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地質調査研究報告 Vol.61 No.5/6 (2010)

表紙 | 目次 | 要旨集

表紙

北部北上山地の平庭岩体

北部北上山地の平庭岩体

   北部北上山地では、やや深い谷で刻まれた中・古生界堆積岩類分布域に、前期白亜紀深成岩体が比較的なだらかな山体を構成して点在している。そのうちのひとつ、平庭岩体は岩手県葛巻町の東方でほぼ南北に伸びる山稜に沿って細長く分布する苦鉄質の複合岩体である。岩体はなだらかな山頂から緩傾斜の山腹にかけて拡がり、その北半部はスキーゲレンデとして、南半部は放牧場として利用されており、地質調査には適さない。
   写真は岩体南半中央部のピーク (袖山 : 標高1,209m) から西方への景観で、左端 (最遠方) の風力発電機から手前が岩体分布域である。

(写真・文 : 久保和也)

目次

タイトル著者 PDF
論文
新潟県津川地域音無川ルートに分布する中部〜上部中新統野村層の珪藻化石層序 柳沢幸夫・平中宏典・黒川勝己 (147-160) 61_05_01.pdf [3.3 MB]
北海道東部、屈斜路・摩周カルデラ噴出物の放射炭素年代値 山元孝広・伊藤順一・中川光弘・長谷川健・岸本博志 (161-170) 61_05_02.pdf [2.2 MB]
北部北上山地、「陸中関」地域の貫入岩類 久保和也 (171-193) 61_05_03.pdf [3.7 MB]
概報
紀伊半島東部、三重県多気郡大台地域における三波川帯-秩父帯境界 青矢睦月 (195-202) 61_05_04.pdf [5.5 MB]
伊豆半島北東部の珪長質火山活動の年代 及川輝樹・石塚  治・岩野英樹・檀原  徹 (203-207) 61_05_05.pdf [1.4 MB]
根田茂帯のドレライトから見出された Na-Ca 角閃石 内野隆之・川村信人 (209-216) 61_05_06.pdf [6.8 MB]
封圧下における石英を含まない岩石の摩擦電磁気現象に関する実験的研究 白井信正・堤  昭人 (217-231) 61_05_07.pdf [2.4 MB]

要旨集

新潟県津川地域音無川ルートに分布する中部〜上部中新統野村層の珪藻化石層序

柳沢幸夫・平中宏典・黒川勝己

   新潟県津川地域の音無川ルートに分布する中部〜上部中新統の野村層の珪藻化石層序を検討した。音無川セクションの野村層では NPD5B 帯から NPD6A 帯までの珪藻化石帯が確認された。珪藻化石生層準の年代を基に作成した堆積速度曲線から、野村層の基底付近では極端に堆積速度が落ちていたことが推定された。また、NPD5D 帯最上部に認められる Denticulopsisdimorpha var. areolata の終産出層準は、年代決定及び地層対比に有効な新たな生層準になりうる可能性があることが判明した。更に、NPD5D 帯下部 (9.75Ma〜9.45Ma) に Goniothecium rogersii が異常に多産する区間が見出された。このイベントは新潟堆積盆北部で広く確認され、珪藻群集中で G. rogersii が卓越する特異な海洋環境が広がっていたことを示唆する。

北海道東部、屈斜路・摩周カルデラ噴出物の放射炭素年代値

山元孝広・伊藤順一・中川光弘・長谷川健・岸本博志

   北海道東部、屈斜路・摩周カルデラの噴火年代を、14C 年代測定により系統的に明らかにした。今回、両カルデラ周辺に分布する摩周テフラ層及び中春別テフラ層から新たに16の炭化物試料を採取し、これらをAMS・β線計測法により測定している。測年対象とした噴火ユニットは、摩周カルデラ噴出物中の Ma-d、Ma-e、Ma-f、Ma-j、Ma-k、Ma-l 及び Ml-a と、屈斜路軽石流I (KpI) を含む中春別テフラ群の6層である。KpI は屈斜路カルデラで発生した最も新しいカルデラ形成噴火の堆積物であり、その正確な年代決定が期待されていた。14C 年代測定結果はδ13C 補正値で3,660±40yBP から、36,080±1,300yBP にまでわたるが、いずれも外来テフラも含めたテフラ層序との矛盾はない。KpI 噴火の暦年代については、ほぼ 40ka と算出され、KpIV を噴出した屈斜路カルデラ最大の噴火から約7万年の再来間隔で巨大噴火が繰り返されたことになる。 摩周カルデラは、KpI 噴火直後から屈斜路カルデラの東壁上に形成されたもので、成層火山体形成後の約7.6千年前 (Cal BC5600年頃) に主カルデラ形成噴火を起こしたことが明らかになった。

北部北上山地、「陸中関」地域の貫入岩類

久保和也

   北部北上山地の中生代堆積岩類分布域には、前期白亜紀の深成岩体が多数点在している。それらは NNWSSE 方向に配列する3列の岩体群を構成している。
   1/5万地質図幅「陸中関」地域内には、西側の列に属する平庭岩体、中央の列に属する天神森岩体・小国岩体・沼袋岩体、東側の列に属する川口岩体が分布する。また、本地域東縁部には太平洋岸に沿って点在する大規模火成岩体の一つである滝の沢岩体の一部が分布する。
   これらの岩体は列毎に固有の特徴を有する。西列の岩体は斑れい岩から花崗閃緑岩まで岩相変化に富む累帯深成岩体である。斑れい岩は比較的カリ長石に富み、石英閃緑岩から花崗閃緑岩へと至る分化はモンゾニ岩寄りのトレンドを示し、トーナル岩質岩相に乏しい。中央列の岩体は主としてトーナル岩からなり、少量の閃緑岩〜斑れい岩を伴う。東列の岩体は斑れい岩・花崗閃緑岩などから成り、苦鉄質岩相に富み高い岩石帯滋率が特徴である。
   本地域内の貫入岩類としては、その他に、前期白亜紀深成岩類より以前に貫入した斑れい岩類と新第三紀に活動した安山岩質貫入岩類とがそれぞれごく少量であるが存在している。

