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地質調査研究報告 Vol.76 No.4/5(2025)
特集:九州北西方沖の海洋地質調査 —2023年度調査航海結果—
表紙
2023年度九州北西方沖海洋地質調査
地質調査総合センター(GSJ)では1970年代から日本周辺海域の20万分の1海洋地質図を発行している.本特集号では沖縄トラフ北東端部調査の一環として,九州北西方沖海域で実施した反射法地震探査,海底地形調査,磁力調査,表層堆積物調査の結果について報告する.
左:航走調査前のエアガンの投入風景
右上:調査船からの対馬南方沖の漁火
右下:佐賀沖から九州と朝焼けを望む
(写真・文:井上卓彦)
目次
全ページ PDF : 76_45_full.pdf [57MB]
| タイトル | 著者 | |
|---|---|---|
| 巻頭言 | ||
| 九州北西方沖の海洋地質調査 —2023年度調査航海結果— | 井上卓彦・板木拓也・天野敦子 | 76_45_01.pdf [1MB] |
| 概報 | ||
| GS23及びGB23航海九州北西海域における海底地形観測の概要 | 高下裕章・佐藤太一・山下幹也・古山精史朗 | 76_45_02.pdf[4.3MB] |
| GS23及びGB23航海(九州北西方海域)における磁気異常観測の概要 | 佐藤太一・高下裕章・山下幹也 | 76_45_03.pdf[3.4MB] |
| 反射法音波探査に基づく対馬及び五島列島周辺海域の地質構造に関する予察的検討 | 有元 純・石野沙季・三澤文慶・井上卓彦 | 76_45_04.pdf[15MB] |
| GS23 航海で取得した九州北西方海域のサブボトムプロファイラー記録 | 石野沙季・井上卓彦・古山精史朗 | 76_45_05.pdf[12MB] |
| 東シナ海東北部及び日本海西部における海底堆積物採取調査の概要 | 清家弘治・飯塚 睦・鈴木克明・板木拓也・片山 肇・兼子尚知・石野沙季・石塚 治・喜瀬浩輝・桑野太輔・山﨑 誠 | 76_45_06.pdf[5MB] |
| 対馬周辺海域における海洋環境 | 飯塚 睦・板木拓也・鈴木克明・片山 肇・齋藤直輝・鈴木 淳 | 76_45_07.pdf[1.5MB] |
| 九州北西沖GB23航海における海底岩石試料採取の概要と石灰質ナノ化石に基づく堆積岩の地質年代 | 有元 純・鈴木克明・石塚 治・宇都宮正志 | 76_45_08.pdf[10MB] |
| 九州北西海域(GB23航海)で採取された海底堆積物の化学組成 | 久保田 蘭・立花好子・鈴木克明・飯塚 睦・板木拓也・片山 肇・兼子尚知・石野沙季・石塚 治・喜瀬浩輝 | 76_45_09.pdf[1.2MB] |
| 対馬海峡(壱岐・対馬南方)における底生有孔虫群集の産状 | 有元 純 | 76_45_10.pdf[1.6MB] |
| 九州北西海域からGB23 航海により採集された無藻性イシサンゴ類 | 徳田悠希・千徳明日香・喜瀬浩輝・長澤祥太郎・笹田真菜恵・鈴木克明・板木拓也・片山 肇・飯塚 睦・鈴木 淳 | 76_45_11.pdf[5.8MB] |
| 九州北西海域から採集された花虫亜門(刺胞動物)について | 喜瀬浩輝・櫛田優花・長澤祥太郎・笹田真菜恵・鈴木克明 | 76_45_12.pdf[1.7MB] |
| 海洋地質調査航海GB23により東シナ海及び日本海において採集された魚類 | 玉井隆章・鈴木克明・髙見宗広 | 76_45_13.pdf[3.8MB] |
要旨集
GS23及びGB23航海九州北西海域における海底地形観測の概要
高下裕章・佐藤太一・山下幹也・古山精史朗
九州北西海域において海洋地質図作成を目的としたマルチビーム音響測深装置(MBES)による海底地形航走観測を実施し,高解像度海底地形を作成した.ただしマルチビーム測深器の特性上,水深が浅い場所では広範囲をカバーすることが難しく,今回の調査では地質解釈を進めるために十分な面的データを取得するには至らなかった.そのため,本稿では海底地形の記載を省略し,測深データの取得方法・データ処理,処理結果の報告に留めた.
