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地質調査研究報告 Vol.72 No.3(2021)

表紙

北海道東部太平洋沿岸,馬主来沼東岸に出現した完新世カキ化石層

北海道東部太平洋沿岸,馬主来沼東岸に出現した完新世カキ化石層  北海道東部の白糠丘陵南縁に位置する馬主来沼東岸において5 孔のトレンチ掘削を行い,完新世Crassostrea gigas(マガキ)化石層のタフォノミーを解明した.その結果,当地のカキ礁が形成されたのは,約7400 年前から5600 年前にかけてであり,その間に少なくとも5 回の大規模波動イベントを被った.その波源としては,千島海溝で周期的に発生してきた巨大津波の可能性も示唆される.写真左手に見えるのが海跡湖である馬主来沼,その周辺には縄文海進時の内湾を覆うように湿原が分布する.写真奥に見えるのが白糠丘陵の山々である.

(写真・文:七山 太)

目次

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タイトル著者PDF
論文
大規模波動イベントの影響を繰り返し受けたカキ礁の破壊と復元過程:北海道東部,馬主来沼における完新統Crassostrea gigas化石密集層の例七山 太・安藤寿男・近藤康生・横山芳春・仲田亜紀子・笹嶋由依・重野聖之・古川竜太・石井正之 72_03_01.pdf[6.7MB]
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岩手県久慈地域における北部北上帯ジュラ系付加複合体に挟在する苦鉄質岩の化学組成と起源 中江 訓 72_03_02.pdf[7MB]

要旨集

大規模波動イベントの影響を繰り返し受けたカキ礁の破壊と復元過程:北海道東部,馬主来沼における完新統Crassostrea gigas化石密集層の例

七山 太・安藤寿男・近藤康生・横山芳春・仲田亜紀子・笹嶋由依・重野聖之・古川竜太・石井正之

 北海道東部の白糠丘陵南縁に位置する(馬主来沼ぱしゅくるとう)東岸において5孔のトレンチ掘削を行い,堆積学的・古生物学的手法ならびにAMS14C年代測定結果を用いて,完新世Crassostrea gigas化石層のタフォノミーを解明した.その結果を箇条書きに示す.(1)湖岸露頭と5つのトレンチの壁面で作成した層相柱状図を対比して,6つの層序ユニット(SU-X, SU-A, SU-B, SU-C, SU-D, SU-E)を識別した.(2)このうち,SU-Bを構成する厚いC. gigas化石層は複合化石層を構成し,その内部に他生と自生–準自生の産状ユニットが繰り返す7つの化石層ユニット(FBa–FB-g)が認識できた.(3)当地のカキ礁が形成されたのは,約7400年前から5600年前にかけてであり,その間に少なくとも5回の大規模波動イベントを被った.その波源としては,千島海溝で周期的に発生してきた巨大津波の可能性もある.(4)当地においては,5600年前に完新世高海面期が存在し,その後,約2–3 mも海面が低下しているが,これは白糠丘陵一帯の地震性地殻変動の影響と考えられる.

岩手県久慈地域における北部北上帯ジュラ系付加複合体に挟在する苦鉄質岩の化学組成と起源

中江 訓

 岩手県久慈地域に位置する北部北上帯ジュラ系付加複合体に挟有される玄武岩・ドレライト(苦鉄質岩)について,その起源・由来を解明する目的で,螢光X線分析(XRF)による主要成分元素組成と誘導結合プラズマ質量分析(ICP–MS)による微量元素組成を求めた.北部北上帯は,それぞれを構成する海洋性岩石類に明瞭な時代差がある(安家–田野畑あっか たのはた)亜帯と葛巻–釜石亜帯に二分され,さらに両亜帯とも付加時期が系統的に異なる複数の下位階層の層序単元から構成されている.久慈地域において対象とした苦鉄質岩は沢山川層と合戦場層に分布するが,前者は安家–田野畑亜帯に,後者は葛巻–釜石亜帯に属す.分析の結果,沢山川層苦鉄質岩は比較的未分化な玄武岩質マグマを起源としたことが示唆され,大半の試料は各種の判別図などから海洋プレート内で活動した海洋島アルカリ玄武岩に類似する.合戦場層玄武岩は,沢山川層苦鉄質岩より分化が進行した玄武岩質マグマを起源とし,一部の判別図で中央海嶺玄武岩ないし島弧玄武岩領域に表示されるものの,海洋プレート内の海洋島玄武岩に由来することが明らかとなった.また両層の苦鉄質岩は,不適合元素と軽希土類元素が濃集し,N-type MORBとコンドライトの規格化図における海洋島玄武岩の分布様式に酷似する特徴を示す.