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地質調査研究報告 Vol.54 No.5/6 (2003)

表紙 | 目次 | 要旨集

表紙

中朝地塊古生界中の平行上整合

中朝地塊古生界中の平行上整合

   中国のオルドス盆地付近から朝鮮半島にかけてひろがる中朝地塊は、10数億年前の変動で固化した古い地塊であり (本号 p.186)、そこには炭酸塩岩に富む浅海成のカンブリア系-オルドビス系と砕屑岩を主とし石炭を挟む浅海-非海成の上部石炭系-ペルム系 (一部三畳系 ?) が相伴って広く分布し、平行上整合の関係にある。ただし、朝鮮半島ではまれながら両地層群の間にシルル系の石灰岩層が認められる。写真は韓国中東部の日本海沿岸に近い太白市長省洞でみられる平行上整合の露頭で、右半部は上部オルドビス系の薄層理石灰岩 (朝鮮系 Dowibong 層)、左半部は上部石炭系の厚層理石英質粗粒砂岩 (平安系 Manhang 層) であり、これらの間には1億年を超える時間的ギャップがある。

(寺岡易司)

目次

タイトル 著者 PDF
論文
西南日本の古生代 - 第三紀砂岩中の砕屑性ザクロ石 寺岡易司 (171-192) 54_05_01.pdf [965 KB]
産業技術総合研究所地質調査総合センターにおける GPS 連続観測 大谷  竜・松本則夫・小泉尚嗣・高橋  誠・佐藤  努・北川有一・佃  栄吉・佐藤隆司・伊藤久男・桑原保人 (193-212) 54_05_02.pdf [16,448 KB]
ボアホール歪計で観測された非定常的変化の GPS による検証 : 産業技術総合研究所地質調査総合センター安富観測点での事例 大谷  竜・北川有一・小泉尚嗣・松本則夫 (213-220) 54_05_03.pdf [1,729 KB]
物理定数から見た白亜紀-古第三紀花崗岩類 -その1. 東北地方北部 金谷  弘・大熊茂雄 (221-233) 54_05_04.pdf [1,018 KB]
講演要旨およびポスター発表概要
第2回深部地質環境研究センター研究発表会講演要旨およびポスター発表概要 (235-238) 54_05_05.pdf [315 KB]

要旨集

西南日本の古生代-第三紀砂岩中の砕屑性ザクロ石

寺岡易司

   ザクロ石は低圧型、中圧型 (Ia, Ig1, Ig2  に細分)、高圧型、エクロジャイト型およびグランダイトとに分けられ、これらはそれぞれ低圧変成岩・花崗岩、中圧変成岩、高圧変成岩、エクロジャイトおよび石灰質岩源変成岩に含まれるものである。この分類によると、西南日本では砕屑性ザクロ石の構成が 1) デボン紀・ペルム紀間、2) 三畳紀中-後期、3) 白亜紀中頃および 4) 白亜紀・古第三紀間にかなり著しく変わっている。ただし、これらの変化は必ずしも全域にわたって同じように起こっているわけではない。ペルム系にはグランダイトを主とするグランダイト群集と大部分がその他のタイプからなるパイラルスパイト群集があり、前者は内帯でラディニアン下部、秩父帯ではカーニアンまで存続する。デボン系と 2) 後の地層群に含まれるザクロ石は、ごく一部を除くとパイラルスパイト群集に属する。この群集では多くの場合中圧型が卓越し、四万十帯においては古第三系になると Ig2 が急増する。西南日本中軸帯の上部白亜系-第三系にはグランダイトまたは中圧型に富むものもあり、ザクロ石の構成にかなりの地域差はあるが、概して低圧型が多い。秩父帯でも上部白亜系になると低圧型が増え、四万十帯では逆に減少している。デボン系以外では高圧型が少なく、エクロジャイト型はまれである。全体としてみると砕屑性ザクロ石としては中圧型が最も多く、低圧型がこれに次ぐ。これらのなかには日本列島起源のものもあるが、アジア大陸の先カンブリア紀変成岩と古生代以前の花崗岩からのものが主体をなし、グランダイトの場合も日本列島より大陸からの供給のほうが優勢だったと推定される。これに対し高圧型の供給源は三郡変成岩を主とし、一部は大陸にあったとみなされる。

