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地質調査研究報告 Vol.76 No.3(2025)

表紙

茨城県笠間市,友部ジャンクション周辺に現れた段丘露頭

茨城県笠間市,友部ジャンクション周辺に現れた段丘露頭 茨城県の水戸地域周辺には,更新世中期以降に形成された複数の河成・海成段丘面が分布する.最近,建設工事によって段丘露頭が新たに現れ,赤城鹿沼軽石(Ag-KP,約4.4万年前)を含む複数の火山灰層が確認された.この写真は,常磐道と北関東道とが交差する友部ジャンクションの南東(本号掲載の佐藤,2025のLoc. 1)に位置する露頭である.露頭中央でひと際目立つ明黄褐色の地層がAg-KPで,粒度や含有鉱物の屈折率の違いから上下2ユニットに細分されることが明らかになった.Ag-KPの約70 cm上位には,広域テフラの姶良丹沢テフラ(AT,約2.9~3.0万年前)が確認された.詳しくは,本号の佐藤(2025)を参照頂きたい.

(写真・文:佐藤善輝)

目次

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タイトル著者PDF
論文
三浦半島北部,池子層のテフラ層序と鮮新世広域テフラとの対比 宇都宮正志・水野清秀・田村糸子 76_03_01.pdf [4.1MB]
概報
水戸周辺,東茨城台地北東部でみられた火山灰層とその予察的考察 佐藤善輝 76_03_02.pdf[8MB]

要旨集

三浦半島北部,池子層のテフラ層序と鮮新世広域テフラとの対比

宇都宮正志・水野清秀・田村糸子

 三浦半島北部に露出する上部鮮新統の池子層は,古地磁気と微化石の複合年代層序により北西太平洋における上部鮮新統の模式的セクションの一つとして近年研究が進められている.しかし,池子層のテフラ層と中央日本に広く分布する広域テフラとの対比は十分に検討されてこなかった.本研究では池子層に挟在するテフラ層のうち,同時代の他の堆積盆との層序対比に有望な細粒ガラス質火山灰層であるIkT03,IkT16,IkT19,IkT28,IkT34,IkT37,IkT41,IkT45,IkT63,IkT75の10枚を選択して,それらの重鉱物組成の記載,火山ガラスの屈折率測定及び化学組成分析を行った.また,それらテフラ層と対比できる可能性がある中央日本に広く分布するテフラについても同様な観察と分析を行った.その結果,IkT45が古琵琶湖層群や東海層群で見出されているテフラMsg-Iwmに,IkT75が中央日本各地で見出されているテフラHbt1-MT2にそれぞれ対比されることが明らかとなった.

水戸周辺,東茨城台地北東部でみられた火山灰層とその予察的考察

佐藤善輝

 水戸周辺の東茨城台地北東部において,計3地点の露頭でローム層と段丘構成層を観察し,複数の火山灰層を確認した.各火山灰層から採取した試料について層相,鉱物組成,火山ガラス・重鉱物の屈折率を観察・測定した結果,全地点で共通して赤城鹿沼軽石(Ag-KP)が認められ,一部ではその上位のローム層中に姶良丹沢テフラ(AT)が認められた.また,対象地域東部では,ローム層の下位の茨城層中からAg-KPよりも古いテフラが認められ,既報のテフラ分布も考慮すると,赤城水沼6テフラ(Ag-MzP6)に対比される可能性が高い.水戸周辺のAg-KPは細粒な基底部ユニットを特徴的に伴い,既報のものに比べて低屈折率の直方輝石が含まれる.類似する基底部ユニットは赤城火山の東南東~南東方向で報告されており,その方位は層厚分布の等値線が張り出す方向と概ね調和的である.多様な屈折率の直方輝石の混在からは,大規模噴火に先立つ先駆噴火によって細粒火山灰が噴出した可能性が示唆され,噴火イベントの経時的変化などについて,今後,化学組成などのデータを補って検討していく必要があると思われる.