2014年11月22日長野県北部の地震

第三報 地表地震断層緊急調査報告(2) [2014年12月9日]

2014/12/9 作成

活断層・火山研究部門
勝部亜矢・近藤久雄・加瀬祐子・谷口 薫
※現所属:株式会社クレアリア

 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門では11月23日から25日までの調査に引き続き、12月1日から12月6日まで震源域全体の踏査を実施し、地表地震断層とその変位量分布を確認した。本調査では、第一報で報告した範囲(神城盆地から北に約5km区間)からさらに北へ拡大し、南北に約25km区間の地表踏査を実施した。また、震源域に近接する小谷ー中山断層および姫川断層周辺についても踏査を実施し、地表地震断層の有無を確認した。変位量の計測は、メジャーおよびハンドレベル、レーザー距離計等による簡易測量を実施し、可能な限り上下変位、水平短縮、横ずれ変位の三成分を計測した。地表地震断層および地表変状の分布を図1〜3に示す。

図1 長野県北部の地震に伴う地表地震断層および地表変状の分布
図1 長野県北部の地震に伴う地表地震断層および地表変状の分布。基図は、国土地理院発行の都市圏活断層図(東郷ほか、1999;澤ほか、1999)。地質断層線は5万分の1地質図幅(中野ほか、2002;加藤ほか、1989)に基づく。

図2 長野県北部の地震に伴う地表地震断層および地表変状の分布図2 長野県北部の地震に伴う地表地震断層および地表変状の分布。基図は、国土地理院発行の都市圏活断層図(東郷ほか、1999;澤ほか、1999)。地質断層線は5万分の1地質図幅(中野ほか、2002;加藤ほか、1989)に基づく。

図3 長野県北部の地震に伴う地表地震断層および地表変状の分布図3 長野県北部の地震に伴う地表地震断層および地表変状の分布。基図は、国土地理院発行の都市圏活断層図(東郷ほか、1999;澤ほか、1999)。地質断層線は5万分の1地質図幅(中野ほか、2002;加藤ほか、1989)に基づく。

 その結果、地表地震断層は白馬村三日市場から白馬村塩島集落まで神城断層に沿って断続的に認められた。一方、神城断層北部においては地すべりやそれに伴う短縮変形など地表変状は確認されたが、地表地震断層は認められなかった。また、小谷—中山断層と姫川断層に沿っても地すべりやそれに伴う短縮変形など地表変状は確認されたが、地表地震断層は認められなかった。さらに、第一報で地表地震断層の南端とした神城盆地谷地川付近のさらに南に位置する三日市場集落において横ずれ変位を伴う地表地震断層を確認した(写真1)。新たに認められた地表断層を含めると断層長は約9kmと考えられる。以下では、南から北に向かって地表地震断層の性状について地点毎に概略を記述する。

 写真1の地点では、北西向きの山麓斜面に面した資材置き場において、右横ずれ変位を示す地表地震断層がN65°E方向に約600m連続する。断層に沿って、N80°E方向の開口クラックが杉型に雁行配列し、コンクリートの断裂部から右横ずれ変位約4-15cmと、南東側が相対的に隆起する上下変位約3-10cmがみとめられた。この断層はこれまで活断層として指摘されていないが、三日市場集落内および集落南西で報告されるN30-60°Eの神城断層(東郷ほか、1999)の上盤側にあたり、逆断層上盤側で形成された副次的な断層と考えられる。
三日市場集落の北では、白馬村堀之内集落南から白馬村飯森集落東まで連続する地表地震断層を第一報において報告した。その北延長では、深空地区まで姫川の左岸と右岸ともに地表地震断層が認められないことから、断層は姫川に沿って延びていると考えられる。

 深空集落から白馬町東まで約1kmにわたって最大約20cmの上下変位を示す地表地震断層が連続する(写真2〜4)。第一報では、不明瞭な地表地震断層として報告した。写真2の地点では東側隆起の撓曲変形により家屋が約2°西に傾き、隣接する舗装道路上に約5cmの短縮変形が認められた。この地点の南方では、東側が隆起する微弱な撓曲変形が南に約50m連続して消失する。一方、北方では、地表地震断層はN25°E走向に連続し、写真3の地点では相対的に東側隆起約10−15cmの上下変位を示す撓曲変形が認められる。この撓曲変形は、田圃内で蛇行しN85°W走向からN30°E走向に変化する。さらに北に位置する写真4の地点では、上下変位約20cmの撓曲変形が舗装道路上をN35°E走向で延び、この地点から北東方向に約150m連続する。

