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地質調査研究報告 Vol.52 No.10 (2001)

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表紙

猿投山の球状花崗岩

猿投山の球状花崗岩

   愛知県豊田市の猿投山地内には、小川に露出する球状花崗岩があり、1931年2月20日に国の天然記念物に指定された。母岩は領家帯の新期黒雲母花崗岩があり、その中に 2-3cm の中核を持つ 4-8cm の球体が密集する。構成鉱物は、主に石英、カリ長石、黒雲母で、その量比と粒度の相違から球状組織を示す。日本の球状岩は一般に閃緑岩-花崗閃緑岩質であることが多い。花崗岩質のものは、当地の他には筑波山地域の峯山があり、共に領家帯北縁に位置する。

(石原舜三)

目次

タイトル著者PDF
論文
Organic geochemical study of natural gases from major gas fields in Japan Shunichiro IGARI (445-470) 52_10_01.pdf [1,858 KB]
Genesis of Late Cretaceous-Paleogene Granitoids with Contrasting Chemical Trends in the Chubu District, Central Japan Shunso ISHIHARA and Chengyu Wu (471-491) 52_10_02.pdf [1,501 KB]

要旨集

日本の主要なガス田より産する天然ガスの有機地球化学的研究

猪狩俊一郎

   これまでにほとんど測定例のないネオペンタンを含む日本の天然ガスの軽質炭化水素組成を測定した。エタン/プロパン比、ネオペンタン/イソペンタン比、ネオペンタン/イソブタン比の対数間には直線関係が観察された。この関係は、水素引き抜きによる炭化水素の分解によるものと説明された。
   移動に伴う、軽質炭化水素の分別作用に対する岩石種の効果について研究を行った。収集の岩石や、鉱物を充填したカラムを用いたガスクロマトグラフィーにより、それぞれの炭化水素の保持時間を測定した。メタン、エタン、プロパン、イソプタン、n-ブタン、イソペンタン、n-ペンタンについて測定を行った。層間水を持つ粘土鉱物、及びゼオライトを用いた場合に分別が観察された。それぞれの炭化水素の保持時間の順番は粘土鉱物やゼオライトの種類に依存した。また、鉱物の空焼き時間の増加とともに分別は大きくなり、空焼きなしでは、非常に小さい分別が観察されるのみでだった。これらのことは、分別には粘土鉱物やゼオライトの水か抜けた層間や細孔が重要であり、鉱物が水和している通常の地下条件下では粘土鉱物やゼオライトによる、炭化水素の分別は重要でない事が明らかになった。
   日本の水溶性ガス田の天然ガスのメタンの炭素同位体比を測定した。その結果、これまで一般に水溶性天然ガスは微生物起源と考えられてきたが、熱分解起源のものも存在することが明らかになった。
   秋田・新潟の油田ガスのメタン・エタン・プロパンの炭素同位体比を測定した。エタンの炭素同位体比とプロパンの炭素同位体比の間には強い相関が観察された。この相関は速度論的に説明可能だった。一方メタンとエタンの炭素同位体比の間には弱い相関が観察されるのみだった。これは微生物起源ガスの混入の影響と推定された。さらに、これらの同位体比を用いることにより、熱分解ガスと微生物起源ガスの混合率を計算することができ、秋田・新潟の油田ガスは、ほとんどが両者の混合ガスであることが明らかになった。

日本の中部地方の対照的に異なる科学的性質を持つ白亜紀後期  -古第三紀花崗岩類の成因

寺島  滋・太田充恒・今井  登・岡井貴司・御子柴真澄・谷口政碵

   土壌地球化学図の作成に関する予察的研究の一環として、関東各地の沖積層から柱状試料を採取して主・微量元素を分析し、土壌の母材や元素の広域分布特性、地球化学的挙動等を研究した。沖積層土壌における元素濃度の鉛直変化は、火山噴出物と河川由来砕屑物であり、両者の割合は地形・地質的な要因で変化する。沖積層土壌における元素濃度の鉛直変化は、火山灰質土のそれに比べて小さかった。これは堆積速度が速く、表層〜下層の風化度や腐植含有量の差が小さいためと考えられた。沖積層土壌中砂質粒子は主として河川由来である。砂質粒子は風化・変質に伴って微細化するが、この際アルカリ・アルカリ土類金属が溶出し・流失し、細粒部ではアルミニウム、チタン、各種重金属等が相対的に高濃度になる。山間部の規模が小さい沖積面では、集水域の基盤地質と土壌の化学組成の特徴は類似する。 広大な平野部を流下する河川の下流域では、基盤岩砕屑物は均質化されており、粒度組成の相違が化学組成を変動させる主因である。沖積層土壌の化学組成は、同一地域の火山灰質土に比べてアルミニウム、チタン、重金属類に乏しく、アルカリ・アルカリ土類金属に富む特徴があり、概括的には河川や湖沼の堆積物に類似する。

熱帯インド南西沿岸沿岸における河川-汽水-沿岸域底質堆積物の地球化学

石原舜三・呉澄宇

   白亜紀後期-古第三紀の流紋岩類 (11試料) と花崗岩 (白川 29、土岐 7、苗木 9、領家 10、合計 55 試料) について、XRF と ICP-MS 法により11 主成分、32 微量成分について分析した。白川地域の花崗岩類では苦鉄鉱質アンクラーヴが優白質花崗岩に混在する。白川花崗岩類はハーカー図上で高ナトリウム組 (モンゾ閃緑岩-花崗閃緑岩) と低ナトリウム組 (花崗岩) とに分けられる。前者は同様な化学的特徴をもつ、現在の飛騨帯に見られるような苦鉄鉱質火成岩起源の変成岩類や花崗岩類に由来するものと考えられる。一方、花崗岩はハプロ花崗岩と呼べる珪長質度を持ち、その Rb/Sr 比は分別残液に見られる高い値を示さず、これは中性火成岩の部分溶融に由来するマグマの初期溶融相と判断される。共に Y、HREE に乏しく、源物質に柘榴石などの存在が推察される。
   山陽-領家帯の白亜紀後期-古第三紀の花崗岩類は美濃帯とその南方延長部の領家変成岩類に貫入する I タイプチタン鉄鉱系であり、山陽帯の土岐・苗木が厚顔は親石元素に富むが、苗木花崗岩では特に Rb, Y, Th, U および Rb/Sr が高い。その REE パターンは HREE に富むフラット型で著しい負の Eu 異常を示し、これが分化した I タイプマグマから固結したことを暗示する。