2014年11月22日長野県北部の地震

第四報斜面変動緊急調査報告(1) [2014年12月10日]

2014年12月10日 作成

小松原琢1)・宮地良典1)・水野清秀1)・八木浩司2)
1)産業技術総合研究所地質情報研究部門平野地質研究グループ
 2)山形大学地域教育文化学部

 長野県北部の地震に伴って地すべり・斜面崩壊が発生していることが懸念されたので,同年12月1日~12月3日の3日間にわたって余震域周辺の長野県小谷村および白馬村で斜面変動に関する聞き取り及び地表調査を行った.その結果,以下の知見を得た.
 
1)斜面変動の分布状況概要
 国土交通省松本砂防事務所姫川出張所および長野県姫川砂防事務所の情報によると,姫川左岸では稗田山の大規模崩壊地を含めてめだった斜面変動は発生していない.一方姫川右岸では地すべり・斜面崩壊が発生しており,すでに一部では対策工事が始められている.

2)斜面変動の密度と規模の概要
 姫川右岸の余震域周辺では密度・規模とも比較的小さいながら,地すべり・表層崩壊が発生している.多くの地すべり・表層崩壊の頭部は遷急線上に位置し,崩壊物質の一部は谷底に到達している.

3)斜面変動の移動物質の概要
 地すべり・表層崩壊が発生した斜面は概観した限りにおいては清水ほか(2000)に示された地すべり地形の内部ないしその周辺で発生している例が多い.表層崩壊の崩壊物質は,地すべり堆積物のほか,新第三系堆積岩と時代未詳の超苦鉄質岩とさまざまである.一方今回重点的に調査した余震域北端部の小谷村中谷集落周辺では地すべり堆積物に由来し一部泥状になった地すべり物質が移動している.

4)小谷村中谷集落周辺の地すべり
 重点的に調査を行った小谷村中谷地区(第1図)では,中谷川の左岸(カクレ沢地すべり)と右岸(八方岩地すべり)で深さ数mないしそれ以深のすべり面を持つと考えられる地すべりが発生している(第2図).この地域は余震域よりやや北に逸れた場所にあたる(第1図).

第1図震央および余震分布と重点調査地区(国土地理院作成の地理院地図に加筆)第1図 震央および余震分布と重点調査地区(国土地理院作成の地理院地図に加筆)

 第2図中谷周辺の地すべりと地すべり指定地(基図は地理院地図)第2図 中谷周辺の地すべりと地すべり指定地(基図は地理院地図)

 中谷川左岸の地すべりは,移動体の輪郭が幅50~100m,長さ550m,頭部滑落崖(写真1)の比高約10mの規模をもつ.この地すべりは鮮新統・雨中(うちゅう)層の泥岩を基岩として(中野ほか,2002),それを覆う地すべり堆積物が主たる滑落物質となっていると考えられる.なお,雨中層の構造は塊状であるが,地質図に示された走向傾斜から受け盤をなすと考えられる.

写真1 中谷川左岸の地すべり(カクレ沢地すべり)の主滑落崖頭部写真1

中谷川左岸の地すべり(カクレ沢地すべり)の主滑落崖頭部

 この地すべりは既存の地すべり地形(清水・井口・大八木,2000)の内部で発生した.また,平成21年に発行された長野県姫川砂防事務所の管内図で地すべり防止区域に指定されていることが明記され,地すべりで滑落した斜面には砂防堰堤やコルゲート管が設置されていた.地すべりの最下部には平成12年度にスリットダムが施工されており,このスリットダムによって滑落物質が止められ,下流側の集落にはめだった被害は生じていない.
 この地すべりの滑落物質は写真2に示すように一部が泥状化した地すべり堆積物であり,流動性が高いと考えられる.また,地すべりの移動体内に少なくとも2段の二次的な滑落崖が形成されている.

写真2 中谷川左岸の地すべり(カクレ沢地すべり)頭部の泥状化した滑落物質写真2

中谷川左岸の地すべり(カクレ沢地すべり)頭部の泥状化した滑落物質

 この滑落に伴って最下部のものを除く既存の土止工(蛇かご積および鋼製)やコルゲート管はほぼ全部破壊されている.
12月2日の調査当時,長野県によりスリットダム下流側に待ち受け堰堤の建設が始まっており,迅速に対応されている様子がうかがわれた.

 中谷川右岸には2つの地すべりブロックが認められる.このうち,中谷西集落中に位置するものは幅50m,長さ100m程度と比較的小規模なものであるが,複数の家屋を倒壊させた.また,中谷西集落北東から松本集落西方に至る斜面の地すべりは,幅300~400m,長さ400m程度とこの地震による地すべりの中では大規模なものの1つである.中谷川左岸は上部中新統・前沢層の砂質泥岩が分布する(中野ほか,2002).中谷川左岸の前沢層は塊状をなすが,中野ほか(2002)の地質図によると今回の地すべりに対して流れ盤の構造を持っている.地すべりの移動物質は主として前沢層を覆う地すべり堆積物であると考えられる.
 中谷集落中の地すべりは比高3~5mの主滑落崖,移動体内部の比高2~3mの二次滑落崖からなり,馬蹄形の移動土塊を5~10mずれ動かしている.この地すべりは地すべり地形(清水・井口・大八木,2000)および既定の地すべり指定地(長野県姫川砂防事務所,2009の八方岩地すべり)の側部に位置し,滑落物質は地すべり堆積物と考えられる.また,中谷川左岸の地すべりとは異なって,塊状の土塊が動いている.12月2日の調査当時,主滑落崖に伸縮計が設置されており(写真3),対策が進みつつある状況であった.

