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地質調査研究報告 Vol.71 No.4(2020)

Special Issue: Scientific results from InterRad XV in Niigata 2017 (Proceedings)

表紙

InterRad XV の集合写真

InterRad XV の集合写真 InterRad XV(国際放散虫研究者協会第15回会議)の開会式で撮影された全参加者の集合写真(2017年10月23日,新潟大学中央図書館ライブラリーホール).世界16カ国(オーストラリア,中国,フランス,ドイツ,インドネシア,イタリア,日本,韓国,モンゴル,フィリピン,ロシア,スロベニア,スペイン,スイス,トルコ,アメリカ)から総勢187名の参加があった.1980年代から,産総研地質調査総合センターはナショナルセンターとして日本国内の放散虫研究を支援してきており,2017年10月20日~11月1日に開催されたInterRad XVを共催した.

(写真:InterRad XV in Niigata 2017,文:中江 訓)

目次

全ページ PDF : 71_04_full.pdf [37MB]

タイトル著者PDF
巻頭言
GSJ Bulletin Special Issue: Scientific results from InterRad XV in Niigata 2017 (Proceedings)NAKAE Satoshi and UCHINO Takayuki 71_04_01.pdf [244KB]
口絵
Radiolarian-inspired art design: Simplification and identificationITO Tsuyoshi, MORIA, YOKOYAMA Hayato, ISHIWATA Sayaka and MATSUOKA Atsushi 71_04_02.pdf [2MB]
記事
Radiolarian biochronological study:
[論文]
Early Oxfordian radiolarians from the ammonite-bearing Fludergraben section (Northern Calcareous Alps, Austria)
SUZUKI Hisashi and GAWLICK Hans-Jürgen 71_04_03.pdf [6.5MB]
[論文]
Middle Jurassic radiolarians from the ammonite bearing Toyora Group, Yamaguchi Prefecture, Southwest Japan
NISHIZONO Yukihisa and YONEMITSU Isao 71_04_04.pdf [2MB]
[概報]
Radiolarian age of Triassic striped chert within the Jurassic accretionary complex of the Ashio terrane in the Ashikaga area, Tochigi Prefecture, central Japan
ITO Tsuyoshi 71_04_05.pdf [8.3MB]
Radiolarian fauna related to Jurassic accretionary tectonics in Japan:
[論文]
Late Jurassic radiolarians from mudstone near the U–Pb-dated sandstone of the North Kitakami Belt in the northeastern Shimokita Peninsula, Tohoku, Japan
UCHINO Takayuki and SUZUKI Noritoshi 71_04_06.pdf [6.3MB]
Isotopic analyses for paleoceanic environmental study:
[論文]
SIMS analysis of Si isotope for radiolarian test in Mesozoic bedded chert, Inuyama, central Japan
Maximilien BÔLE, IKEDA Masayuki, Peter O. BAUMGARTNER, HORI S. Rie and Anne-Sophie BOUVIER 71_04_07.pdf [3.3MB]
[論文]
Oxygen isotope analysis of Mesozoic radiolarites using SIMS
Maximilien BÔLE, IKEDA Masayuki, Peter O. BAUMGARTNER, HORI S. Rie, Anne-Sophie BOUVIER and Duje KUKOČ 71_04_08.pdf [7.4MB]
Bibliographic lists related to radiolarian studies by GSJ:
[資料・解説]
Radiolarian research by the Geological Survey of Japan, AIST, with bibliographic lists from 1950 to 2019
ITO Tsuyoshi, NAKAE Satoshi and ITAKI Takuya 71_04_09.pdf [5MB]

要旨集

アンモナイト層準直上のジュラ系上部統基底フルダーグラーベン部層から産した放散虫化石(北部石灰アルプス,オーストリア)

