地質調査研究報告 トップへ

地質調査研究報告 Vol.61 No.3/4 (2010)

表紙 | 目次 | 要旨集

特集号 : 2007年に行われた釧路海底谷の潜航調査

表紙

釧路沖、千島海溝域の海底地形立体図 (南東方向からの鯨観図)

釧路沖、千島海溝域の海底地形立体図 (南東方向からの鯨観図)

   北海道南東沖の千島海溝では、太平洋プレートが海溝軸に斜交する方向 (北西方向) に沈み込んでいる (斜め沈み込み)。太平洋プレート上には、比高最大 200 m 程度の地塁・地溝構造が全面的に発達しており、比高 3000 m に達する海山も存在する。海溝では、襟裳海山の北方に過去に海山が沈み込んだ痕跡がある。海溝の陸側斜面では、複雑な地形構造が発達しており、沈み込みテクトニクスとの関係を示唆する。釧路海底谷は比高数百 m で陸側斜面を下刻し、海溝底に達する。本図は、海洋研究開発機構と東大海洋研の研究船で取得されたマルチビーム測深データを使用している。釧路海底谷で「しんかい6500」を使用して初めて行った潜航調査の詳細は、本号の各論文を参照。図内に調査地点と潜航番号を示した。

(図 : 佐々木智之、文 : 佐々木智之、辻野  匠)

目次

タイトル著者 PDF
特集「釧路海底谷の潜航調査」にあたって 辻野  匠 (85) 61_03_01.pdf [500 KB]
論文
釧路海底谷から採取された岩石試料の放散虫化石年代 本山  功・上栗伸一・辻野  匠・川村喜一郎・三輪哲也 (87-103) 61_03_02.pdf [4 MB]
釧路海底谷側壁から採取された泥岩試料の珪藻化石 柳沢幸夫 (105-123) 61_03_03.pdf [6 MB]
概報
北海道十勝沖前弧海盆東縁を流下する釧路海底谷上流域の「しんかい6500」による潜航調査 辻野  匠 (125-136) 61_03_04.pdf [4 MB]
有人潜水調査船しんかい6500 によって明らかになった釧路海底谷西壁の地質構造 川村喜一郎 (137-145) 61_03_05.pdf [4 MB]

要旨集

釧路海底谷から採取された岩石試料の放散虫化石年代

本山  功・上栗伸一・辻野  匠・川村喜一郎・三輪哲也

   北海道釧路沖の釧路海底谷において実施された「しんかい6500」の潜航調査 (#1032、#1033、#1035) により採取された泥岩試料を分析した結果、年代決定に有効な放散虫化石が得られた。外縁隆起帯から採取された試料から産出した放散虫は後期始新世〜漸新世、前期中新世及び中期中新世の年代を示す。隆起帯の陸側の前弧海盆からは、鮮新世またはそれ以降の年代を示す放散虫が得られた。

釧路海底谷側壁から採取された泥岩試料の珪藻化石

柳沢幸夫

   2006 年に実施された「しんかい6500」による潜航調査によって釧路海底谷から採取された 12 個の岩石試料の珪藻化石分析を行い、これらの試料の堆積年代を明らかにした。釧路海底谷の上流部の側壁から採取された試料の珪藻化石帯は、NPD8 帯下部〜NPD10 下部であり、年代は後期鮮新世〜前期更新世である。一方、海底谷の下流部では、斜面堆積物と推定される試料から前期更新世 (NPD10 帯上部) の珪藻が産出した。また、外縁隆起帯の変形した堆積物からは、中期中新世 (NPD7Ba帯)、前期中新世 (NPD2B 帯) 及び後期漸新世 (Rocellagelida 帯) の珪藻が産出した。

北海道十勝沖前弧海盆東縁を流下する釧路海底谷上流域の「しんかい6500」による潜航調査

辻野  匠

   2006年9月から10月にかけて「しんかい6500」により釧路海底谷上流部 (着底点 : 北緯42°29.4385' 東経144°34.2675') の潜航調査が行われた。釧路海底谷は北海道南東沖に発達する前弧海盆の北東縁を流下する全長 223 km の海底谷で、比高数 100 m の下刻が全域で発達している。潜航地点では新第三系-第四系の地層が露出していると音波探査から予測されている。本報告では潜航での目視観察及び採取した岩石試料の記載を行い、本号で報告されている微化石年代をもとに音響層序を構成する地層の年代を推定した。潜航調査では谷底の水深 1814 m に着底した後、南岸の側壁を登り、水深 1313 m の肩で離底した。ルートの地形断面は 3 つの急斜面 (崖) とその間の緩斜面とに区分でき、急斜面では露岩が認められた。谷底はリップルの発達したシルトに覆われており、側壁は露岩域以外はすべて泥に覆われていた。最初の崖は側壁基部の 1795-1770 m にあり、極細粒砂岩とシルト岩の互層が露岩していた。2 番目の崖は側壁中部の 1580-1550 m にあり、塊状のシルト岩が 1 m 程度の層厚で成層していた。最上部の崖は側壁上部の 1415-1370 m にあり、数 10 cm-数 m の段差からなるステップ状の地形が発達し、塊状の泥岩が断続的に露出している。採取した岩石のほとんどは半固結であり、珪藻遺骸と陸源砕屑物からなっている。岩石の微化石年代は、側壁基部の露頭では後期鮮新世の前期、2 番目の露頭では後期鮮新世の後期、側壁上部の露頭では前期更新世であった。

有人潜水調査船しんかい6500 によって明らかになった釧路海底谷西壁の地質構造

川村喜一郎

   地質構造観察のための 6K#1033 と 6K#1035 の 2 潜航調査が北西太平洋十勝沖の釧路海底谷の側壁で、有人潜水調査船「しんかい6500」を用いて行われた。本論では、その地質構造、断層岩の変形組織と共にそれらの岩石の一軸圧縮強度を詳細に記載する。6K#1033 と 6K#1035 は、海底谷の中部で調査された。潜航地域の地質構造は、著しく変形した地層帯と非変形の水平層帯に区分される。著しく変形した地層は、正断層、スラスト、液状化と脈状構造によって特徴づけられる。その層の走向は、およそ北東-南西で、南傾斜である。著しく変形した地層から採取した 3 試料の一軸圧縮強度の平均値は、1.12-1.30 MPa であった。水平層は、著しく変形した地層を不整合で覆う。その水平層の基底では、> 1 m 厚の円礫層が観察された。水平層の一軸圧縮強度は測定できなかったが、6K#1032 潜航 (海底谷上流部にあたり、同様の水平層が露出している) によって非変形な地層から採取した 2 試料の一軸圧縮強度の平均値は、それぞれ 0.46 MPa と 0.58 MPa であった。これらの観察結果に基づくと、変形の停止が礫岩層の堆積に一致していると言える。