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地質調査研究報告 Vol.52 No.11/12 (2001)

表紙 | 目次 | 要旨集

表紙

   福島県奥会津地熱系の最上部では、50万年前形成の砂子原カルデラ火山を埋積する湖成堆積物から西山温泉をはじめとする高温泉が湧出する。温泉湧出個所の一部では、その近傍に数100ppbの金を含むヒ素硫化物 (オレンジ色) が沈殿する (左上)。貯留槽深度の地熱は炭酸ガスや硫化水素ガスに富む。地熱流体を貯蔵する裂罅の地表延長部に沿って、ガス徴候が点在する。ガスが河床から放出される場所では、細かな泡が間断なく吹き上がり、炭酸飲料のような見かけを呈する (右上)。地熱発電に用いられた後の気相中には低濃度ながら硫化水素ガスが含まれる。柳津西山地熱発電所では環境負荷を軽減するため、その硫化水素ガスを回収している。触媒酸化法により溶融イオウ (アメ色の液体) として回収することにより、硫化水素ガスの 90% 以上が除去される (高橋・他、1998) (左下)。地熱流体が貯留される地下 1000-2000m に分布する急傾斜開放裂罅群中には、しばしば硬石膏 (Anh)、閃亜鉛鉱 (Sp) などの硫酸塩・硫化鉱物が沈殿する。その一部では沈殿時に沸騰が生じており、その中には数 100ppb の金を含むものもある (右下)。

(写真と文 : 深部地質環境研究センター  関  陽児)

目次

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論文
奥会津地熱地域・中新統滝沢川層にみられる変質  -貯留槽母岩の地熱変質とその地化学的特徴- 関  陽児 (493-572) 52_11_01.pdf [5,512 KB]
石川県に分布する鷲走ヶ岳月長石流紋岩変質要訣凝灰岩の古地磁気とフィッション・トラック年代 伊藤康人・土志田正二・北田数也・壇原  徹 (573-580) 52_11_02.pdf [806 KB]
Pyrophyllite mineralization of the Tanmai deposit, Quang Ninh Province, northern Vietnam -A result of reconnaissance survey- Hideo HIRANO, Masahiro AOKI, Sadahisa SUDO and NGUYEN Van Quy (581-598) 52_11_03.pdf [2,356 KB]

 

要旨集

奥会津地熱地域・中新統滝沢川層にみられる変質  -貯留槽母岩の地熱変質とその地化学的特徴-

関  陽児

   奥会津地熱地域に分布する下部中新統滝沢川層を主な対象として、貯留槽深度における、現在の地熱活動による母岩の変質を記載するとともに、変質に伴う化学成分の移動傾向を明らかにし、変質帯の成因を考察した。
   滝沢川層は地熱系の貯留槽深度 (地表下1000〜2000m) および地熱系外西方の地表に広く分布し、流紋岩〜デイサイトの溶岩および同質火山砕屑岩からなる。
   地熱系外の滝沢川層は、イライト、緑泥石を特徴鉱物とし基質の脱ハリ、粘土鉱物化、方解石化、黄鉄鉱化を伴う広域的な続成変質を受けている。
   地層温度約 100ºC 以上の領域を現在の地熱系の温度影響範囲内 (「地熱系内」) とみなすと、そこに分布する滝沢川層には、中新世の広域続成変質に現世の地熱変質が重複した結果、四つの変質帯、すなわちイライト・緑泥石+帯、イライト帯、カオリナイト帯、混合層粘土鉱物帯が形成されている。
   イライト・緑泥石+帯はイライト、緑泥石、硬石膏により特徴づけられ、石英、斜長石、黄鉄鉱を伴う。貯留槽深度の上方 (深度300-1000m) ではしばしば多量の苦灰石、菱鉄鉱を、一部でマゲネサイト、菱マンガン鉱、閃亜鉛鉱を伴う。基質の粘土鉄鉱化、硬石膏化、炭酸塩鉱物化、黄鉄鉱化が普通に見られる。貯留槽深度 (深度1000-2000m) とその上方に広範囲に分布する。
   イライト帯はイライトにより特徴づけられ、石英、苦灰石、菱鉄鉱を伴う。イライト・スメクタイト混合層鉱物、カリ長石、斜長石、菱マンガン鉱、黄鉄鉱を伴うことがある。高温部では硬石膏を伴う。基質および斜長石の粘土鉱物化、炭酸塩鉱物化、硬石膏化が進んでいる。貯留槽深度より浅所の貯留槽裂罅延長部の近傍の一部に局所的に分布する。
   カオリナイト帯にカオリナイト、菱鉄鉱、苦灰石により特徴づけられ、石英、斜長石を伴う。イライト、硬石膏、黄鉄鉱を伴うことが多い。イライト、カリ長石、スメクタイトを伴うこともある。基質および斜長石の粘土鉱物化、炭酸塩鉱物化が進んでいる。貯留槽深度より浅所 (深度1000m以浅) に、大局的には裂罅に規制されながらも水平方向にも発達した不規則な形態で分布する。
   混合粘土鉱物帯はイライト・スメクタイト混合層鉱物または緑泥石・スメクタイト混合層鉱物により特徴づけられ、石英、斜長石を伴う。緑泥石、苦灰石、菱鉄鉱を伴うことが多い。基質および斜長石の粘土鉱物化、炭酸塩鉱物化が進んでいる。滝沢川層中に現れる混合層粘土鉱物帯は、カオリナイト帯と相接して局所的に分布する。
   地熱系外の滝沢川層を基準として、Al による規格化を行い、地熱系内の各変質帯における化学成分の移動度を算出した。その結果、地熱系内の全ての変質帯で化学成分の移動が認められた。すなわち、Ca, S, As, Cu の付加と Cs の除去が全ての変質帯で認められるとともに、Na の除去と Mn, Au, Ag の付加がイライト帯で、また Fe, Mn, Mg の付加がカオリナイト帯でそれぞれ認められた。
   変質帯と地熱系の地質・温度・水理構造や流体の化学性状などを合わせて考察すると、系内にみられる多様な変質帯は、それぞれが系内に分化した物理化学条件やその変化に対応して形成されたと考えられる。すなわち、イライト・緑泥石+帯は CO2 ガスに富む高塩濃度の地熱流体が貯留槽中を移動しつつ周辺母岩中に浸透することにより、イライト帯は相対的に透水性の高い岩石中を地熱流体が沸騰しつつ浸透することにより、カオリナイト帯は貯留槽深度周辺における気液分離で生じた CO2 ガスが浅層の地下水に吹き込むことで生じた低温の炭酸酸性水と母岩との反応により、混合層粘土鉱物帯はカオリナイト帯が形成された場所の最も外側で低温の浅層地下水により、それぞれ形成された。