GS23及びGB23航海(九州北西方海域)における磁気異常観測の概要
佐藤太一・高下裕章・山下幹也
九州北西方海域において,海域地球物理図作成を目的とした地磁気観測を実施し,曳航式全磁力計の観測値に基づき全磁力異常図を作成した.調査海域は全域にわたり短波長から長波長の磁気異常が複雑に分布していることが特徴である.特に五島列島西方と壱岐諸島東方の海域では複雑な短波長の磁気異常が,五島列島西方から対馬南方にかけての海域では北東–南西方向に広がる長波長の正の異常が特徴的である.調査海域の大部分が浅海であるため海底地形データが得られておらず,表層の地形からの判断は難しいが,短波長の磁気異常については,周辺の島嶼部で見られる火成岩類が海底表層に分布しておりそれらに起因したものと考えられる.北東–南西に広がる正の磁気異常は,尖閣諸島周辺から五島列島周辺へ延びる正の磁気異常帯の北端部に相当すると推測される.
反射法音波探査に基づく対馬及び五島列島周辺海域の地質構造に関する予察的検討
有元 純・石野沙季・三澤文慶・井上卓彦
対馬及び五島列島周辺の九州北西海域は,大部分が陸棚上にあって浅海域が卓越し,防災や海域利用の観点から注目されている.本海域において20万分の1海底地質図を作成するため,GIガンを音源とするマルチチャネル反射法音波探査を実施し,地質構造について予察的に検討した.全体として,調査海域の海底下地質体は,音響基盤ユニットとそれを覆う堆積層ユニットに区分される.音響基盤ユニットは島嶼部周辺で陸棚や地形的高まりをなしている.その上面は多くの場合侵食されて平坦化するか,褶曲や断層によって起伏をつくり,上位の堆積層ユニットの基盤をなしている.対馬南方沖から五島列島西方沖にかけて,基盤隆起帯や沈降帯の配列に伴い,おおむね北東–南西走向の巨大な高角正断層群が複数存在している.これらは横ずれ活動を通じて局所的な沈降帯を形成し,堆積層ユニットの分布を規制していると考えられる.また,五島列島南方における海盆斜面・海盆底の侵食や,海底谷・海峡部周辺におけるチャネル構造と充填堆積物の発達,及び海底面での局所的なサンドウェーブの発達は,海域全体として対馬海流の強い流れの影響を示唆する.五島灘海域では,堆積層ユニットの下部によく成層した平行な反射面が発達する一方,上部はクリノフォームセットにより特徴づけられることがわかった.また,五島灘堆積盆を埋積する堆積層ユニットは,沈降場において継続的に発達してきたことが示唆される.以上に加えて,壱岐周辺や五島列島周辺を中心に,局所的な音響散乱や貫入を示す構造が認められ,火成活動に関連したものである可能性がある.
GS23航海で取得した九州北西方海域のサブボトムプロファイラー記録
石野沙季・井上卓彦・古山精史朗
物理探査航海GS23にて長崎県北西部に位置する壱岐島及び五島列島周辺海域におけるサブボトムポロファイラー(SBP)データを取得した.本稿では,SBP断面に認められる海底表層の音響的層相の特徴を報告する.壱岐島周辺海域は,海底面が平坦で海底下に音波が透過しない層相や,音響的に透明な地層が認められ,比較的粗粒な堆積物が分布していることが示唆された.五島列島北方沖では,最終氷期の浸食面より下位と考えられる,粗く成層した地層が広く認められる.五島列島南西沖においては,密に成層する地層が五島海底谷や福江海盆のテラス及び斜面に分布している.この層相を示す地層は,五島海底谷や周囲の海底表層の凹凸地形が形成される前に堆積したと考えられる.
