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地質調査研究報告 Vol.55 No.5/6 (2004)

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表紙

熊本県水俣市集川流域で土石流災害を引き起こした斜面崩壊

熊本県水俣市集川流域で土石流災害を引き起こした斜面崩壊

   2003年7月20日未明、熊本県水俣市集川流域で死者15名を出す土石流災害が発生した。土石流は集川中流遷急点付近の右岸斜面の崩壊により発生した。崩壊地付近の地質は、鮮新世肥薩火山岩類の凝灰角礫岩とその上位の安山岩溶岩からなる。このうち今回崩壊したのは主に安山岩溶岩である。崩壊した安山岩溶岩は節理が発達しており透水性が高く、一方、下位の凝灰角礫岩は風化により粘土化し透水性は低いと考えられる。今回の崩壊はこの凝灰角礫岩と安山岩溶岩の境界をすべり面として発生した。

(田口雄作・中澤  努・斎藤  眞)

目次

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論文
2003年7月20日水俣市集川流域における斜面崩壊・土石流災害の地質学的及び水文学的背景 中澤  努・斎藤  眞・田口雄作 (113-127) 55_05_01.pdf [4,251 KB]
近畿地方及びその周辺における産業技術総合研究所地下水観測点での地下水位の大気圧応答 北川有一・小泉尚嗣・高橋  誠・松本則夫・佐藤努・桑原保人・伊藤久男・長  秋雄・佐藤隆司・佃  栄吉 (129-152) 55_05_02.pdf [3,676 KB]
日本の沿岸海域堆積物における生物・海水起源物質の地球化学的研究 寺島  滋・今井  登・池原  研・片山  肇・野田  篤・太田充恒・岡井貴司・御子柴 (氏家) 真澄 (153-169) 55_05_03.pdf [1,108 KB]
九州中部、熊本県泉村-砥用町地域の "黒瀬川帯" 蛇紋岩メランジュ中の単斜輝石岩 斎藤  眞・宮崎一博・塚本  斉 (171-179) 55_05_04.pdf [1,178 KB]

要旨集

2003年7月20日水俣市集川流域における斜面崩壊・土石流災害の地質学的及び水文学的背景

中澤  努・斎藤  眞・田口雄作

   2003年7月20日未明に発生した水俣市集川土石流災害は、集川中流右岸斜面の崩壊により引き起こされた。斜面崩壊は、集川で最も浸食・崩壊が著しいと考えられる中流の遷急点付近で発生した。崩壊地を含む集川流域の地質は、主に砂岩や泥岩からなる四万十帯白亜紀付加コンプレックス (諸塚層群) と、それを覆う鮮新世肥薩火山岩類の凝灰角礫岩及び安山岩溶岩からなる。このうち今回の災害は主に最上部の安山岩溶岩の崩壊により生じた。斜面崩壊は豪雨のピークとほぼ同時に発生した。よって今回の斜面崩壊は、豪雨により極めて短時間のうちに地下水ポテンシャルが急激に上昇し、難透水層である粘土化した凝灰角礫岩とその上位の節理の発達した透水性の高い安山岩との境界付近から崩壊が開始されたとする従来からの解釈が支持される。1997年出水市針原川土石流災害は、豪雨のピークからしばらくして安山岩溶岩が崩壊し、泥分の極めて多い土石流を発生させた。一方、今回の集川の場合は、豪雨のほぼピーク時に安山岩溶岩が崩壊し泥分の少ない土石流を発生させたという点で異なる。これは針原川の斜面崩壊が、断層運動により構造的に破砕された安山岩溶岩の深層風化に起因しているからであり、集川の節理の発達した比較的新鮮な安山岩溶岩の崩壊とは異なるためである。すなわち構造運動の地域的な差が風化の程度の違いに表れ、それが崩壊形態及び土石流の移動形態に差異をもたらした。

