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地質調査研究報告 Vol.71 No.2(2020)

表紙

御荷鉾緑色岩類中の逆転した枕状溶岩

御荷鉾緑色岩類中の逆転した枕状溶岩 紀伊半島東部には三波川帯に属する御荷鉾緑色岩類が南北約3 km,東西約30 km で分布している.
玄武岩(溶岩・火山砕屑岩)を主体とし,ドレライト,斑れい岩及び超苦鉄質岩を伴う.溶岩はしばしば 逆転した枕状構造を示し,これが本地域三波川帯に発達する横臥褶曲構造の根拠の一つとなっている. 苦鉄質岩は,火成鉱物として褐色普通角閃石を,変成鉱物として青~紫色アルカリ角閃石を含むことが 特徴的である.特に後者については本号にて報告されている.
左写真:伊勢市彦ヶ滝(伊勢神宮林内)の林道沿い.
右写真:鳥羽市安楽島北東海岸(旧ホテル鳥羽小湧園ビーチ)防波堤付け根.

(写真・文:内野隆之)

目次

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タイトル著者PDF
論文
石垣島西部名蔵川流域の重力測定宮川歩夢・名和一成・山谷祐介・大滝壽樹・杉原光彦・奥田 隆・住田達哉 71_02_01.pdf [6.7MB]
概報
三重県志摩半島,御荷鉾緑色岩類のドレライト質岩から見出されたアルカリ角閃石内野隆之・山崎 徹 71_02_02.pdf [6MB]

要旨集

石垣島西部名蔵川流域の重力測定

宮川歩夢・名和一成・山谷祐介・大滝壽樹・杉原光彦・奥田 隆・住田達哉

 国立天文台VERA石垣島観測局を中心とした名蔵川流域において,地下の地質構造を反映すると考えられる重力異常を明らかにするために重力測定を実施した.この重力測定では絶対重力測定及び周辺での相対重力測定を組み合わせている.絶対重力測定は国立天文台VERA石垣島観測局の重力計基台において,また相対重力測定は周辺域の62地点において実施した.得られた重力測定結果に既存の重力データを加え,重力異常図を作成した.これにより,名蔵湾から於茂登岳(おもとだけ)に向かって,負の重力異常が大きくなる傾向がみられた.これは,於茂登岳を構成する漸新世の珪長質深成岩が周囲のジュラ紀付加体に比べて密度が低いことによると考えられる.さらに於茂登岳麓から名蔵湾にかけて負の重力異常の帯が確認された.このことは,名蔵湾から於茂登岳に向かう局所的な基盤形状を反映し,密度の低い堆積層が埋める埋没谷の存在を示唆する.

三重県志摩半島,御荷鉾緑色岩類のドレライト質岩から見出されたアルカリ角閃石

内野隆之・山崎 徹

 三重県志摩半島に分布する三波川帯の御荷鉾緑色岩類中にはアルカリ角閃石と推測される紫~青色角閃石が普遍的に産する.ドレライト質岩中の角閃石の化学組成をEPMAにて測定した結果,ナトリウム角閃石のマグネシオリーベック閃石とナトリウム・カルシウム角閃石のフェリウィンチ閃石であることが判明した.これらのアルカリ角閃石と緑泥石,緑れん石,アルバイト,アクチノ閃石,赤鉄鉱の共存から,本ドレライトはパンペリー石–アクチノ閃石相ないし緑色片岩相と青色片岩相の漸移相程度の変成を被っていると考えられる.