防災・減災のための高精度デジタル地質情報の整備事業



背景と目的

 プレート沈み込み境界付近に位置する日本は、複雑な地質構造を持ち、世界有数の地震・火山大国でもあるため数多くの地質災害に見舞われてきました。さらに近年では自然災害が激甚化・多発化する傾向にあります。このような背景のもと、令和2年12月に「防災・減災、国土強靭化加速化のための5か年加速化対策」が閣議決定され、自然災害から国民の生命・財産・生活を守り、国家・社会の重要な機能を維持するため、防災計画に資する情報の解析・評価、集約・提供を通じて、自然災害に屈しない強靭な国土づくりの推進が強調されました。
 これを受けて産総研地質調査総合センター(GSJ)では、「防災・減災のための高精度デジタル地質情報の整備事業」を令和4年度より令和7年度までの4年計画で実施します。このプロジェクトは活断層や火山など5つのプログラムから構成されており、経済産業省が進める「知的基盤整備計画」における社会課題の解決に向けた地質情報整備の一環でもあります。

  1.  活断層情報の整備
    将来発生する地震の可能性や規模の評価をより正確にするには、活動性が不明な活断層を減らすことが必須です。本プロジェクトでは、陸上・海底の活断層のうち都市近郊にあるなど重要度の高い6つの活断層について、その詳細な位置、形状、活動性を関係自治体とも連携して調査します。
    活断層情報の整備GSJは日本全国をカバーする「活断層データベース」を整備・公開してきました。現状のシステムでは断層線の位置精度は縮尺1/20万地形図に基づいていますが、本プロジェクトではその位置精度をインフラ整備等に利用できるよう縮尺1/5万地形図に向上させます。

  2. 火山情報の整備
     火口の正確な位置と活動履歴は防災対策に必須な情報ですが、すべての活火山で過去に活動した火口が十分に把握されているわけではありません。このプロジェクトでは、気象庁が常時観測している50火山について、「火口位置データベース」を構築します。防災上特に重要な8火山については、火口の位置、形状、活動年代、噴火規模、噴火様式などの情報を盛り込んだ「噴火口図」を作成します。
    火山情報の整備

  3. 斜面災害情報の整備
     斜面災害の発生には地震や降雨などの条件(誘因)と、地質、植生、地形、土壌など災害が発生する場所の条件(素因)が複雑に絡み合っています。現在の斜面災害等危険区域は主に地形要素から指定されています。本プロジェクトでは、地質の年代や変質,風化や植生変化など地質・衛星情報から得られる素因と斜面災害履歴との相関を解析して、地質から見た斜面災害の起こりやすい場所の情報を整備します。特に、近年斜面災害の多い九州北部地域を事例地域として、集中的に情報整備を行います。

  4. 海洋地質情報の整備
     GSJでは日本周辺海域の地質や堆積物の情報を海洋地質図として出版・公表してきました。その過程で得られた探査データや堆積物データの一部も公開していますが、標準フォーマットではない、あるいは紙ベースであると言った理由で、再処理や利用に不便なデータもあります。本プロジェクトでは、巨大地震の発生が想定される南海トラフ(四国から九州沖)をモデル海域として、既存の海洋地質図のシームレス化を進めるとともに、調査で得られた各種データのデジタル化・ベクトル化を進め、一元的に管理します。

  5. 地質DXの推進
     地質情報を防災・減災などに具体的に活用するためには、様々な分野間でのデータの相互連携が必須です。GSJが整備してきた地質図などの数は膨大であり、デジタル化が未完成のデータも多く残っています。本プロジェクトでは、地質データの一般的な情報システムで処理可能な標準的データ形式への変換、データの相互連携を促進するためのメタデータ整備、およびデータポータルの構築を加速します。

令和4年度成果概要(pdf:3.2MB)