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地質調査研究報告 Vol.72 No.5(2021)

表紙

日本周辺海域の磁気異常図とフリーエア重力異常図

日本周辺海域の磁気異常図とフリーエア重力異常図 磁気異常図(左)と重力異常図(右).地質調査所(現,産業技術総合研究所地質調査総合センター)で実施した1974–1999 年の白嶺丸航海で取得したプロトン磁力計による全磁力データ,船上重力計による重力データを使用して作成した.全磁力データからCM4 モデルにより永年変化と日変化の補正を行い,レベリング補正を行って磁気異常データを求めた.重力計のドリフトと変換係数を求め,低周波フィルタリング,アルチメトリ重力異常による補正とレベリング補正により重力異常を求めた.

(図・文:石原丈実)

目次

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タイトル著者PDF
論文
那須火山群周辺の中期~後期更新世テフラ層序:川谷降下火砕物の新記載と余笹川・東岩崎岩屑なだれ堆積物の層準 山元孝広 72_05_01.pdf[10MB]
白嶺丸重磁力データの整備・公開 石原丈実 72_05_02.pdf[5.6MB]
概報
関東山地東縁部に分布する蛇紋岩のクロムスピネル化学組成 原 英俊・久田健一郎 72_05_03.pdf [19.4MB]

要旨集

那須火山群周辺の中期~後期更新世テフラ層序:川谷降下火砕物の新記載と余笹川・東岩崎岩屑なだれ堆積物の層準

山元孝広

 那須火山群の東山麓に分布する後期~中期更新世の降下火砕物,岩屑なだれ堆積物の岩相と層序の再記載を行った.西郷村真船川谷では,16~12万年前に朝日岳・南月山火山から噴出した那須白河降下火砕物群の上位に未記載のデイサイト軽石火山礫が存在し,今回,これを川谷降下火砕物と新称する.その分布と火山ガラスの主成分化学組成は,この火砕物も那須火山群起源であることを示唆している.また,那須火山起源の余笹川岩屑なだれ堆積物直下の軽石を分析し,その火山ガラス主成分化学組成が32万年前の大田原火砕流堆積物と一致することを明らかにした.従って,余笹川岩屑なだれ堆積物のテフラ層序学的年代は32~23万年前である.一方,更に下位の真船降下火砕物群間から,那須火山群起源と考えられる東岩崎岩屑なだれ堆積物(新称)の存在を確認した.この堆積物はApmテフラ群に対比される根元13降下火砕物の下位にあることから,テフラ層序学的年代は35~34 万年前とみられる.

白嶺丸重磁力データの整備・公開

石原丈実

 地質調査所による1974年から1999年の地質調査船白嶺丸のほとんどの航海に対して1分間隔の均質なデータを整備した.GPSが一般的になる前は,船舶の位置データの精度が悪いため測線間の交点誤差が大きく,広範囲の磁気図・重力図の作成は困難だった.こうしたデータが多く含まれる白嶺丸の重力・全磁力データに対して,フィルターや衛星データの活用も含む各種補正により,測線に沿う不自然な異常のない磁気異常データ,アルチメトリによるものよりノイズの少ないフリーエア異常データを作成し,公開した.全航海に対するレベリング補正後の磁気異常データの二乗平均平方根交点誤差(RMS COD;root mean square crossover difference)は26.1 nT,アルチメトリ補正・レベリング補正後のフリーエア異常データのRMS CODは3.2 mGalである.測位データ補正後の観測値のみのマスターデータファイル,重力異常を計算した重力・測深データファイル,磁気異常を計算した磁力データファイルの3種類のデータを地質調査総合センター研究資料集No.714として公開した.

関東山地東縁部に分布する蛇紋岩のクロムスピネル化学組成

原 英俊・久田健一郎

 関東山地東縁部に分布する蛇紋岩のクロムスピネル化学組成について報告を行う.この地域の蛇紋岩は,1)三波川変成岩類(古武ノ山蛇紋岩),2)御荷鉾緑色岩類,3)秩父帯付加コンプレックス(駒高蛇紋岩)と3つの地質体の分布域に認められる.クロムスピネルの化学組成の検討は,Cr–Al–Fe3+の関係,Cr# = Cr/(Cr+Al)原子比,Mg# = Mg/(Mg+Fe2+)原子比,YFe = Fe3+/(Cr+Al+Fe3+)原子比及びTiO2 wt%を用い行った.Cr#,Mg#及びにTiO2 wt%着目すると,三波川変成岩類に伴う古武ノ山蛇紋岩のクロムスピネルについては,Cr#とMg#は,それぞれ0.49~0.50及び0.56~0.60の狭い組成範囲に集中する.TiO2は0.04 wt%以下を示す.御荷鉾緑色岩類中の蛇紋岩のクロムスピネルでは,Cr#とMg#はそれぞれ0.33~0.66及び0.01~0.38と相対的に広い組成範囲を示し,両者には負の相関が認められる.TiO2は3.6~13.3 wt%を示す.またMg#やFe3+含有量などから,クロムスピネルは変質及び変成作用の影響を受け,初生的な化学組成を保持していないと考えられる.秩父帯付加コンプレックス中の駒高蛇紋岩のクロムスピネルは,Cr#が0.37~0.49,Mg#が0.63~0.66と狭い組成範囲を示し,またTiO2は0.4 wt%以下である.駒高蛇紋岩のクロムスピネルは,古武ノ山蛇紋岩のクロムスピネルとよく似た化学組成を示す.既存のデータによると,駒高蛇紋岩と古武ノ山蛇紋岩のクロムスピネルは,黒瀬川帯東方延長と考えられる蛇紋岩(山中白亜系南縁,名栗断層,木呂子メランジュ)のクロムスピネルより低いCr#と高いMg#を特徴とする.