産業技術総合研究所地質調査総合センターにおける GPS 連続観測

大谷  竜・松本則夫・小泉尚嗣・高橋  誠・佐藤  努・
北川有一・佃  栄吉・佐藤隆司・伊藤久男・桑原保人

   1996年から産業技術総合研究所地質調査総合センター (旧地質調査所) において AOA 社製の Turbo Rogue 受信機とチョークリングアンテナからなる GPS 連続観測を開始した。1999年からはそれまでの 14 局から 5 局に減らすとともに、GPS データの定常解析に新たな解析手法を導入したが、観測局の座標値の再現性は、旧来のものに比べて変わらなかった。周囲にある、国土地理院の GPS 連続観測システム (GEONET) の観測局と比較すると、座標変動の定常的な変動に大きな差は見られないが、座標値の再現性には劣り、かつ GEONET には顕著でない半年周期の変動が見られる観測局があることが分かった。解析で使用される一日当たりの位相観測データ (エポック) 数を調べたところ、半年周期で顕著に増減していることが分かった。いくつかの IGS (International GPS Service : 国際GPS事業) 局の解析の結果、カリフォルニアにある Turbo Rogue 受信機でも同様な傾向が見られるが、すぐ近傍の Ashtech 社製受信機の局には見られないことが分かった。また、グローバルな電離層総数 (TEC) の最大値と比較したところ、両者に強い相関があることが分かった。このことから、半年周期の原因として、Turbo Rogue 受信機に固有に生じる、電離層活動の活発化に伴う受信信号の品質低下の可能性が考えられる。

ボアホール歪計で観測された非定常的変化の GPS による検証 : 産業技術総合研究所地質調査総合センター安富観測点での事例

大谷  竜・北川有一・小泉尚嗣・松本則夫

   産業技術総合研究所地質調査総合センター (旧地質調査所) の安富観測点 (兵庫県宍粟郡安富町) におけるボアホール歪計に2002年4月より非定常的な歪変化が観測された。安富観測点に併設されている GPS 局には、同時期に東西方向への定常的な変位が鈊化している傾向が見られる。一方周囲にある国土地理院の GPS 連続観測システム (GEONET) の観測局にはそうした傾向は見られない。これらの結果から、安富 GPS 局でみられた変動は、山崎断層沿いにおける局地的なゆっくり地震、あるいはクリープ等の非地震性断層すべりが発生したためだと解釈できる。しかしながらこれが真の地殻変動を反映したものであるかどうかは、GPS 座標値に重畳している季節変動等のため、分からない。

物理定数から見た白亜紀-古第三紀花崗岩類 -その1. 東北地方北部

金谷  弘・大熊茂雄

   本研究は、日本列島に分布する白亜紀-古第三紀花崗岩類を対象に、それらが持つ物理定数、密度・孔隙率・磁化率・残留磁化そして Qn 比 (Königsberger ratio) などを系統的に集約し、花崗岩類が共通して持つ性質や、それとは逆に、各時代や地域が持つ特有の性質を明確にし、地質構造の解析や、公害や環境問題、災害予知など各方面に必要な基礎資料を提供する事を目標にとりまとめた。今回は東北地方北部を対象に 570 余露頭より採取した花崗岩試料の結果を集約した。対象とした4地域は、北上山地、太平山地域、栗駒-鳴子地域そして村上地域である。その結果は以下のようである。
   4地域の平均密度は 2.66〜2.77 (x103kg/m3) で村上地域が一番小さく北上山地が最も大きい。孔隙率は 0.4〜0.6 (%) で地域による差は殆んど認められない。磁化率は密度が 2.60〜2.95 の変化 (SiO2は約 77〜42 (%)) に対し10倍に増加する。これらの関係において磁化率はまた、上限、下限の2直線に挟まれる範囲に収まり、4地域独自の空間を占有する。Qn 比は 0〜0.4 を示すものが圧倒的に多く、磁気図解釈の際、残留磁化を考慮する必要はない。磁化率の低い岩石にも残留磁化を担う強磁性鉱物が存在している。