 写真5の地点から北に向かって、地表地震断層は既存の神城断層トレース(糸静線断層帯重点調査観測変動地形研究グループ、2007)に沿って約2km区間で断続的に認められる。この区間では、変位量は北に向かって30cmから90cmへと増加する(写真5〜写真8)。写真5の地点では、舗装道路のアスファルトおよび側溝のずれを合計し、約30cmの水平短縮が認められる。写真6の地点では、東側が相対的に隆起する上下変位約50cmの撓曲変形が舗装道路に生じている。写真7の地点では、北流する河川の河床にN20°E走向に延びる東側隆起の撓曲変形が認められる。この河床の隆起によって形成されたとみられる、堰止めおよび河川の緩やかな逆流が観察された。さらに北では、地表地震断層は松川の左岸に認められ、松川を横断するものとみられる。

 写真8の地点では、上下変位約90cmの東側隆起の撓曲変形が舗装道路、畑および田圃に認められる。この地点は、廣内ほか(2014)で報告されており、現状では本地震に伴う最大変位が生じた地点とみられる。
一方、松川および姫川の合流地点付近における写真9の地点では、東側低下の撓曲変形が田圃と盛り土上に約350m連続し、約20-60cmの上下変位が認められた。この地表地震断層は大局的にはN30°E走向で、さらに西側を並走する東側隆起の地震断層に対するバックスラストと考えられる。

 塩島集落の北東では、二条の地震地表断層が概ね東西走向に並走し、ポップアップ構造を形成する。南側トレースに位置する写真10の地点では、田圃中に南側低下の撓曲変形が約200mの区間で認められる。田圃で計測される上下変位は約20-40cm、田圃に沿う南北方向の側溝では水平短縮約20cmが計測された。北側トレースに位置する写真11の地点では、北側が低下する上下変位約30cmの撓曲変形が舗装道路に認められ、ガードレールでは約26cmの水平短縮が測定された。本地点は写真8における地震断層の延長上に位置する。写真11の撓曲変形は東側の田圃に連続し、変位量は徐々に減少して約600m東の田圃内で消失する。これまでの調査範囲においては、本地点が地表地震断層の北端とみられる。

以上のように、長野県北部の地震に伴う地表地震断層は神城断層に沿って約9kmの区間で確認された。この地表地震断層の長さは既報の震源域および余震域よりも短く、両者の関係を検討するため、今回の調査期間中に道路が閉鎖されていた区間を中心に、今後補足踏査を予定している。また、今回のような規模の地震が過去にどの様に繰り返されたのかを古地震学的に解明する必要がある。

地表地震断層と判断した地点の写真

写真1 白馬村神城三日市場集落に見られる右横ずれ変位を伴う地表地震断層.写真は南西へ向かって撮影.横ずれ変位は約3−15cm,上下変位は約4−10cm.写真1

白馬村神城三日市場集落に見られる右横ずれ変位を伴う地表地震断層。写真は南西へ向かって撮影。横ずれ変位は約3−15cm、上下変位は約4−10cm。

写真2 深空集落東の道路に見られる短縮変形写真2

深空集落東の道路に見られる短縮変形。写真は南へ向かって撮影.水平短縮量は約5cm。

写真3 白馬村体育館ウイング21の東,田圃にみられる撓曲変形写真3

白馬村体育館ウイング21の東、田圃にみられる撓曲変形.写真は南へ向かって撮影。地震断層は水面と積雪面との間を通過する。上下変位量は約10-15cm。

写真4 白馬町東、舗装道路にみられる撓曲変形写真4

白馬町東、舗装道路にみられる撓曲変形。写真は東へ向かって撮影。上下変位量は20cm。

写真5 白馬町東、道路の側溝にみられる水平短縮の1つ.写真は南へ向かって撮影.水平短縮量の総計は約30cm.写真5

白馬町東、道路の側溝にみられる水平短縮の1つ.写真は南へ向かって撮影。水平短縮量の総計は約30cm。

写真6

大出集落の道路にみられる撓曲変形。写真は西へ向かって撮影。上下変位量は約50cm。

写真7 大出集落の北,松川支流にみられる地震断層による堰き止め写真7

大出集落の北、松川支流にみられる地震断層による堰き止め。写真は北東へ向かって撮影.写真右手の下流側が隆起することによって、河道が小規模な堰き止めを生じ、写真左手の水域が拡大して上流側へ緩やかに逆流する様子がみられた。

