取り付けることにより,九州西方沖の計108地点で海水の水温・塩分・溶存酸素濃度の観測を行った.調査海域の表層水は,おおむね黒潮を起源とする対馬海流の寄与を受けていると考えられ,深部では,高塩分な北太平洋亜熱帯モード水や低温の北太平洋中層水の寄与が見て取れた.閉鎖的な八代海や有明海の出口に当たる一部海域では,高温で低塩分な表層水や,高温で低溶存酸素濃度の底層水が確認された.

GB24航海で取得した九州西方沖の海底岩石試料及び堆積岩の石灰質ナノ化石年代

石野沙季・有元 純・宇都宮正志・清家弘治

 GB24航海では,九州西方海域の五島列島周辺及び男女海盆北部周辺において海底表層試料の採取を行った.グラブ採泥地点のうち,合計17地点で岩石試料が得られた.これらの岩石試料が採取された地点の多くは,男女海盆北方の斜面域に広範囲に分布する.さらに,音波探査断面から露頭の存在が推定される地点において,ロックコアラー(Site GB24-RC02)及びKグラブ(Sites GC15-KG,GC16-KG)による岩石採取を試みた.ロックコアラーでは試料を回収できなかった一方で,Kグラブで得られた試料には堆積岩に加え,花崗岩や変成岩など多様な岩相の礫が含まれていた.本航海で採取された堆積岩から14試料を選定し,石灰質ナノ化石群集を検討した.その結果,一部の試料が中部更新統以上に属することが明らかとなった.

九州北西海域(GB24 航海)で採取された海底堆積物の化学組成

久保田 蘭・立花好子・清家弘治・板木拓也・鈴木克明 ・飯塚 睦・見邨和英

 九州北西海域で採取した海底表層堆積物130試料について23元素を定量し,化学組成の特徴や分布特性を検討した.分析対象元素の中では,CaO,T-Fe2O3,Al2O3が比較的高濃度で,微量元素ではSr及びBaの濃度が高い.粒度の細粒化に伴いCaOとSrは減少し,Al2O3やK2Oなどは高濃度になる傾向が確認された.全試料を通じてCaO–Sr及びK2O–Rb濃度間に正の相関が認められることから,CaとSrは生物遺骸粒子,AlやK,Rbは珪長質砕屑物の寄与を示すと考えられる.これより,五島海底谷周辺や五島列島西部の海域では生物遺骸粒子,天草灘周辺海域では陸源性砕屑物の供給が相対的に多いと推察された.男女海盆深部ではNi,Cu,Zn,Pbなど硫化物に濃集しやすい元素の濃度が高い傾向があった.今回調査した海域ではTiO2濃度が低く,苦鉄質火山岩由来砕屑物の影響は限定的であった可能性がある.

鹿児島県甑島列島北西沖における現生貝形虫群集(予報)

佐々木聡史・鈴木優翔・中野太賀・清家弘治

 甑島列島北西部から採取された海底表層堆積物6試料の現生貝形虫群集分析に基づいて,現生貝形虫の分布と海底環境の評価について検討を行った.結果として,少なくとも31属52種の貝形虫が確認された.産出した貝形虫群集を定量的に識別するため,Q-モードクラスター分析を行った.その結果,2つの貝形虫相(A,B)が識別された.貝形虫相Aは,5試料から構成された. この生物相は,Krithe属やFalsobuntonia属などの漸深海から深海で主に生息している種が産出した.一方,貝形虫相Bは,1試料から構成された.この生物相は,Neonesidea属やXestoleberis属など海藻や海草に付着して生息している葉上種が産出した.貝形虫相Bは,海流などの影響によって他の地点から流されてきた異地性個体を含んでいる可能性が高いと考えた.

九州西方海域からGB24航海により採集された無藻性イシサンゴ

徳田悠希・千徳明日香・白水菜南子・清家弘治

 東シナ海南部における無藻性イシサンゴの多様性に関する包括的研究は,これまでほとんど行われていない.本研究では,GB24航海において木下式グラブ採泥器で採集した標本に基づき,九州西方海域の無藻性イシサンゴの多様性を評価した.その結果,9科22属20種が認められた.本結果は,南西諸島から東シナ海に向けて無藻性イシサンゴの多様性が減少する傾向を示唆する.採集地点ごとの属の多様性については,調査域南部の男女群島周辺の陸棚域や男女海盆北方の陸棚斜面上の曾根付近において高い傾向が認められた.一方で,陸棚斜面及び男女海盆内においては,イシサンゴはほとんど採集されず,採集された場合でもその多様性は低い傾向にあった.しかし,男女海盆北側の水深751 mのGC15地点においては,例外的に生息場形成に寄与するイシサンゴ(habitat-forming corals)が多数採集された.