2014年11月22日長野県北部の地震

第五報 温泉湧出緊急調査報告(1) [2014年12月25日]

2014/12/25 作成

佐藤努1)・落唯史2)・高橋正明1)・松本則夫2)・風早康平1)・高橋浩1)・稲村明彦1)・半田宙子1)
1)産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門 深部流体研究グループ
 2)産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門 地震地下水研究グループ

 2014年11月22日22時8分,長野県白馬村を震央とするマグニチュード6.7の地震が発生した.地震の翌日の11月23日には,白馬村の北側に位置する小谷村の千国地区において,道路脇から低温の温泉がガスと共に湧出しているのが発見されている.この温泉湧出について,12月2日~3日,および12月18日~19日の2回にわたって調査を行い,湧出量や水温等を測定し,温泉水と温泉ガスを採取した.その結果の概要を報告する.

 
1)湧出状況
 温泉湧出が起きたのは小谷村千国地区で,JR千国駅から北に300mほどの場所である(図1).道路脇から灰色に濁った低温の温泉が湧出しており,砂や粘土,温泉ガスの噴出を伴っている(写真1).水温は12月2日の調査時で26.4℃,湧出量は毎分75リットルであった.
 周囲の方々の証言によると,地震の翌日の11月23日に道路が真っ白になっているのが発見され,それは温泉の湧出からもたらされた砂や泥によるものであった.湧出量は,発見当時からは減少しているという.

図1 温泉湧出場所図1 温泉湧出場所

写真1 温泉湧出の様子写真1 温泉湧出の様子


2)温泉水や温泉ガスの分析結果
 2014年12月2日に採取した温泉水および温泉ガスの主要化学組成を,それぞれ表12に示す.温泉水の主要成分は重炭酸ナトリウムで,温泉ガスの主要成分はメタンであった.
表1 温泉水の主要化学組成の分析結果

表1 温泉水の主要化学組成の分析結果

表2 温泉ガスの主要化学組成の分析結果表2 温泉ガスの主要化学組成の分析結果


3) 湧出量等の変化
 温泉水の湧出量を,ビニール袋を用いた全量法によって測定した.その結果,1回目の調査時は毎分75リットル(12月2日15時)と毎分86リットル(12月3日10時)であった.2回目の調査時は,毎分60リットル(12月18日16時)と毎分39リットル(12月19日の10時)であった.温泉の湧出に関しては,間欠的にガス量が増減することが観察されており,温泉水の湧出量についても日や時間によって大きく変動していることが予想される.なお湧出場所の範囲について,1回目と2回目の調査時の様子を比較すると,明らかに2回目の方が湧出範囲は狭くなっていた.
 温泉ガスの噴出量について,2回目の調査時の測定値は毎分5リットル(12月19日10時)であった.
 水温,pH,電気伝導度について,1回目と2回目の調査時の測定値はほぼ同じ値であった.

4) 湧出の原因や今後の調査について
 周囲の方々の証言によると,今回の温泉湧出地点のすぐ西側にはもともと低温の温泉が湧いていたという.その湧出は1989年ごろの国道の工事によって止まってしまったようであるが,今回の地震をきっかけにして再び湧き出した可能性が考えられる.
 湧出のきっかけとなった要因は,過去の事例を参考にすると地震による強震動や地殻歪変化などが考えられ,今度検討を行う予定である.温泉湧出には大量の砂や泥が含まれており,温泉ガスの主成分がメタンであることから,両者の起源が同一であると仮定すると,「有機物を含む砂や泥の堆積層において強震動による液状化が生じ,その堆積層を帯水層とする低温の温泉水が湧出」した可能性が考えられる.一方,古来から温泉が湧出していた場所であることから,温泉の通り道に堆積した温泉変質物が泥として流出している可能性も考えられる.
 温泉の湧出量は,周辺の方々の証言や今回の2回の調査結果の比較を参考にすると,減少傾向にあると考えられる.もし,湧出の主な原因が堆積層における液状化であるならば,湧出によって帯水層内の圧力が解放されればこの温泉湧出は停止すると考えられる.なお今後は,東京大学理学部と共同観測を行う予定である.

謝辞

 本調査にあたり,多忙な中にもかかわらず小谷村総務課企画財政係より情報やご助言をいただきました.貴重な証言をいただいた湧出場所の周辺の方々も含め,関係の皆様に厚く御礼を申し上げます.

問い合わせ先

産総研地質調査総合センター