活断層・古地震研究報告  第6号 トップへ

活断層・古地震研究報告  第6号 (2006年)

緒言

   平成17年度は、産業技術総合研究所 (産総研) の第2期中期目標期間 (5ヵ年) の初年度であると同時に、非公務員型独立行政法人の元年でもありました。また、地震調査研究推進本部を核とする国の地震調査研究においても新たな計画の開始年度に当たり、産総研でも文部科学省予算による基盤的調査観測対象活断層の追加及び補完調査や重点的調査観測が開始されました。

   産総研における活断層・地震の調査・研究の成果は、さまざまな形で公表しています。国内外の学術誌における論文、産総研の研究情報公開データベース (RIO-DB)、地質調査総合センターの印刷物、産総研・地質調査総合センター・活断層研究センターのウエブサイトからの情報発信などです。

   『活断層・古地震研究報告』は、地質調査総合センターの印刷物として、前年度の調査・研究結果を迅速かつ詳細に報告することを目的としています。現在約2000部を印刷し、関係機関や研究者に配布しております。編集方針として、途中経過や暫定的な結果であっても時期を逸さずに公表すること、公的資金を使って行なった調査・研究のデータをすべて公表することを心がけており、ページ制限を設けず、図はすべてカラーとしております。昨年度までは活断層研究センターの職員による報告が殆どでしたが、今年度は同センター客員研究員の報告や産総研地質情報研究部門における地震関係の調査・研究結果も収録しております。報告の内容については、活断層研究センターのチームリーダーによって構成する編集委員会で内部査読を行い、一定の質を保つよう努力しています。

   本号には、13編の報告が掲載されております。このうち、境峠・神谷断層帯 (長野県) 及び曽根丘陵断層帯 (山梨県) における古地震調査は、文部科学省による基盤的調査観測対象活断層の追加及び補完調査の成果であり、糸魚川-静岡構造線 (長野県) における微小地震観測・解析結果は、文部科学省予算による重点的調査観測の成果です。また、ミャンマーにおける古地震調査は、科学技術振興調整費の成果です。高田平野 (新潟県) の微動アレイ探査は経済産業省からの委託による長周期震動耐震性評価研究の一部であり、大阪平野の浅層地盤構造モデルは財団法人 地域地盤環境研究所との共同研究の結果です。荒川低地 (埼玉県) の浅部地下構造は、産総研の「都市地質プロジェクト」の成果です。その他の報告、すなわち、綾瀬川断層 (埼玉県) におけるボーリング調査、警固断層 (福岡県) における浅層反射法調査と応力測定、南海トラフ沿岸 (静岡県) における津波堆積物調査、台湾枕頭山断層は主に産総研の運営費交付金による研究成果です。

   本報告の内容や活断層・古地震に関する調査・研究結果の公表の方法について、読者の皆様の忌憚のないご指摘やご意見を賜りたくお願い申し上げます。最後になりましたが、平成17年度の活断層・古地震の研究・調査に際して、関係自治体、教育委員会、地元自治会、土地所有者、諸官公庁の皆様に深いご理解とご協力を賜りました。篤くお礼申し上げます。

