平成19年(2007年)新潟県中越沖地震の地質学的背景

新潟堆積盆地南部の地質構造図

新潟堆積盆地南部の地質構造図

震源の緯度経度および深さは,防災科学技術研究所 Hi-net による.

佐渡島南方海底地質図(海洋地質図 No.43)新潟(50万分の1活構造図 No.7)を合成したものです.

平成19年(2007年)新潟県中越沖地震は新潟堆積盆地と呼ばれる厚い堆積物の分布域で発生した.この堆積盆地は2000〜1500万年前の日本海が拡大した時期に,北西−南東方向に地殻が引き延ばされて形成されたものである.

その後,約300万年前から,北西−南東方向に地殻が圧縮されはじめ,新潟堆積盆地の中に逆断層と褶曲構造が形成され始めた.その圧縮変形は現在も活発に進行していると考えられ,2003年の新潟県中越地震と今回の中越沖地震は,いずれもこの圧縮変形の過程で発生したものである.

この圧縮変形によって,新潟堆積盆地には北北東−南南西方向に伸びる断層と褶曲が広域的に発達した.それらは幅15-20km程度の褶曲帯を形成し,地形的には丘陵地帯となっている.図に新潟平野の活構造図を示すが,新潟堆積盆地の中に,東側から東山・魚沼丘陵,西山丘陵,東頸城丘陵などの丘陵地帯が発達していることがわかる.活断層は褶曲帯の縁辺部,丘陵と平野部の境界に分布する.2003年の中越地震の震源域では,東山・魚沼丘陵の褶曲構造が中越地震を発生させた逆断層の形状を反映していることが明らかになっている.そこでは,幅広い褶曲帯の北西縁に近いところに震源断層の下端が位置し,その付近が震源となっている*.

そのような視点で今回の震源域を見ると,西側の佐渡海盆と東側の西山丘陵との境界付近に当たることがわかる.西山丘陵は東縁に長岡平野西縁断層と呼ばれる活断層を伴うことが知られているが,今回の地震はこの丘陵地帯の西縁部で発生している.

佐渡海盆の下では,新第三紀の地層は平坦で海底下深部に分布するが,海岸沿いには新第三紀の地層が隆起して丘陵をなしている.このため,両者の境界となる大陸棚の下には大きな構造差を生じさせた褶曲か断層が存在すると考えられる.地質調査所**が実施した音波探査では,佐渡海盆の底から大陸棚に向かって地層が隆起しているのが観察できる.同じ場所の石油探査のデータでも伏在断層と背斜構造の存在が示されており,それらが今回の地震の原因となった可能性が高い.

2003年と2007年の中越地方の地震はいずれも活断層が明瞭でない場所で発生したが,褶曲帯の縁辺部に震源を持つという特徴は共通している.新潟堆積盆地では活断層だけに注目するのではなく,褶曲帯と地下深部の断層との関係を解明していくことによって,地震発生場をより精度よく推定できる可能性が高い.

* http://unit.aist.go.jp/actfault-eq/katsudo/jishin/niigata070716/index.html

** 現 産総研地質調査総合センター

文章作成:岡村行信