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地質調査研究報告 Vol.66 No.1/2 (2015)

表紙

菱刈鉱脈鉱床の高品位金銀鉱石の研磨薄片(左)とその全面のX線分析マップ−金とカリウムの分布−(右)

菱刈鉱脈鉱床の高品位金銀鉱石の研磨薄片(左)とその全面のX線分析マップ−金とカリウムの分布−(右) 研磨薄片は,産総研地質情報基盤センター地質標本館室 地質試料調整グループ作成.ダイヤモンド(1μm)研磨仕上げ.太い白矢印と点線はそれぞれ鉱物の成長方向と鉱脈と母岩の境界を表す.白色部は主に氷長石(KAlSiO8)と石英からなる.暗色部は主に金銀鉱物(エレクトラムなど)が分布する.X線面分析は微小部蛍光X線分析装置(Bruker M4 TORNADO,産総研地質調査総合センター共同利用実験室管理)を用いて実施した.金(赤色部)とカリウム(水色部)の明瞭な分布の違いが見られるとともに,金が繰り返し沈殿している様子が観察出来る.詳細は本文1~14頁参照.

(写真・文:清水 徹)

目次

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タイトル著者PDF
論文
Elemental analysis of bonanza ores of the Ryosen veins, Hishikari epithermal Au–Ag deposit, Japan, using micro X-ray fluorescence (μ-XRF) Toru Shimizu 66_01_01.pdf [10MB]
概報
新たに認定された第四紀火山の放射年代:笹森山火山 山元 孝広 66_01_02.pdf [1.5MB]
三重県中部、大紀町阿曽の石灰華に含まれる植物遺体のAMS 14C年代 植木 岳雪 66_01_03.pdf [2MB]
金沢城石垣(戸室石)の帯磁率 ―自然石積石垣・割石積石垣・粗加工石積石垣― 長 秋雄 66_01_04.pdf [2MB]

 

要旨集

微小部蛍光X線分析装置(μ-XRF) による菱刈浅熱水性金銀鉱床産ボナンザ鉱石の元素分析

清水 徹

 微小部蛍光X線分析装置(Bruker M4 TORNADO)を用いて,掌~顕微鏡スケールにて菱刈浅熱水性金銀鉱床菱泉脈のボナンザ 鉱石表面の元素分布を調べた.数十ミクロンの空間分解能を持つX線面分析によれば,Au, Ag, Cu, Fe, Zn, Se およびS は互いに相 関するが,これらの元素はいずれもKとは逆相関する.
 顕微鏡観察よれば,鉱脈構成鉱物は,面分析における以下の元素濃集を意味する.エレクトラム:Au及びAg,ナウマン鉱:Ag及びSe, 黄銅鉱:Cu, Fe及びS,閃亜鉛鉱:Zn及びS, 氷長石:K.
 沸騰熱水中の金及び銀二硫化物錯体から金銀が沈殿するという, 従来のモデル研究または実験的研究結果と併せて考えると,Auと Kの間の逆相関は,エレクトラム晶出時の動的効果に起因する.すなわち,熱水沸騰時,最初のpH増加による氷長石晶出の後,硫化水 素脱ガスの影響が上回ると,金及び銀の二硫化物錯体の分解が起こりエレクトラムが晶出する.

新たに認定された第四紀火山の放射年代:笹森山火山

山元 孝広

  福島市南西部の笹森山火山は,第四紀下限の年代が改正されたことにより,新たに追加された第四紀火山の一つである.安山岩溶岩からなる山体の周辺にはデイサイト質の軽石流堆積物が分布しており,本報告ではこれを蓬莱(ほうらい)火砕流堆積物として新たに定義した.本堆積物のジルコンからは1.8± 0.3 Maと1.9 ± 0.2 Maのフィッション・トラック年代値が得られ,笹森山火山の最末期の活動を示している.

三重県中部,大紀町阿曽の石灰華に含まれる植物遺体のAMS 14C 年代

植木 岳雪

  三重県中部,長島地域の度会郡大紀町阿曽において,大内山川の低位段丘上には大規模な石灰華が発達している.石灰華の転石に含まれる木本の葉の AMS 14C年代は約130年前であり,江戸時代から明治時代初期のものであった.

金沢城石垣(戸室石)の帯磁率 −自然石積石垣・割石積石垣・粗加工石積石垣−

長 秋雄

  金沢城1期(文禄期,1592 ~ 1596)の3 石垣,2期(慶長期,1596 ~ 1615)の5 石垣,3期(元和期,1615 ~ 1624)の2 石垣,4期(寛永期,1624 ~ 1644)の4 石垣,5期(寛文期,1661 ~ 1672)の2石垣で,石垣に使われた戸室石の帯磁率を測定し,ヒストグラムを作成した.ヒストグラムの形状は,4タイプに大別でき,金沢城の東南東約8kmにある戸室石切丁場の4地域でのヒストグラムと対比して,各期での採石域を比定した.結果は,冨田(2013a)が戸室石切丁場に残る石垣材と金沢城石垣の対比から求めた採石域の変遷と整合した.