鈴木寿志・ハンス- ユルゲン ガウリック

 北部石灰アルプスのフルダーグラーベン(オーストリア)において,アンモナイトで年代決定されたクラウス層石灰岩(ジュラ系中部統最上部)の直上に累重する放散虫岩から放散虫群集を記載した.この放散虫群集はジュラ系上部統最下 部(Oxfordian)からのものであり,放散虫生層序を考える上で重要である.ジュラ系中部統から得られる長期間生存種が多い中で,上部統最下部から初めて出現する指標種4 種(Kilinora spiralis,Fultacapsa sphaericaProtunuma japonicusPseudoeucyrtis reticularis)を識別した.得られた放散虫種の生存期間について再検討し,ジュラ系中部統から産する種が引き続き上部統からも産する例を明らかにした.その結果,北部石灰アルプスのジュラ紀放散虫化石帯において,これ までZhamoidellum ovum 帯中に含められていたWilliriedellum dierschei 亜帯を,新たな指標種に基づき独立した帯として再定義した.古生物学的記載の章では37属67種2亜種を記載し,2属(Loopus属,Pseudodictyomitra属)1種(Protunuma japonicus)の標徴を改定するとともに,Loopus属の模式種を再指定した.

西南日本,山口県に分布するアンモナイトを含む豊浦層群から産出した放散虫

西園幸久・米光功雄

 豊浦層群は西南日本山口県に分布する日本における下部−中部ジュラ系模式地の一つであり,アンモナイト化石を多産する.しかし,放散虫のような微化石の報告は今まで知られていない.豊浦層群最上部7か所からTranshsuum hisuikyoense帯およびStriatojaponocapsa plicarum帯の放散虫を見出した.これらの放散虫は,中期ジュラ紀AalenianからBathonianを指示すると考えられる.この放散虫指示年代は,アンモナイトやイノセラムスで決定された地質年代よ りもやや古い.先行研究によればStj. plicarumの初出現年代は,AalenianとBajocianの境界付近と推定されているにすぎない.この課題を検討するためには,アンモナイトと放散虫の産出間隙からAalenianを指示するアンモナイトのような 化石資料のさらなる蓄積が必要である.

栃木県足利地域の足尾テレーンジュラ紀付加体に含まれる三畳系ストライプチャートの放散虫年代

伊藤 剛

 チャートの単層中に発達するストライプ構造は,西南日本内帯のジュラ紀付加体丹波- 美濃テレーン及び足尾テレーンでみられる.本研究では,栃木県足利市及び佐野市の4セクション(飛駒・大岩・月谷・織姫セクション)中にみられるストライプチャートについて記載するとともに,飛駒セクションを除く3セクションの放散虫化石年代について検討する.ストライプチャートは,ストリークとスペーシングからなる.ストリークは,ピンストライプ状構造における薄い部分を指し,主に粘土鉱物からなる.スペーシングは,ストリークの間の厚い部分であり,隠微晶質石英を主体とする.ストライプチャートに富む大岩セクションは,上部三畳系カーニアン階中部~ノーリアン階中部に部分的に対比される.ストライプチャートを部分的に含む月谷セクションと織姫セクションは,中部三畳系アニシアン階中部~上部と上部三畳系ノーリアン階上部~レーティアン階下部にそれぞれ対比される.

下北半島北東部,北部北上帯のU–Pb 年代測定砂岩近傍の泥岩から得られた後期ジュラ紀放散虫化石

内野隆之・鈴木紀毅

 青森県下北半島の北東部では,北部北上帯に属する付加体が,(桑畑山くわばたやま)地域,片崎山地域,大森地域に分布している. 桑畑山地域の付加体については,後期ジュラ紀の岩屋ユニットと前期白亜紀前半の(尻労しつかり)ユニットに区分されるなど,これまで多くの研究がなされているものの,片崎山・大森地域の付加体については,大森地域の砂岩から砕屑性ジルコンU–Pb 年代が得られているほかは,詳しいデータはほとんどない.
 本研究ではジルコン年代が測定された砂岩近傍の泥岩からEucyrtidiellum cf. pyramis をはじめとする後期ジュラ紀(おそらくキンメリッジアン期)の放散虫化石が見出された.この泥岩の化石年代と砂岩のジルコン年代とは大差なく,また泥岩と砂岩との層準の間に不連続構造面も確認されないことから,両者の堆積年代に大きな乖離はないと考えられる.
 岩相・地質構造・放散虫化石年代から,片崎山・大森地域の付加体と,桑畑山地域の岩屋ユニットは対比可能である.つまり,下北半島北東部の付加体は,後期ジュラ紀に形成された桑畑山地域の岩屋ユニット及び片崎山・大森地域の未命名ユニットと,前期白亜紀に形成された桑畑山地域の尻労ユニットとに区分される.