近畿地方及びその周辺における産業技術総合研究所地下水観測点での地下水位の大気圧応答

北川有一・小泉尚嗣・高橋  誠・松本則夫・佐藤  努・
桑原保人・伊藤久男・長  秋雄・佐藤隆司・佃  栄吉

   産業技術総合研究所では地殻変動を検出するために地下水位の観測を行っている。地下水位の地殻変動検出能力をより正確に評価するために必要な井戸や地層の水理特性を把握する基礎調査として、地下水位の大気圧応答を解析した。近畿地方及びその周辺の21箇所の観測点の26本の井戸で、主に1996年以降、地下水位の連続測定を行っている。まず地下水位の大気圧応答に影響する主な3つの現象を解説し、それらがもたらす周波数依存の特徴を述べた。それぞれの井戸で、地下水位の大気圧応答を周波数解析により求めた。大気圧応答の周波数依存の特徴には数通りのパターンが見られた。各観測点での大気圧応答の周波数依存の特徴から、どの現象が地下水位に影響を及ぼしているかを分析した。降雨に対する地下水位の応答が大きく、大気圧応答を推定できない観測点があった。そして地下水位の大気圧応答と潮汐応答との比較を行った。地下水位の大気圧応答が潮汐応答と整合しない場合があり、その原因を議論した。

日本の沿岸海域堆積物における生物・海水起源物質の地球化学的研究

寺島  滋・今井  登・池原  研・片山  肇・野田  篤・
太田充恒・岡井貴司・御子柴 (氏家) 真澄

   日本の沿岸海域堆積物における生物・海水起源物質に伴う元素の地球化学的挙動を解明するため、堆積環境の異なる海域で採取された約200試料について通常の主成分のほか生物源シリカ (Bio.SiO2)、二酸化炭素 (CO2)、水溶性塩素 (Cl) 等を分析した。 Bio.SiO2 は、微細な堆積粒子と行動をともにし、水深の大きい海域の細粒堆積物で高濃度を示す。海域別では、北海道南東部沿岸の親潮海域が最も高く、ついでオホーツク海がやや高い。能登半島-新潟沖は中間的で、黒潮の影響下にある東海沖では低い。石灰質堆積物に由来する CO2 は、Bio.SiO2 とは逆に浅海の粗粒堆積物中で高濃度を示す。海塩に由来する Cl は、いずれの海域においても砂、シルト、粘土の順に高濃度になる。Bio.SiO2 に伴って濃縮される主な成分は Si で、石灰質堆積物には Ca, Mg, Sr, CO2 が、海塩には Cl, Na, SO42-, Mg,Ca, K 等が濃縮される。しかし、Fe, Mn をはじめとする重金属類は生物・海水起源物質によっては濃縮されないと考えられた。重金属類は、一般に粗粒堆積物よりも細粒堆積物中で高濃度を示し、元素によっては続成作用に伴って濃縮される。沿岸海域の堆積物の化学組成の特徴から後背地の地質特性を推定するためには生物・海水起源物質の影響を補正し、珪酸塩起源物質の化学組成を求める必要がある。

九州中部、熊本県泉村-砥用町地域の "黒瀬川帯" 蛇紋岩メランジュ中の単斜輝石岩

斎藤  眞・宮崎一博・塚本  斉

   九州中央部泉村-砥用町地域の "黒瀬川帯" の蛇紋岩メランジュには、しばしば単斜輝石岩が含まれ、大きなものでは岩体の長径が 2 km に及ぶ。単斜輝石岩は透輝石からなり、少量のかんらん石起源と思われる蛇紋石を含む。この単斜輝石岩を構成する輝石の大きさは数 mm 〜 1 cm が多いが、1個所だけ 10 cm に達するものもがある。それには裂開 (parting) が発達し、異剥石の鉱物標本として重要である。一般に結晶が大きくなると裂開が発達する。鏡下で見ると透輝石の裂開にそって、また透輝石の間に透角閃石ができている。
   電子線マイクロプローブ (EPMA) で主成分分析をしたが、岩体による差異はない。また、"黒瀬川帯" の他地域の単斜輝石岩の単斜輝石と比較しても、化学組成に差異はない。
   蛇紋岩メランジュ中のはんれい岩の角閃石の K-Ar 年代は 370±19 Ma である。この年代は "黒瀬川帯" の蛇紋岩メランジュを構成する超苦鉄質岩-苦鉄質岩の年代の検討にとって重要である。