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地質調査研究報告 Vol.66 No.3/4 (2015)

表紙

紀伊半島北西部,高野山地域の地質

紀伊半島北西部,高野山地域の地質 1:三波川変成岩類,2-9:四万十帯上部白亜系花園層(2-3:Hn1 ユニット,4-9:花園層主部Hn2 ~ Hn5 ユニット).

  1. 有田川構造線北側の泥質片岩,九度山.
  2. 砂岩レンズを含む頁岩.頁岩には面構造が観察される(Hn1),東郷北.
  3. 頁岩に挟在される白色層状チャート(Hn1),北又.
  4. 砂岩岩塊を含む混在岩(Hn2),湯子川・貴志川合流付近.
  5. 黒色頁岩と灰緑色凝灰質頁岩を基質とする混在岩(Hn2),4 と同一地点.
  6. 暗赤色層状チャート(Hn2),湯川辻北西.
  7. 枕状構造を示す玄武岩質溶岩(Hn2),4 と同一地点.
  8. 8A.成層砂岩(Hn3),下筒香.8B.砂岩中の頁岩パッチ( 長径1cm).
  9. 白色珪長質凝灰岩を挟在する頁岩(Hn4),池津川.

詳細は本文41 ~ 79 頁参照.

(写真・文:栗本史雄)

目次

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タイトル著者PDF
論文
紀伊半島北西部,高野山地域の上部白亜系花園層の地質と放散虫化石 栗本史雄・木村克己・竹内 誠 66_03_01.pdf [13MB]
Elemental distribution of surface sediments around Oki Trough including adjacent terrestrial area: Strong impact of Japan Sea Proper Water on silty and clayey sediments Atsuyuki Ohta, Noboru Imai, Shigeru Terashima, Yoshiko Tachibana, Ken Ikehara and Hajime Katayama 66_03_02.pdf [4MB]

 

要旨集

紀伊半島北西部,高野山地域の上部白亜系花園層の地質と放散虫化石

栗本史雄・木村克己・竹内 誠

 紀伊半島西部において,三波川帯,秩父帯及び四万十帯は東西に延びた帯状配列を示すが,紀伊半島中央部において秩父帯の地質体が欠如し,三波川帯と四万十帯の地質体が有田川構造線を介して接する.秩父帯の地質体が欠如する紀伊半島中央北西部の高野山地域には,四万十帯の上部白亜系花園層と南に隣接して湯川層及び美山層が分布する.
 花園層は,北は有田川構造線を介し三波川変成岩類と,南は梁瀬(やなせ)断層を介して湯川層,湯川スラストを介して美山層と接する.同層は岩相及び地質構造からみて,Hn1,Hn2,Hn3,Hn4,Hn5の5ユニットに区分される.Hn1ユニットは最も北に分布し,変形による面構造の発達が認められる.一方,南側のHn2~Hn5ユニット(花園層主部と呼ぶ)は,Hn1ユニットと比較して面構造の発達が弱い. Hn1ユニットと花園層主部は東北東~西南西性の神谷(かみや)断層で画される.
 花園層は頁岩を主体とし,砂岩,砂岩頁岩互層,珪長質凝灰岩,チャート,赤色頁岩,石灰岩,玄武岩及び混在岩を伴う.頁岩を基質とし,砂岩,チャート,玄武岩などの岩塊を含む混在岩が特徴的である.また,複数のユニットが衝上断層による覆瓦構造を示し,基質の頁岩はチャートよりも若い時代の放散虫化石を産出する.湯川層は,岩相の特徴により構造的上位からYk1,Yk2,Yk3の3ユニットに区分され,北側の花園層とは梁瀬断層で画される.美山層はMy1,My2,My3,My4の4ユニットに区分されるが,本地域ではMy1ユニットの北縁部が分布し,北側の湯川層とは湯川スラストによって画される.
 花園層,湯川層及び美山層から得られた放散虫化石を検討し,群集Ⅰ:Holocryptocanium barbui群集,群集Ⅱ:Dictyomitra formosa群集,群集Ⅲ:Dictyomitra koslovae群集,群集Ⅳ:Amphipyndax tylotus群集の4群集を識別した.既報告等との比較から,群集Ⅰは後期アルビアン期~セノマニアン期,群集Ⅱはチューロニアン期~コニアシアン期,群集Ⅲはサントニアン期~前期カンパニアン期,群集Ⅳは後期カンパニアン期を指示すると考えられる.
 花園層は岩相や覆瓦構造などの特徴から付加体であり,放散虫化石に基づいてHn1ユニットはチューロニアン期~コニアシアン期,花園層主部のHn2ユニットはチューロニアン期~後期カンパニアン期, Hn3~Hn4ユニットはチューロニアン期~最末期カンパニアン期,Hn5ユニットは後期アルビアン期~最末期カンパニアン期に形成されたと考えられる.湯川層及び美山層から産出した放散虫化石が示す地質時代は従来の報告と矛盾しない.

隠岐トラフ周辺海域及び近接陸域における表層堆積物の元素分布:特に日本海固有水のシルト質および粘土質堆積物への強い影響

太田充恒・今井 登・寺島 滋・立花好子・池原研・片山肇

  全国陸域地球化学図に続く海域地球化学図プロジェクトにおいて,日本海西部海域から460個の海洋堆積物が採取され,53元素の分析がなされている.これら海洋堆積物の粒径や化学組成は堆積環境ごと(陸棚,縁辺台地,斜面,海盆など)で大きく異なる.まず陸棚上砂質堆積物の特徴として,主たる起源物質と考えられる(隣接地域の)河川堆積物の化学的特徴を反映していない事が挙げられる.陸棚の堆積物の多くは,鉄水酸化物で覆われた石英を多く含みかつヒ素に著しく富む特徴を有する.この特徴から,陸棚試料の多くは海退期-海進期に形成された残留堆積物が主で,現世の河川堆積物の寄与が小さいと考えられる.縁辺台地の堆積物の特徴として,現世のシルト質堆積物で広く覆われている事が挙げられる.これは,対馬海流(表層水)と日本海固有水(深層水)の境界が縁辺台地上(水深200–500m)に位置しており,細粒なシルト質堆積物がこの水塊境界部で選択的に沈殿しているためである.西部縁辺台地のシルト質堆積物は,ニオブ,希土類元素,タンタル,トリウムなどに富んでおり,恐らく第四紀のアルカリ火山岩の削剥物の供給があったことを意味している.これらの堆積物は海流の影響を受けて200 kmほど東方へ運ばれていることが明らかとなった.一方,縁辺台地東方部においては,シルト質堆積物は銅,亜鉛,水銀などに富む特徴を有し,恐らく堆積物中の残留生物源物質の影響(有機物と結合して存在している)を見ていると考えられる.粘土質堆積物は隠岐トラフや海盆域に広く分布し,日本海固有水の影響を受けて,半遠洋性の非常に酸化的な環境下にある.堆積物表層部(0–4 cm)には,初期続成作用に伴う薄いマンガン酸化物層が認められ,バナジウム,コバルト,ニッケル,モリブデン,アンチモン,鉛を多く含む.このように,本調査海域の海洋堆積物の化学組成は,堆積環境に強く影響を受けていることが明らかとなった.