二次イオン質量分析法(SIMS)を用いた中部日本犬山地域中生代層状チャート中の放散虫殻Si同位体分析

Maximilien BÔLE・池田昌之・Peter O. BAUMGARTNER・堀 利栄・Anne-Sophie BOUVIER

 全球シリカ循環は長期的気候システムの重要な要素だが,その制御要因は古環境指標の制約に乏しいため,不確実性が大きい.本論では,二次イオン質量分析計(SIMS)によって測定された犬山地域の中生代チャートに含まれる放散虫化石のシリカ変動(δ30Si)を報告する.測定の結果,放散虫殻δ30Siは-0.3 ~ 2 ‰で,現在及び新生代の放散虫殻の値と調和的であった.さらに,予察的なδ30Si 変動は低解像度にもかかわらず,1,000万年スケールでは生物起源シリカ(BSi)埋没速度と逆相関し,従来の古生産性プロキシとしてのδ30Si の解釈に矛盾する結果となった.この時間スケールではBSi 埋没速度は風化速度に依存するため,風化しやすく低δ30Si の苦鉄質岩の風化速度変化によって,この逆相関は説明されるかもしれない.さらに高解像度でδ30Si 記録を測定することで,過去のシリカ循環をより深く理解できると期待される.

SIMSを用いた中生代放散虫岩の酸素同位体分析

Maximilien BÔLE・池田昌之・Peter O. BAUMGARTNER・堀 利栄・Anne-Sophie BOUVIER・Duje KUKOČ

 化石殻の炭酸カルシウムの酸素同位体比(δ18O)を用いた古海洋研究が広く用いられているが,珪質化石殻については分析の制約や同位体分別の不確定性等のため,古海洋研究への適用例は限られている.本論では,二次イオン質量分析計(SIMS)によって測定した日本,イタリア,スイス,ルーマニアの中生代チャートに含まれる放散虫化石δ18O 変動の古海洋指標としての有用性について報告する.53試料507点の測定の結果,放散虫殻δ18Oは 19.8 ~ 35.3 ‰で,現世及び新生代の放散虫殻の値と調和的であり,標準試料UNIL-Q1の繰り返し測定誤差0.3 ‰以上に1 チャート試料中のδ18O変化がみられる.このことから,続成作用(セグリゲーション)の影響による均一化は完全ではなく,初生的な値が保存されている可能性を支持する.さらに,予察的な放散虫化石のδ18O記録は低解像度にもかかわらず,1,000万年スケールではコノドントのアパタイトや低Mg 炭酸塩殻に確認される前期−中期三畳紀の正のシフトや後期三畳紀の安定した高い値と調和的であるが,前期ジュラ紀のパンサラッサ海遠洋域における放散虫化石δ18Oの約8 ‰の負のシフトはテチス海沿岸域の低Mg 炭酸塩殻には確認されない.さらに高解像度で他指標と比較することで,放散虫化石のδ18O記録の古海洋学的意義をより深く理解できると期待される.

地質調査総合センターにおける放散虫研究の歴史及び1950年~ 2019年(昭和25年~令和元年)の関連出版物目録

伊藤 剛・中江 訓・板木拓也

 1882年(明治15年)に設立された地質調査所(現 産業技術総合研究所地質調査総合センター)は,2017年に創立135周年を迎えた.その歴史の中で,地質図,論文,ニュース誌など,数多くの出版物を刊行してきた.本論では,これらの出版物の中で放散虫に関係するものを纏めた.1950年(昭和25年)から2019年(令和元年)の間の出版物の中で,「放散虫」という単語は,5万分の1 地質図幅では252編,20万分の1 地質図幅では21編,地質調査所月間報告及び地質調査研究報告では75編,地質ニュースでは14編,GSJ地質ニュースでは21編,Cruise Reportでは7編の論文・記事で記述されている.放散虫研究にかかわる出版物の数は1980年代に増加しており,これはいわゆる放散虫革命と同時期である.