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地質調査研究報告 Vol.67 No.2 (2016)

表紙

島根県 中東部の雲南市掛合町に見られる磁鉄鉱系花崗岩の風化露頭

島根県,中東部の掛合町に見られる磁鉄鉱系花崗岩の風化露頭 花崗岩はカリウム長石がピンク~赤褐色を示すことが多い.好例は時代的に著しく古い先カンブリア紀花崗岩類に見られ,粗粒のカリ長石が帯色し全体が赤褐色に見える.その原因は,この岩石が主に磁鉄鉱系に属するために少量の磁鉄鉱を含み,それが若干の風化作用によって生じる粉状赤鉄鉱や褐鉄鉱によるものと考えられている.
 しかし我が国では,磁鉄鉱を含まないチタン鉄鉱系に属する岡山市内の萬成花崗岩がピンク花崗岩としては著名であり,商業的に販売されている.国会議事堂も同系統の花崗岩で作られ,これは山陽帯の倉橋島(おさめ)の産である.領家帯の花崗岩類は一般に白色である.我が国の花崗岩のカリ長石の色の原因については,まだ研究の余地がある.
 写真は島根県雲南市掛合町波多において,1992年の国道建設時に見られた切り割面で,磁鉄鉱系に属するピンク花崗岩が著しい風化作用によって赤褐色化したものである.このような赤褐色化が著しい風化花崗岩露頭は山陽帯や領家帯では存在しない.

(写真・文:石原舜三)

目次

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タイトル著者PDF
論文
Geochemical variation of the Late Cretaceous-Paleogene granitoids across the Ehime-Hiroshima-Shimane transect, Japan Shunso Ishihara and Tetsuji Ohno 67_02_01.pdf [4MB]
概報
SHRIMP によるジルコンU-Pb 年代測定:試料調製法及び標準試料測定結果 荒岡大輔・昆 慶明・江島輝美 67_02_02.pdf [640KB]

 

要旨集

西南日本内帯,広島付近を横断する後期白亜紀—古第三紀花崗岩類の地球化学的性質の南北変化

石原舜三・大野哲二

 標記地域の花崗岩類分布域は南から領家帯・山陽帯・山陰帯に分けられる.領家帯では花崗岩のほか花崗閃緑岩が分布するが,山陽帯と山陰帯では少量の斑れい岩–閃緑岩を伴うものの主体は花崗岩である.全岩帯磁率は山陰帯で最も高く,南方に低くチタン鉄鉱系の値となり,領家帯で最少となる.ジルコンU-Pb年代は,領家帯が最も古く97.8~95.3Ma,山陽帯が92.3~85.6Ma,山陰帯が39.8 ~33.5Maである.化学組成上はNa2O/K2Oが山陰帯の花崗岩類で最も大きく,領家帯の岩石で最も小さい.これは火成岩起源で同比が大きく堆積岩起源で同比が小さい起源物質の性質を反映しているものと思われる.アルミナ飽和指数は1.0は超えるが,1.1を超えるSタイプは存在しない.カリ長石のKを置換するRbとPbは山陰帯で最も乏しく,領家帯とその北縁の山陽帯で富んでいる.この傾向はδ18Oの傾向と同様であって,そのマグマの生成に堆積岩地殻物質が関与したことを示している.

SHRIMP によるジルコンU-Pb 年代測定:試料調製法及び標準試料測定結果

荒岡大輔・昆 慶明・江島輝美

 ジルコンのU-Pb年代測定法は,火成岩の固化年代を幅広い年代で高精度に決定できる手法として有用である.そこで本研究では,高感度・高解像度イオンマイクロプローブSHRIMPを用いたジルコンのU-Pb年代測定法,およびSHRIMP測定用の試料調製法を産業技術総合研究所にて立ち上げた.まず,高電圧パルス選択性粉砕装置SELFRAG Labや重液等を用いて岩石試料からジルコンを効率的に単離した.その後,単離したジルコンを樹脂封入し,鏡面研磨,洗浄,金蒸着,カソードルミネッセンス像の観察を行うことで,SHRIMP測定用の試料調製手順を確立させた.また,古生代から原太古代にかけての年代値をもつジルコン標準試料3 種(R33,OG1,91500)について,SHRIMPによるU-Pb年代測定を行った.全ての測定結果が先行研究の年代値と誤差範囲内で一致していたことから,産業技術総合研究所のSHRIMPにおいて正確なU-Pb年代測定法を確立できた.