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地質調査研究報告 Vol.62 No.9/10 (2011)

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表紙

八潮 GS-YS-2 コアに挟在するテフラ

八潮 GS-YS-2 コアに挟在するテフラ

   関東平野中央部には、地下浅部に広く更新統下総層群が分布することが知られている。写真は関東平野中央部の埼玉県八潮市において掘削された掘削長約94 mのボーリングコア (GS-YS-2コア) にみられる下総層群のテフラである。写真のテフラのうち YS2-1、YS2-2 はそれぞれ TE-5a、TE-5b に対比された。また YS2-3、YS2-4 及び YS2-6 は大町 APm テフラ群の A2Pm あるいは A3Pm、YS2-7 は BT72 に対比される可能性がある。これらのうち海洋酸素同位体ステージ11に降灰した広域テフラ TE-5a は関東平野中央部に広く分布し、関東平野の地下構造を知るうえで極めて重要である。内容の詳細は本号の坂田ほか (2011) を参照。

(写真・文 : 坂田健太郎)

目次

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タイトル著者 PDF
論文
八潮 GS-YS-2 コアに見られる更新統下総層群の堆積サイクルとテフロクロノロジー 坂田健太郎・中澤  努・中里裕臣 (329-345) 62_09_01.pdf [3.2MB]
IR and XANES spectroscopic studies of humic acids reacting with Cr (III) and Cr (VI) Atsuyuki Ohta, Hiroyuki Kagi, Hiroshi Tsuno, Masaharu Nomura, Takashi Okai and Norio Yanagisawa (347-355) 62_09_02.pdf [1MB]
環境ガンマ放射線測定用井戸型ゲルマニウム検出器の特性と原発事故によるバックグラウンド汚染
-地質調査総合センターに設置されたシステムを例に-
金井  豊・齋藤文紀 (357-369) 62_09_03.pdf [1.4MB]
概報
限外ろ過法によるコロイドの分析に関する検討 (コロイド特性把握の研究 -その3) 金井  豊 (371-388) 62_09_04.pdf [1.3MB]

 

要旨集

八潮 GS-YS-2 コアに見られる更新統下総層群の堆積サイクルとテフロクロノロジー

坂田健太郎・中澤  努・中里裕臣

   関東平野中央部の地下浅部に分布する下総層群は、古くからボーリング調査に基づく層序、地質構造の研究が行われている (森川、1962 ; 新堀ほか、1970 ; 菊地・貝塚、1972 ; 高原、1984 ; 関東平野中央部地質研究会、1994 ; 埼玉県環境部防災局地震対策課、1996 ; 中澤・遠藤、2000 ; 中澤・中里、2005 ; 中澤ほか、2009など)。しかし、ボーリングコアの詳細な観察例は少なく、層相や挟在するテフラに関する情報は十分とは言えない。最近、「大宮」「野田」地域においては堆積サイクルとテフロクロノロジーの詳細な検討に基づく下総層群の層序研究が行われるようになったが (中澤・中里、2005 ; 中里ほか、2005 ; 中澤ほか、2009 ; 中澤・田辺、2011 など)、その南の「東京東北部」地域については未だ層序に関する情報がほとんどないのが現状である。今回、筆者らは「東京東北部」地域に相当する埼玉県南東部の八潮市木曽根において掘削された GS-YS-2 コア (第1 図) の詳細な検討を行った。本稿では GS-YS-2 コアに見られる層相の記載を行い、その堆積環境と堆積サイクルについて考察する。また、挟在するテフラの特徴を記載し、既知のテフラとの対比を試みる。