紀伊半島東部、三重県多気郡大台地域における三波川帯-秩父帯境界

青矢睦月

   紀伊半島東部、三重県多気郡の大台地域において三波川帯と秩父帯の境界部の野外調査を行った。この調査で三波川帯の泥質岩 (泥質千枚岩) と秩父帯の泥質岩 (泥質混在岩) が直接する露頭 (神滝 (こうたき) 露頭) が見出され、泥質千枚岩が泥質混在岩よりも高い結晶化度を示すことが肉眼観察から示唆された。このような泥質岩の見かけ結晶化度の差違に加え、大局的な原岩組み合わせの相違をも用いて三波川帯-秩父帯境界を決定した結果、従来の見解と異なり、秩父帯泥質混在岩は南傾斜の構造境界面を介して三波川帯泥質千枚岩の上位に位置することが示唆された。また神滝露頭での変形構造観察から、両帯の定置は、東西伸長を伴う三波川帯の主変形期、Ds 期の最終期に既に完了していたことが推論された。神滝露頭は三波川帯と秩父帯の初生的な構造関係を保存した露頭であろうと推察される。

伊豆半島北東部の珪長質火山活動の年代

及川輝樹・石塚  治・岩野英樹・檀原  徹

   伊豆半島東北部の珪長質岩、伊豆山、日金山、天昭山の 3 溶岩についてそれぞれの形成年代を求めるため FT 年代測定を行なった。FT 年代値は、伊豆山が 0.2±0.1Ma、日金山が 0.26±0.04Ma、天昭山が 0.1±0.1 Ma であることが明らかとなった。

根田茂帯のドレライトから見出されたNa-Ca角閃石

内野隆之・川村信人

   前期石炭紀付加体よりなる根田茂 (ねだも) 帯の付加体メンバーであるドレライトから Na-Ca 角閃石 (ウィンチ閃石及びリヒター閃石) を見出した。Na-Ca 角閃石は三波川帯や周防 (すおう) 帯など高圧型変成帯中に一般的に見出されているが、マンガン鉱床やアルカリ火成岩でも産することがある。一般に高圧型変成岩中の Na-Ca 角閃石は高 Al2O3・低 TiO2 の特徴を示す傾向にある。本ドレライトの Na-Ca 角閃石は低 Al2O3・高 TiO2 という藍閃石成分に乏しい特徴を持つ。したがって、化学組成的には高圧変成タイプを示すとは言い難い。しかし、高圧型変成岩には藍閃石成分に乏しい Na-Ca 角閃石を含むことがあること、本ドレライトの全岩化学組成は海山型ソレアイトを示すこと、Na-Ca 角閃石の産状は火成鉱物や接触変成帯中の交代鉱物の特徴とは異なること、本ドレライトから変質・交代作用の痕跡は特に見出されていないことを考慮すると、本ドレライト中の Na-Ca 角閃石が沈み込み帯における変成作用を被った可能性は否定できない。

封圧下における石英を含まない岩石の摩擦電磁気現象に関する実験的研究

白井信正・堤  昭人

   30MPaから120MPaまでの封圧条件の下で、30°にプレカットされた円柱状の試料を用いて固着すべり実験を行った。実験には石英を含まない玄武岩、斑レイ岩とカンラン岩試料を用いた。岩石試料への軸方向荷重載荷は微量吐出手動ポンプで行い、速度は約0.003mm/s となるように操作した。磁界信号を検出するセンサには試料の周方向に配置したソレノイドを用いている。電界信号を検出するセンサには2枚の銅板を対 (30×30mm) にした電極を 2 組用い、各電極対を円柱状試料の周方向にプレカット面に直行配置及び面と相対 (平行) する方向に配置して記録した。
   実験の結果、石英を含まない試料においても、固着すべり間のすべり時に電界及び磁界変化が全ての試料において検出された。しかし、これらの信号は定常滑り時には検出されなかった。銅板電極対で計測した電界変化の振幅は、斑レイ岩ではほぼ全ての試料において滑り面と平行に配置された電極対のほうが滑り面に対して垂直に配置された電極対で計測した値より大きい値を示し、電界変動の異方性を示唆する結果が得られた。
   更に、コイルで検出した信号と電極で観察された信号がほぼ同時に生起していることから、滑り面間の電荷の分離と放電が同時に起きたものと考えられる。
   また、電極対で計測した電界変化の振幅は、固着すべり時の応力降下量と共に増加していることも分かった。
   次に、電界変動の異方性を確認することを目的に、4つの銅電極それぞれに誘起する信号を個別に計測した。この結果、斑レイ岩試料では滑り面を挟んで平行に配置した電極で検出した信号は発生初期に逆極性を示し、滑り面と平行な方向と垂直な方向の異方性を確認することができた。しかし玄武岩試料においても斑レイ岩と同様の結果が得られたが発生した電・磁界のレベルは低く明確な差は見られないものもあった。