東シナ海東北部及び日本海西部における海底堆積物採取調査の概要
清家弘治・飯塚 睦・鈴木克明・板木拓也・片山 肇・兼子尚知・石野沙季・石塚 治・喜瀬浩輝・桑野太輔・山﨑 誠
海域地質図プロジェクトの一環として,日本海西部,対馬海峡,及び東シナ海東部において海底地質調査航海GB23が実施された.調査海域のほとんどは水深200 mよりも浅いが,五島列島福江島の南西部には水深400–600 mの五島海底谷が,また五島列島の南には最深部の水深が約800 mの男女海盆が存在する.本航海では,木下式グラブ採泥器,バイブロコアラー,ロックコアラー,ドレッジャーを用いた表層採泥・岩石採取を198地点で実施した.ここでは,木下式グラブ採泥器により得られた海底堆積物試料について報告する.対馬海峡においては含泥率の低い中粒砂から細礫が見られ,その他の海域では含泥率の高い細粒堆積物が分布していた.採泥試料には多くの大型ベントス生体や貝殻などの生物遺骸が含まれ,その中には灰色を呈する化石貝類も含まれていた.また,本概報では堆積物試料に含まれていた石灰質ナノプランクトン群集や浮遊性有孔虫群集に関する予察的な内容も報告する.
対馬周辺海域における海洋環境
飯塚 睦・板木拓也・鈴木克明・片山 肇・齋藤直輝・鈴木 淳
GB23航海の調査(2023年10月26日から11月23日)において,対馬南西海域の計192地点でCTD観測と底層水サンプリングを実施した.調査海域は,対馬海峡周辺に位置しており,対馬海流が日本海へ流れ込む流路となっている.観測された表層水の水温は18.9–23.9 ºC,塩分は33.7–34.6の範囲にあり,九州沿岸流と対馬海流の影響を受けていることが推察された.底層水の水温は基本的に水深と相関しており,水深が深くなるにつれて低温を示した.五島列島南側の底層では,五島海底谷から流入した北太平洋亜熱帯モード水と考えられる水塊が観測された.また,九州沿岸域及び対馬北側では,地形や海流の影響により発生したと考えられる高濁度層が確認された.
九州北西沖GB23航海における海底岩石試料採取の概要と石灰質ナノ化石に基づく堆積岩の地質年代
有元 純・鈴木克明・石塚 治・宇都宮正志
九州北西海域で実施されたGB23航海において,音響層序ユニットの岩相や地質年代を解明するため,合計4地点でロックコアラー及びドレッジャーを用いた岩石試料採取を行った.壱岐島西方沖の1地点では,ロックコアラーにより砂質堆積物の柱状試料及び玄武岩が採取された.五島列島周辺の3地点ではドレッジ及び水中カメラによる海底観察が実施され,南方沖の1地点では玄武岩,西方沖の1地点では砂岩,礫岩などの堆積岩と玄武岩が採取された.また,グラブ採泥及びドレッジで得られた堆積岩試料について,石灰質ナノ化石を検討した結果,五島灘及び対馬北方で得られた計2試料がCN15帯に対比されることが明らかとなった.
九州北西海域(GB23航海)で採取された海底堆積物の化学組成
久保田 蘭・立花好子・鈴木克明・飯塚 睦・板木拓也・片山 肇・兼子尚知・石野沙季・石塚 治・喜瀬浩輝
九州北西海域で採取された海底表層堆積物186試料について23元素を定量した結果を示し,化学組成の特徴や分布特性について報告する.本調査海域の堆積物試料に最も多く含まれる成分はCaOで,その濃度範囲は2.63–50.2 wt%と幅広い.本調査海域を五島列島周辺(北部を除く)及び五島灘周辺海域,平戸島・壱岐島周辺及び玄界灘周辺海域,五島列島北部から対馬北部に至る対馬海峡の3つに区分すると,海域ごとの元素組成特性が明らかになった.五島灘周辺海域の堆積物試料はK2O,CaO,Rb,Sr,Baを除く18 元素で高濃度を示すとともに,主要元素の濃度間の関係において他の2海域とは明らかに異なる分布を示した.この結果より五島灘周辺海域の堆積物の起源は苦鉄質火山岩由来の砕屑粒子の寄与が大きいことが推測された.平戸島–玄界灘周辺海域はK2O,Rb,Ba濃度が他の海域に比べて高く,玄界灘周辺で採取した一部の試料には陸源粒子の影響が考えられた.対馬海峡では海底堆積物中のCaO及びSrの濃度が高く,生物遺骸粒子(炭酸塩鉱物)のCaO成分による希釈効果により,対馬の河川堆積物の化学組成との共通性は見られなかった.沿岸域の河川及び海底堆積物中の元素組成の比較より,現在の陸域から海洋環境への堆積物の流出は少ないと考えられた.
