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地質調査研究報告 Vol.54 No.1/2 (2003)

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表紙

化石珪藻 Mediaria splendida f. tenera Schrader の走査型電子顕微鏡写真

化石珪藻 Mediaria splendida f. tenera Schrader の走査型電子顕微鏡写真

   岐阜県瑞浪市生俵層産、約1570-1560万年前、スケールは 10μm。珪藻はガラス質の殻を持つ単細胞の植物性原生生物である。珪藻の殻は死後も一部は分解されずに堆積物中保存され、化石として産出する。写真に示した Mediaria splendida f.tenera は、地質時代の中新世に生きていた絶滅種で、形態に特徴があって同定しやすく、地層の年代を決めるための示準化石として重要である。

(柳沢幸夫)

目次

タイトル著者PDF
論文
栃木県烏山地域に分布する中新統荒川層群上部の珪藻化石 -その1. 珪藻化石層序- 柳沢幸夫 (1-13) 54_01_01.pdf [1,953 KB]
栃木県烏山地域に分布する中新統荒川層群上部の珪藻化石 -その2. 古水深変化- 柳沢幸夫 (15-27) 54_01_02.pdf [1,465 KB]
福島県東棚倉地域に分布する上部中新統久保田層の海生珪藻化石層序と古環境 柳沢幸夫・山口龍彦・林  広樹・高橋雅紀 (29-47) 54_01_03.pdf [2,316 KB]
岩手県一関地域に分布する中新統の海生珪藻化石層序と生層準 柳沢幸夫・林  広樹 (49-61) 54_01_04.pdf [1,919 KB]
新潟県上越地域西部に分布する鮮新統の珪藻化石層序と古海洋環境 柳沢幸夫・天野和孝 (63-93) 54_01_05.pdf [3,392 KB]

要旨集

栃木県烏山地域に分布する中新統荒川層群上部の珪藻化石 -その1. 珪藻化石層序-

柳沢幸夫

   栃木県東部の烏山地域に分布する中新統荒川層群上部の珪藻化石層序について検討した。大金層上部の Og-45 から田野倉層の上限までは、Yanagisawa and Akiba (1998) の Thalassiosira yabei 帯 (NPD 5C) の上部に、入江野層は Denticulopsis dimorpha 帯 (NPD 5D) に対比される。同じ区間の放散虫および石灰質ナンノ化石層序と放射年代を総合すると、今回珪藻が産出した荒川層群上部の年代は、約 10.5-9.2 Ma と推定される。

栃木県烏山地域に分布する中新統荒川層群上部の珪藻化石 -その2. 古水深変化-

柳沢幸夫

   珪藻化石データの定量的解析と、底生有孔虫および貝類化石を補助的に用いて、栃木県東部の烏山地域に分布する中新統荒川層群上部 (大金層上部、田野倉層および入江野層) の堆積深度変化を復元した。荒川層群上部では、下位より堆積深度が外部浅海帯→上部漸深海帯→中部漸深海帯→上部漸深海帯→外部浅海帯と変化し、1つの堆積サイクルをなす。最も深くなった中部漸深海帯では、一次的にさらに深度が深くなる層準が、3層準挟まれており、このうち、田野倉層最下部にあるものが最も深度が深く、荒川層群上部のサイクル全体の最大海氾濫面である。

福島県東棚倉地域に分布する上部中新統久保田層の海生珪藻化石層序と古環境

柳沢幸夫・山口龍彦・林  広樹・高橋雅紀

   福島県南部の東棚倉地域に分布する海成の上部中新統の久保田層から、生痕化石 Rosselia の試料を採取して珪藻分析を行い、計数可能な数の珪藻化石を検出した。これにより従来曖昧であった後期中新世における珪藻化石層序と放散虫・石灰質ナンノ化石・浮遊性有孔虫層序との直接的な対応関係を明らかにできた。久保田層中部の凝灰岩鍵層 Kt-1 の直上から Kt-4B と Kt-4C の中間までの区間と、久保田層上部の基底部は、Yanagisawa and Akiba (1998) の Thalassiosira yabei 帯 (NPD 5C) の上部に相当する。久保田層における珪藻化石層序と放散虫・石灰質ナンノ化石・浮遊性有孔虫層序との対応関係は、斎藤 (1999) の標準微化石年代尺度とほぼ一致するが、一部問題も残されており今後の検討を必要とする。久保田層中部は、全体としては外部浅海帯の環境にあったものの、3 回の相対的海水準の変動があり、3 層準に海氾濫面が認められる。このうち凝灰岩鍵層 Kt-3 の直上にある最初の海氾濫面が最大のものであり、この層準で外洋性珪藻が多産して珪藻深度指標が最大値を示す。久保田層で認められた古水深 (相対的海水準) の変化のイベントは、生層序によって栃木県烏山地域の荒川層群上部に対比できる。相対的海水準の変化は、両地域でほぼ同期している。このことは、この相対的海水準の変化がローカルなものではなく、より広域のイベントであり、グローバルな静海水準変動に支配されている可能性もあることを示唆する。

岩手県一関地域に分布する中新統の海生珪藻化石層序と生層準

柳沢幸夫・林  広樹

   岩手県一関地域に分布する中部中新統下黒沢層と上黒沢層の珪藻化石層序の詳細、および各種微化石層序の生層準との対応関係を記載した。下黒沢層は Denticulopsishyalina 帯の Denticulopsis simonsenii 亜帯 (NPD 4Bb) に、上黒沢層は、Crucidenticula nicobarica 帯 (NPD5A)、Denticulopsis praedimorpha 帯 (NPD 5B) および Thalassiosira yabei 帯 (NPD 5C) の最下部にあたる。D. praedimorpha 帯最下部にある Crucidenticulanicobarica の一時的減少は、生層準として生層序学的有用である可能性がある。仙台市南西部地域との対比では、少なくとも8つの生層準が使用可能であるが、石灰質ナンノ化石の Cyclicargolithus floridanus の終産出には異時性が認められる。

新潟県上越地域西部に分布する鮮新統の珪藻化石層序と古海洋環境

柳沢幸夫・天野和孝

   上越地域西部の鮮新統の珪藻化石層序を検討した。Yanagisawa and Akiba (1998) の北太平洋珪藻化石帯区分を適用すれば、川詰層は NPD 7Bb 帯に、名立層は NPD7B-NPD 9 帯に、そして谷浜層は NPD 9 帯に相当する。また谷浜層上部は低緯度珪藻化石帯区分 (Barron, 1985) の NTD 15C に含まれる。認定された珪藻化石帯の年代と火山灰層の年代から、川詰層は前期鮮新世末期から後期鮮新世初頭 (3.9-3.6 Ma から 3.2 Ma 前後)、名立層は後期鮮新世の前期 (3.2-2.4 Ma)、谷浜層は後期鮮新世の後期 (2.4 Ma から 2.1-2.0 Ma) の堆積物であると推定できる。また、寒暖両流系の外洋性浮遊珪藻の層序学的分布と浮遊性有孔虫および軟体動物群から、本地域は川詰層堆積期 (3.9-3.6〜3.2 Ma) と名立層上部から谷浜層最下部堆積期 (2.7〜2.4Ma) には、寒流域に置かれ、暖流はほとんど流入していなかったと推定される。一方、名立層下部堆積期 (3.2〜2.7 Ma) と谷浜層主部堆積期 (2.7〜2.0 Ma) には、本地域は前線帯 (混合水域) に置かれ、暖流が流入していたと推定できる。