写真3 中谷西集落に被害を与えた地すべりの主滑落崖 (伸縮計が設置されている)写真3

中谷西集落に被害を与えた地すべりの主滑落崖 (伸縮計が設置されている)

 一方,中谷西集落北東方から松本集落西方の斜面のものは,清水ほか(2000)の地すべり地形および長野県姫川砂防事務所(2009)の八方岩地すべり指定地の輪郭とほぼ一致して,尾根直下に比高2~10mの主滑落崖があり(写真4),上部に二次的な雁行する複数の滑落崖を伴う移動体をもつ地すべりである.滑落崖には大部分で地すべり堆積物が露出しているが,一部では基盤岩(泥岩?)と考えられる岩が露出する.また,主滑落崖の頭部では湧水が発生しており(写真5),湧水の周辺では滑落物質が泥状化している.しかし,全体として移動体は塊状の土塊をなしている可能性が高い.

写真4 中谷川右岸の地すべり(八方岩地すべり)の斜面の地すべりの主滑落崖写真4

中谷川右岸の地すべり(八方岩地すべり)の斜面の地すべりの主滑落崖

写真5 中谷川右岸の地すべり(八方岩地すべり)の地すべり頭部にみられる湧水と泥状化した滑落物質写真5

中谷川右岸の地すべり(八方岩地すべり)の地すべり頭部にみられる湧水と泥状化した滑落物質

 12月2日当時,この地すべりには伸縮計などの測定器は設置されておらず,国土交通省松本砂防事務所から派遣されてきた職員と中谷西集落で会うことができ,状況を報告した.

5)堀之内地区の水田中に認められた側方流動

 白馬村堀之内地区は,震央近くに位置し,地震断層が出現した,今回の地震で最も甚大な家屋被害が発生した集落である.堀之内集落は神城湖成段丘堆積物および神城湖成堆積物の分布地域に立地する(加藤ほか,1988)ため地盤が軟弱である可能性が高く,側方流動や液状化が報告されていた(近藤ほか,2014).
 堀之内地区の湖成段丘の断層崖近傍(第3図)では写真6に示すような幅30m程度の円弧状の平面形をもつ側方流動が2地区(合計4つブロック)で発生しており,水田が変位していた.また,側方流動の内部には多くの亀裂が生じており,水田の復旧を目的とすると考えられる測量が行われていた.

第3図堀之内地区の側方流動と地震断層・活断層(基図は地理院地図)第3図 堀之内地区の側方流動と地震断層・活断層(基図は地理院地図)

写真6 堀之内地区の水田を変位させる円弧状の平面形をもつ側方流動 写真6

堀之内地区の水田を変位させる円弧状の平面形をもつ側方流動

7)まとめ
 今回の調査は期間が短く,重点調査地区以外では道路からの目視調査を行ったに過ぎないため,地震に伴う斜面変動の全体像を明らかにするには至っていない.しかし,長野県姫川砂防事務所(2014)によると,12月1日時点で13か所の地すべりと1か所の山腹崩壊および4か所のがけ崩れが調査・対策の対象として挙げられている.この件数はほぼ同規模の新潟県中越地震(Mj=6.8)などと比較すると非常に少なく,急峻でかつ地すべり地形が発達するという地形条件を考慮すると,むしろ斜面変動が意外なほど少ないという印象を受けた.これは地震動が小さかったこと(東京大学地震研究所,2014),および地震の前7日間にわずか9mmしか降雨がなかった(アメダス観測点白馬における値)ことが主な要因として挙げられるだろう.特に降水量が少ないときに発生した地震で斜面物質移動が比較的少なかった事例として,2007年能登半島地震(Mj=6.9)や2007年中越沖地震(Mj=6.8)があげられる.また,中谷地区など余震域の北側で深い地すべりが生じた背景には,地形地質条件のほかに,断層破壊の伝搬方向など多くの観点から検討する必要があると感じる.

謝辞

 本調査にあたって,多忙な中にもかかわらず被害状況を丁寧に教えてくださった国土交通省松本砂防工事事務所姫川出張所と長野県姫川砂防事務所の皆様に厚く感謝申し上げます.消防研究所の土志田正二博士には地すべり地形分布図や被害地点の資料をまとめて提供いただいた.国土地理院の中島秀敏博士・神谷泉博士・中埜貴元博士には現地宿舎において被害状況について教示いただいた.また,中日本航空株式会社が撮影した斜め空中写真は調査地域を絞り込む上で大変重要な資料であった.
 以上の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます.

文献

加藤碩一・佐藤岱生・三村弘二・滝沢文教(1988)大町地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅,地質調査所,111p.

近藤久雄・勝部亜矢・谷口薫(2014)2014年11月22日に発生した長野県北部の地震に関する緊急報告(第一報)2014年11月26日.産業技術総合研究所地質調査総合センターウェブサイト.

長野県姫川砂防事務所(2009)長野県姫川砂防事務所管内図.

長野県姫川砂防事務所(2014)平成26年11月22日発生長野県神城断層地震災害報告箇所一覧表(姫川砂防事務所).

中野俊・竹内誠・吉川敏之・長森英明・苅谷愛彦・奥村晃史・田口雄作(2002)白馬岳地域の地質.地域地質研究報告,(5万分の1地質図幅).産総研地質調査総合センター,105p.

清水文健・井口隆・大八木規夫(2000)5万分の1地すべり地形分布図第11集「富山・高山」.防災科学技術研究所資料第200号.

東京大学地震研究所(2014)2014年11月22日の長野県北部地震について.2014年11月24日.東京大学地震研究所ウェブサイト

問い合わせ先

産総研地質調査総合センター