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地質調査研究報告 Vol.58 No.11/12 (2007)

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表紙

四万十帯北帯のアンバー及びマンガン鉱石

四万十帯北帯のアンバー及びマンガン鉱石

   四国、紀伊半島、房総半島及び北海道東部の四万十帯北帯には玄武岩に伴ってアンバー (鉄・マンガンに富む堆積物) やマンガン鉱床が胚胎する。これらの希土類元素組成はそれぞれ現世中央海嶺近傍の鉄マンガン堆積物及び海底熱水系マンガン堆積物の組成に類似する。写真は紀伊半島西部、四万十帯北帯から採取したアンバー (右 : 伊藤川、I-a12) 及びマンガン鉱石 (左 : 竜神、R-a1) の研磨試料。長辺は 5 cm。

(守山  武)

目次

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論文
鹿児島地域の重力異常について 村田泰章・名和一成・駒澤正夫・森尻理恵・広島俊男・牧野雅彦・山崎俊嗣・西村清和・大熊茂雄・志知龍一 (351-370) 58_11_01.pdf [2,225 KB]
新潟地域の地下に分布するグリ-ンタフのフィッション・トラック年代 加藤  進・檀原  徹・松井良一・小田  浩 (371-388) 58_11_02.pdf [3,320 KB]
紀伊半島西部、四万十帯北帯におけるアンバーとマンガン鉱床の堆積環境と希土類資源 守山  武・神谷雅晴・寺岡易司・奥村公男・平野英雄・村上浩康・渡辺  寧 (389-410) 58_11_03.pdf [1,859 KB]

要旨集

鹿児島地域の重力異常について

村田泰章・名和一成・駒澤正夫・森尻理恵・広島俊男・
牧野雅彦・山崎俊嗣・西村清和・大熊茂雄・志知龍一

   産業技術総合研究所地質調査総合センターでは、日本全国をカバーする 20 万分の 1 の重力基本図を編集中である。筆者らは、鹿児島地域において、既存の重力測定データと新規測定データの合計 15,877 点を編集して、重力基本図を作成した。更に、重力データを用いて地殻表層密度分布の推定を行うことにより、地質調査だけでは明らかにできない伏在する地質構造を推定できると共に、地質分布の違いの影響を取り除いたブーゲー異常図から、臼杵 ‐ 八代構造線に対応する重力異常のリニアメントと鹿児島地溝・カルデラ群に対 応する低重力異常が明らかになった。

新潟地域の地下に分布するグリ-ンタフのフィッション・トラック年代

加藤  進・檀原  徹・松井良一・小田  浩

   新潟地域の石油探鉱で掘削された坑井から採取されたグリーンタフのコア試料を用いてフィッション・トラック年代を測定した。グリーンタフの年代は 15.5 〜 17.1 Ma と 13.5 〜 13.8 Ma の 2 つの年代グループに分かれ、前者は津川階に、後者は七谷階最上部に対比される。
   基盤岩に由来するジルコンは北蒲原地区と吉井地区に認められるが、見附地区には認められない。三条などの坑井では七谷層よりも若い年代を示しており、見附地区では火成活動が活発で長期間続いたと推定される。
   見附油田の試料を Brandon (2002) の方法で解析すると、約 23 Ma のピーク年代値が得られ、佐渡や朝日山地と同様な珪長質火山活動の存在が推定される。
   内部面・外部面年代値のリセットや粒子年代値の分布から、定性的な熱史を推定できる。吉井地区では熱水変質は吉井 SK-10D 付近に中心があり、流紋岩の噴出直後から始まったと推定される。

紀伊半島西部、四万十帯北帯におけるアンバーとマンガン鉱床の堆積環境と希土類資源

守山  武・神谷雅晴・寺岡易司・奥村公男・平野英雄・村上浩康・渡辺  寧

   本研究では紀伊半島西部、四万十帯北帯の玄武岩及び玄武岩質凝灰岩に伴って産するアンバー (鉄マンガ ン堆積物) 及びマンガン鉱床の調査と化学組成分析を行い、伊藤川 (いとごう)・三十井川 (みそいがわ)・臼ヶ岡山・小森谷・竜神の 5 地区における希土類元素 (REE) の資源としての検討を行った。伊藤川地区に分布するアンバーは玄武岩と黒色頁岩の境界部に胚胎する、層厚約 4 m、走向方向へ約 80 m 伸長したレンズ状岩体である。一方、竜神地区に分布するマンガン鉱床は玄武岩と赤色頁岩の境界部に胚胎する層状岩体で、低品位部では部分的にマンガン脈による鉱染を受けている。また厚さ数〜数 10 cmの鉄とマンガンに比較的富む堆積物 (アンバー様堆積物) が三十井川・臼ヶ岡山両地区においても認められた。
   伊藤川・三十井川・竜神の各地区から採取された玄武岩はほぼ平坦または軽希土類元素にやや枯渇したコンドライト規格化 REE パターンをもち、Zr などの枯渇は認められなかった。これら玄武岩の微量元素及び REE 組成の特徴から、玄武岩は中央海嶺玄武岩 (MORB) を起源とすると考えられる。アンバーの PAAS (post-Archean average shale) 規格化 REE パターンは Ce を除いて平坦なパターンを示し、顕著な Ce 負異常を持つ。またマンガン鉱石は Eu 正異常を持つ平坦な PAAS 規格化 REE パターンを持つ。玄武岩組成や、アンバーとマンガン鉱石の微量元素組成や現世海洋堆積物との組成比較などからアンバー及びマンガン鉱床は中央海嶺近傍における熱水活動に伴って生成されたと考えられる。
   伊藤川地区のアンバーからは最大 1,441 ppm の総希土類含有量 (ΣREE) が確認された。他方マンガン鉱石のΣREE は 100 ppm 以下であった。一部のアンバー様堆積物には 200 ppm 前後のやや高いΣREE が認められ た。本調査域の MORB 起源の玄武岩に伴うアンバーには、重希土類鉱床として稼行されている中国南部のイオン吸着型鉱床に匹敵する REE が含有される。本調査域の岩体規模は小さく資源としての価値は低いものの、今後は他地域において同様の玄武岩に伴う鉄マンガンに富む堆積物の資源調査が望まれる。