写真8 白馬村塩島集落,畑,田圃および道路にみられる撓曲変形写真8

白馬村塩島集落、畑、田圃および道路にみられる撓曲変形。写真は南へ向かって撮影。上下変位量は約90cm。

写真9 松川および姫川の合流点付近にみられる,東側低下の撓曲変形写真9

松川および姫川の合流点付近にみられる、東側低下の撓曲変形。写真は南へ向かって撮影。地震断層は長さ約350mの区間を延びる。上下変位量は約20-60cm。

写真10 塩島集落北東,田圃にみられる南側低下の撓曲変形写真10

塩島集落北東、田圃にみられる南側低下の撓曲変形。写真は西へ向かって撮影。写真奥が岩戸山層の安山岩からなる城山丘陵。上下変位量は約20-40cm。

写真11 塩島集落北東,道路にみられる北側低下の撓曲変形写真11

塩島集落北東、道路にみられる北側低下の撓曲変形。写真は南へ向かって撮影。上下変位量は約30cm。写真11の南側低下の撓曲崖とほぼ併走し、幅約120mの小規模なポップアップ構造が形成されている。

地表変状を確認した地点の写真

写真12 三日市場集落,舗装道路に沿う側溝で短縮変形が認められるが,写真奥側の側溝に開口亀裂も認められた写真12

三日市場集落、舗装道路に沿う側溝で短縮変形が認められるが、写真奥側の側溝に開口亀裂も認められた。写真は東へ向かって撮影。

堀之内集落南東,田圃にみられる地すべりに伴う円弧状の開口亀裂写真13

堀之内集落南東、田圃にみられる地すべりに伴う円弧状の開口亀裂。写真は南へ向かって撮影。

写真14 深空集落東,姫川沿いの未舗装道路に生じた地表のふくらみ写真14

深空集落東、姫川沿いの未舗装道路に生じた地表のふくらみ。姫川に添う地震断層の変位に伴い副次的に形成されたと考えられる。写真は南へ向かって撮影。

写真15  倉集落南,小谷—中山断層付近の地すべりに伴い舗装道路に生じた開口亀裂写真15

倉集落南、小谷—中山断層付近の地すべりに伴い舗装道路に生じた開口亀裂。写真は北東へ向かって撮影。

写真16

千国駅前の擁壁に生じた東方向への約20cmの孕み出し。写真は北へ向かって撮影。

参考資料

 東郷正美・池田安隆・今泉俊文・澤 祥・松多信尚:都市圏活断層図[大町]、 国土地理院技術資料D. 1-No. 368、(1999)

糸静線断層帯重点的調査観測変動地形グループ *:糸魚川-静岡構造線断層帯変動地形資料集 No.1 北部(白馬-松本間)、32p.(2007)
* 鈴木康弘・渡辺満久・澤 祥・廣内大助・隈元 崇・ 松多信尚・田力正好・谷口 薫・杉戸信彦・石黒聡士・佐藤善輝・安藤俊人・内田主税・佐野 滋樹・野澤竜二郎・坂上寛之

 廣内大助・杉戸信彦・清水龍来:2014年11月22日長野県神城断層地震における地表変位について(速報)。日本活断層学会メーリングリスト(2014年11月24日付)

 澤 祥・東郷正美・今泉俊文・池田安隆・松多信尚:都市圏活断層図[白馬岳]、国土地理院技術資料D. 1-No. 368(1999)

 中野 俊・竹内 誠・吉川敏之・長森英明・苅谷愛彦・奥村晃史・田口雄作:5万分の1地質図幅[白馬岳],地質調査総合センター(2002)

 加藤碵一・佐藤岱生・三村弘二・滝沢文教:5万分の1地質図幅[大町],地質調査所(現 地質調査総合センター)(1989)

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産総研地質調査総合センター