石川県に分布する鷲走ヶ岳月長石流紋岩質溶結凝灰岩の古地磁気とフィッション・トラック年代

寺島  滋・太田充恒・今井  登・岡井貴司・御子柴真澄・谷口政碵

   土壌地球化学図の作成に関する予察的研究の一環として、関東各地の沖積層から柱状試料を採取して主・微量元素を分析し、土壌の母材や元素の広域分布特性、地球化学的挙動等を研究した。沖積層土壌における元素濃度の鉛直変化は、火山噴出物と河川由来砕屑物であり、両者の割合は地形・地質的な要因で変化する。沖積層土壌における元素濃度の鉛直変化は、火山灰質土のそれに比べて小さかった。これは堆積速度が速く、表層〜下層の風化度や腐植含有量の差が小さいためと考えられた。沖積層土壌中砂質粒子は主として河川由来である。砂質粒子は風化・変質に伴って微細化するが、この際アルカリ・アルカリ土類金属が溶出し・流失し、細粒部ではアルミニウム、チタン、各種重金属等が相対的に高濃度になる。山間部の規模が小さい沖積面では、集水域の基盤地質と土壌の化学組成の特徴は類似する。広大な平野部を流下する河川の下流域では、基盤岩砕屑物は均質化されており、粒度組成の相違が化学組成を変動させる主因である。沖積層土壌の化学組成は、同一地域の火山灰質土に比べてアルミニウム、チタン、重金属類に乏しく、アルカリ・アルカリ土類金属に富む特徴があり、概括的には河川や湖沼の堆積物に類似する。

熱帯インド南西沿岸沿岸における河川-汽水-沿岸域底質堆積物の地球化学

伊藤康人・土志田正二・北田数也・壇原  徹

   鷲走ヶ岳月長石流紋岩質容結凝灰岩 (以下、鷲走ヶ岳流紋岩) は、西南日本東部の中新統北陸層群の最下部に位置づけられる。日本海の背弧海盆拡大に伴う西南日本の回転運動を明らかにするため、鷲走ヶ岳流紋岩の古地磁気測定とフィッション・トラック (FT) 年代測定を実施した。安定な地点平均古地磁気方位とジルコン FT 年代が、それぞれ 5 地点と 3 地点で決定された。FT 年代は 20〜22 Ma の範囲で、Rb-Sr 全岩アイソクロン法による以前の年代と調和する。20 Ma 前後の数値年代は、熱水変質イベントの時期に対応しており、それは鷲走ヶ岳流紋岩の再磁化を引き起こしたと考えられる。傾動補正を行った古地磁気方位は大きく東偏し (約50º)、調査地域が 20 Ma 以降に時計回りに回転したことを示す。近隣丘陵の医王山層 (15〜16 Ma) の古地磁気方位との比較から、今回の結果は、調査地域が前期中新世には有意に回転しなかった可能性を示唆している。

ベトナム北部タンマイ鉱床のパイロフィライト化作用  -予察調査結果-

平野英雄・青木正博・須藤定久・グエン  バン  クイ

   ベトナム北部のタンマイパイロフィライト鉱床は5つの鉱体で構成され、うち 2 鉱体が開発されている。鉱床の原岩は珪長質火山岩で、鉱床は鉄分の少ない変質岩からなる。変質岩をその構成鉱物から、カオリン帯、パイロフィライト帯、珪化帯、ダイアスポア帯、アルーナイト帯に区分することを試み、その生成順序と物理条件を推定した。最初にカオリン帯が形成された。熱水の温度上昇に伴い、パイロフィライト帯と珪化帯が、それぞれの原岩透水率の違いにより形成された。ダイアスポア帯は珪化帯中の割れ目に沿って形成されているが、その産状から熱水の温度上昇よりは、むしろ垂直的な割れ目の生成にともなう PH2O の低下が原因で形成されたらしい。アルーナイト帯は熱水活動の末期に形成された。鉱床の主体をなすパイロフィライト帯の形成温度は、その鉱物組み合わせからおよそ260-290ºC と見積もられる。