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地質調査研究報告 Vol.59 No.9/10 (2008)

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表紙

絶海の孤島サンドン岩

絶海の孤島サンドン岩

   この写真は奄美大島の北東、笠利崎の北北東 27.5 kmにぽつりと浮かぶサンドン岩の本島である。標高は 8 mで、頂部に「大蔵省」の石碑が建てられている。今回初めて、層状の凝灰岩を挟む玄武岩溶岩からなることが明らかになり、四万十帯白亜紀付加体に帰属することが明らかになった。詳細は本文を参照されたい。(撮影2008年3月6日)

(写真と文 : 斎藤  眞)

目次

タイトル著者 PDF
論文
河川・海底堆積物の粒度変化に伴う元素濃度変化 寺島  滋・今井  登・立花好子・池原  研・片山  肇・岡井貴司・御子柴 (氏家) 真澄・太田充恒・久保田  蘭 (439-459) 59_09_01.pdf [1 MB]
GSJ 炭酸塩標準物質 (JCp-1, JCt-1) の炭素および酸素安定同位体比 中山裕朗・飯嶋寛子・中村修子・茅根創 (461-466) 59_09_02.pdf [1 MB]
概報
奄美大島北東方、平瀬、トンパラ岩、サンドン岩の地質と帰属 斎藤  眞 (467-472) 59_09_03.pdf [2 MB]
精密ろ過・限外ろ過用フィルターの吸着特性 (コロイド特性把握の研究 -その1) 金井  豊・立花好子 (473-495) 59_09_04.pdf [2 MB]

要旨集

河川・海底堆積物の粒度変化に伴う元素濃度変化

寺島  滋・今井  登・立花好子・池原  研・片山  肇・
岡井貴司・御子柴 (氏家) 真澄・太田充恒・久保田蘭

   河川・海域堆積物における粒度と元素濃度の関係を研究するため堆積環境の異なる河川・海域で採取された粒度の異なる堆積物を分析した。河川堆積物中の主・微量元素のほとんどは粒度の細粒化に伴って高濃度になる。しかし、K、Ba にはその傾向がなく、これは珪長質岩類に由来するカリ長石が微細化しにくいためと考えられた。平野部の河川で得られた泥質堆積物では、P、Cu、Zn 等の濃度が中粒部よりも粗粒部で高い試料があった。これら試料における粗粒な粒子は、造岩鉱物由来の砕屑物ではなく微小鉱物や植物片等に粘土質粒子が付着して団塊化したものと考えられた。海底堆積物においても多くの元素は粒度の細粒化に伴って高濃度になるが、逆に低濃度になる元素 (Ca、Sr、As)、顕著な濃度変化がない元素 (Fe、Co、Ce、U、Y)があり、また日本海深部の粘土質堆積物中には砂質〜シルト質堆積物の数倍の Mn、Mo が含有されている。海底堆積物中の Ca、Sr の濃度変化は貝殻片等の石灰質堆積物の増減に由来しており、As、Fe、Mn、Mo 等の濃度変化は風化・続成作用に伴う溶出、移動、沈殿や新鉱物の生成等が原因と考えられる。

GSJ 炭酸塩標準物質 (JCp-1, JCt-1) の炭素および酸素安定同位体比

中山裕朗・飯嶋寛子・中村修子・茅根  創

同位体比質量分析計を用いて炭酸塩試料の炭素・酸素安定同位体比 (δ13C・δ18O) を測定する際には、国際標準試料によって PDB スケールに値付けされた作業標準試料を用いる場合が多い。本研究では、成分情報が公表されている炭酸塩標準試料 JCp-1 および JCt-1 が作業標準試料として適切であるかを検討するために、同位体比を測定し、均一性を評価した。JCp-1 が δ13CPDB = - 1.63 ± 0.03‰、δ18OPDB = - 4.71 ± 0.03‰、JCt-1 が δ13CPDB = + 2.79 ± 0.02‰、δ18OPDB = - 0.496 ± 0.03‰ と均一であり、作業標準試料として適切であることを確認した。JCp-1 および JCt-1 を作業標準試料に使用する場合、- 5.01‰ < δ13CPDB < 1.95‰、- 22.97‰ < δ18OPDB < - 2.20‰の範囲において、1 点検量法により未知試料の PDB 値を求めることができる。

精密ろ過・限外ろ過用フィルターの吸着特性 (コロイド特性把握の研究 - その1)

金井  豊・立花好子

   精密ろ過・限外ろ過フィルターにおける吸着特性を把握するため、セルロース混合エステル製のメンブランフィルターおよびポリサルフォン製のウルトラフィルターを用いて、ウラン・希土類元素等を含む多くの元素に関する吸着特性を検討した。その結果、中性に近い希薄溶液では、多くの元素でフィルターへの吸着が観察され、おおよそ pH3 程度ではフィルターによる吸着はほとんど無いと見なすことができた。見かけの吸着分配係数で比較すると、限外ろ過に使用されるポリサルフォンフィルターはセルロースフィルターに比べ約 3 倍の大きさであった。希土類元素間では、軽希土類元素よりも重希土類元素の方がおおむね吸着が大きい傾向があった。野外調査において試料水を採取する場合、洗浄・コンデショニング等の注意が必要である。更に精度の高い吸着分配係数を求める実験の為の指針を示した。