対馬海峡(壱岐・対馬南方)における底生有孔虫群集の産状
有元 純
GB23航海において採取された対馬海峡の表層堆積物中に含まれる底生有孔虫群集について,予察的にその産状を検討した.属レベルでの群集組成は,西南日本周辺における浅海帯を特徴付ける種群と調和的である.群集組成や浮遊性種の存在比,そして緑色海成粘土の充填など保存状態の空間変化は,海峡部周辺における海洋環境や堆積作用を反映していると考えられる.
九州北西海域からGB23 航海により採集された無藻性イシサンゴ類
徳田悠希・千徳明日香・喜瀬浩輝・長澤祥太郎・笹田真菜恵・鈴木克明・板木拓也・片山 肇・飯塚 睦・鈴木 淳
東シナ海における無藻性イシサンゴの多様性に関する包括的研究は,これまでほとんど行われていない.本研究では,GB23航海において木下式グラブ採泥器で採集した標本に基づき,九州北西海域の無藻性イシサンゴの多様性を評価した.その結果,計687点のイシサンゴ標本が得られ,9 科23 属19種に同定された.本結果は,南西諸島から東シナ海北部に向けて無藻性イシサンゴの多様性が減少する傾向を示唆する.また,軟底質上では無性生殖を行う単体性イシサンゴが群集の主要構成要素であった.中でもPeponocyathus folliculusの採集地点数が最多で(全163地点中79地点),同種の高い無性生殖能力と能動的移動能力が軟底質における個体群拡大に寄与している可能性が高い.
九州北西海域から採集された花虫亜門(刺胞動物)について
喜瀬浩輝・櫛田優花・長澤祥太郎・笹田真菜恵・鈴木克明
対馬海峡や東シナ海における花虫類の分類学的研究例は限られる.そこで本研究では,2023年のGB23航海で採集された花虫類について,種多様性情報を収集することを目的に分類学的研究を行った.その結果,九州北西海域の5地点から4 目5 科5属(ホソヤナギウミエラ属,ヤナギウミエラ属,ウミイチゴ属,ホソトゲヤギ属,ツノサンゴ属,イソギンチャク目)の花虫類が同定され,ホソヤナギウミエラ属の1種は九州北西海域から初記録となった.引き続き調査を進めていくことで,本海域においてさらなる初記録種,未記載種の発見につながることが期待される.
海洋地質調査航海GB23 により東シナ海及び日本海において採集された魚類
玉井隆章・鈴木克明・髙見宗広
九州北西部の東シナ海及び日本海において実施された海洋地質図調査航海GB23の表層堆積物調査にて,堆積物と共に魚類が採集された.これらの魚類は,7科10種(ゴマウミヘビ属未同定種Apterichtus sp.,ミサキウナギScolecenchelys aoki,ウミヘビ科未同定破損個体Ophichthidae gen. sp.,ヒトスジサイウオBregmaceros anchovia 3個体,カクレウオ科未同定種Carapidae gen. sp.,ヒメアゴアマダイStalix immaculata,ワニギスChampsodon snyderi 2個体,サクライレズミハゼPriolepis winterbottomi,ハゼ科未同定種Gobiidae gen. sp.,ハタタテガレイ属未同定種Samaris sp.)に同定された.これらのうち,ヒトスジサイウオは佐賀県及び長崎県近海における初記録であり,サクライレズミハゼは福岡県及び佐賀県近海における初記録であった.本稿では、出現魚種の記録に加え,生息環境に関する知見蓄積の一助として,採集地点の底質などの情報を併せて報告する.
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