平成18年11月24日

活断層研究センター       センター長  杉山雄一
同                                副センター長  佐竹健治


目次と概要

タイトル ページ数 PDF
埼玉県鴻巣市における綾瀬川断層の被覆層の50 mボーリング、PS検層および三軸圧縮試験結果
吉見雅行・竿本英貴
1-9 1.9Mb
埼玉県鴻巣市の綾瀬川断層の被覆層の 50 mオールコアボーリングおよび坑内でのサスペンションPS検層を実施した。また、上位、中位、下位より砂層と粘性土層のコアを選定し、三軸圧縮試験を実施した。
荒川低地北部の浅部地下構造
山口和雄・加野直巳・横倉隆伸・大滝壽樹・伊藤  忍
11-20 3.3Mb
荒川低地北部で反射法地震探査による地下構造調査を実施した。調査地の北東方向への傾動と、傾動による地層層厚の変化を検出した。
高田平野北東部における微動アレイ探査
関口春子・吉見雅行・堀川晴央・吉田邦一・国松  直・杉山長志・馮少孔・徳丸哲義
21-37 3.3Mb
高田平野の堆積層のS波速度構造を推定するため、既存ボーリング地点の周辺で微動アレイ探査を行い、S波速度構造を推定した。深い堆積層構造が推定されるため、最大のアレイの三角形底辺長を5000mする3つのサイズの三重同心正三角形配置のアレイ観測を実施した。拡張SPAC法により0.17-5Hzの範囲で有効な位相速度曲線を得、S波速度構造の推定はGAにより行った。得られたS波速度構造は、基礎試錐のP波速度検層結果とおよそ3 kmの深さまでは整合するが、約3700 m以深では推定されたS波速度は4.4 km/sを超え、深度5000 mを超えても基盤に達していないボーリング結果と相容れない。また、対応する深度のP波速度5.35-6.0 km/sであることから、動ポアソン比の観点からも得られたS波速度は異常に大きな値と言うことができる。考えうる原因としては、高次モードの影響、低周波数帯域の位相速度の推定誤差、周辺域の地下構造の急変などが挙げられ、今後、慎重な検討を要する。
境峠・神谷断層帯、境峠断層および霧訪山断層における古地震調査
吉岡敏和・細矢卓志・橋本智雄・金田平太郎
39-54 3.5Mb
長野県西部に位置する境峠・神谷断層帯の境峠断層および霧訪山断層においてトレンチ調査を中心とする活動履歴調査を実施した。その結果、境峠断層については最新活動時期をより限定することができた。霧訪山断層については3地点でトレンチおよびピット調査を実施したが、具体的な断層活動時期については明らかにできなかった。
糸魚川-静岡構造線活断層系中・南部域における微小地震の発震機構解
今西和俊・長  郁夫・桑原保人・平田  直・Yannis Panayotopoulos
55-70 2.5Mb
甲府盆地南縁、曽根丘陵断層帯の古地震調査
丸山  正・斉藤  勝
71-87 6.4Mb
文科省委託調査の一環として実施した曽根丘陵断層帯 (山梨県) の古地震調査の結果について報告した。
静岡県浮島ケ原の湿地堆積物に見られる層相変化と南海トラフ周辺の地震との関係 (速報)
藤原  治・小松原純子・澤井祐紀
89-106 2.6Mb
富士川河口断層帯および南海トラフ東部における古地震の履歴を、富士川河口断層帯の東側に広がる浮島ケ原で掘削した2本のボーリングコアの層相と珪藻化石の解析結果、および14C年代測定結果などを元に考察した。これらのコアには、過去約6000年間の地震履歴が記録されていると期待される。コアには湿地の突発的な沈降を示唆する有機質で暗色の区間から淡色の区間への急変が繰り返し見られ、その一部は南海トラフ周辺で発生した歴史地震とタイミングが一致する。
沿岸低地堆積物に記録された歴史時代の津波と高潮 : 南海トラフ沿岸の例
小松原純子・藤原  治・高田圭太・澤井祐紀・タン・ティン・アォン・鎌滝孝信
107-122 2.8Mb
静岡県湖西市白須賀の海岸低地をジオスライサーで調査したところ、7層のイベント堆積物が発見された。史料記録・炭素同位体年代・堆積相・堆積粒子組成などから、そのうち4層は歴史時代の津波による堆積物であることがわかった。高潮による堆積物も1層見つかった。
強震動予測のための大阪堆積盆地の浅層地盤構造モデル
吉田邦一・山本浩司・関口春子
123-141 5.5Mb
大阪平野における強震動予測のための、沖積層と上部更新統の地盤構造モデルを作成した。多くのボーリングデータを収集し、土質・N値・有効土被り圧の3次元モデルを作成した。PS検層のデータをまとめ、S波速度推定式を作成し、これを用いて大阪平野のS波速度構造モデルを作成した。
警固断層南東部での極浅層反射法調査
加野直巳・稲崎富士・山口和雄・田中明子
143-152 3.4Mb
警固断層南東部にあたる断層と那珂川の交差するところでP波とS波の2種類の震源を用いて極浅層反射法の調査を行った。受振点間隔はどちらも1m、発震点間隔は基本的に1mであったが、P波の調査では一部2mのところがあった。P波では120-300Hz、S波では15-80Hzの周波数帯域を用いて処理を行い、2つの断面図を作成した。どちらの調査でも震度20-30mに強い反射面があり、この変化から断層の位置の推定を行った。
掘削直後の孔径変化を利用した浅部応力方位測定法の警固断層周辺への適用
木口  努・桑原保人
153-161 1.8Mb
産総研が開発している新しい原理に基づく簡便な浅部応力方位測定法を警固断層の南端部周辺に適用し、警固断層周辺の応力方位測定を実施した。断層の南端周辺の断層からの距離が2kmと4kmの地点の応力方位は北東〜東北東の範囲であり、その平均値は両地点ともおよそN60°Eとなる。この応力方位は警固断層の走向に対して高角となることから、警固断層が単純な左横ずれを生じにくい応力場と推定できる。
台湾北西部の衝突帯にある枕頭山断層 -短いが活動性が高い活断層の例-
太田陽子
163-170 1.7Mb
Paleoseismological field survey along the western coast of Myanmar
Than Tin Aung, Yukinobu Okamura, Kenji Satake, Win Swe, Tint Lwin Swe, Hla Saw and Soe Thura Tun
171-188 2.8Mb
( 訂正 ) 変動地形・ボーリング・反射法地震探査により明らかになった綾瀬川断層北部の撓曲変形
石山達也・水野清秀・杉山雄一・須貝俊彦・中里裕臣・八戸昭一・末廣匡基・細矢卓志
189-190 1.1Mb