六価クロムおよび三価クロムと反応したフミン酸に対する IR および XANES 分光学的研究

太田充恒・鍵  裕之・津野  宏・野村昌治・岡井貴司・柳澤教雄

   土壌中の腐植物質による六価クロムの還元反応をよりよく理解するために、フミン酸を六価及び三価クロムと反応させ、それらを赤外分光法およびX線吸収端近傍構造 (XANES) を用いて特性解析を行った。六価クロムによって酸化されることで、腐植酸中のアルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基が増加することが期待される。しかし、これらの官能基に該当する赤外吸収スペクトルバンドに有意な強度の増加は認められなかった。六価クロムによって酸化された腐植酸の赤外吸収スペクトルは、三価クロムと反応させた腐植酸のスペクトルに類似していた。つまり、今回の実験条件下では、酸化還元反応の前後でクロムの結合に関与する官能基の種類または量に大きな変化がない事を示している。六価・三価クロムと反応させた腐植酸の赤外吸収スペクトルには、3,400 cm-1、1,608 cm-1、1,384 cm-1 の吸収強度が増加し、1,707 cm-1 や1,236 –1,250 cm-1 の吸収強度が減少する傾向が認められた。これらの特徴から、クロムは2つの異なる結合形態を持っていると考えられる。すなわち、水和したクロムが腐植酸に外圏錯体として結合しているものと、腐植酸のカルボキシル基と内圏錯体として存在しているものである。次に、クロムの K 吸収端 XANES スペクトルを測定したところ、六価から三価に還元されたクロムが腐植酸と結合することが明らかになった。実験溶液中の六価クロム濃度の変化の違いによる XANES スペクトルの変化は認められなかった。これらの結果は赤外スペクトルの特徴と一致する。赤外スペクトルによって示唆された 2 種類の結合形態の割合は、XANES スペクトルを用いることで定量的に見積もることができ、水和したクロムイオンが静電的に腐植酸に吸着した割合が 50 %、腐植酸中のカルボキシル基と結合したクロムの割合が 50 %であった。しかし、実験溶液中の pH が高くなるにつれ、一部のクロムが水酸化物として沈殿することも明らかになった。そのため、水酸化クロムの沈殿を避けるためには、pH をより低くする、クロムの濃度を下げるなど注意が必要である。

環境ガンマ放射線測定用井戸型ゲルマニウム検出器の特性と原発事故によるバックグラウンド汚染
-地質調査総合センターに設置されたシステムを例に-

金井  豊・齋藤文紀

   地質調査総合センターにおいて低レベル測定を目指した新たなガンマ線測定システムを立ち上げ、更新機器と従来の機器の特性の違いを種々検討し、以下のことを明らかにした。
   デュワー瓶と検出器との配置は J 型のクライオスタットとし、不純物の少ない無酸素銅などを検出器素材に使用し、さらに測定室空間を小さくすることなどは、バックグラウンドの低減に有効であった。
   検出器と試料とのジオメトリーの関係は、試料容器において1 mm の高さ変化に伴い、最大でも約 1 %程度のピーク強度の変動が見られ、試料高さ補正を mm 単位で行うか、高さをそろえる必要がある。点線源を用いた実験や井戸内の点線源位置だけを考慮したモデル計算では、実際の計数率の変化を表すことはできず、試料自体が厚みを持つことによって生じる自己吸収による検出効率の影響因子の方がはるかに大きいことが判明した。
   本システムにおいては、バックグラウンドに Pb-210 が検出されないため定量下限が低く、低濃度の堆積物中の Pb-210 測定において良好な測定が可能である。しかし、原発事故によって生じた検出器汚染は、繰り返し洗浄によって低減したものの、Cs-137 の汚染に関しては堆積年代算出の利用において注意が必要である。

限外ろ過法によるコロイドの分析に関する検討 (コロイド特性把握の研究 -その3)

金井  豊

   環境中におけるコロイドの特性把握の研究の一環として、限外ろ過法による試料の濃縮・分離に関してモデル実験-シミュレーション計算によりその手法の適用性・妥当性を検討した。クロスフローろ過法 (CFF) では、溶存粒子の濃縮が可能であるが、粒子濃度の定量においては、濃縮係数の補正だけでは不十分であり、フィルターの孔径に近い粒子 (保持係数Rc が0 < Rc < 1 のもの) では十分な分離が困難であるため、時系列に沿った濃度変化から粒子濃度が求められる。モデル実験計算の結果では、ある成分のいろいろな粒径の混合した試料を分離する際には、0 < Rc < 1 に該当する粒子の割合によって粒径分離の良否が決まることが明らかとなった。厳密な定量には時系列解析が必要であるが、簡便・迅速さから見た場合には適度な濃縮係数での分離でも粒径の大きなコロイド粒子の過大評価とはなるものの、地層処分においてより安全側に評価できる。