2023年度第1回 地質調査研修終了報告

 2023年5月15日(月)〜5月19日(金)に、地質人材育成コンソーシアム(会長:田中裕一郎)主催で、2023年度第1回地質調査研修が実施されました。今回の研修は、地質図を作成した経験はないが、今後業務として、その技術・知識や作成に関わる工程を知っておきたいといった方々、特に企業の地質初心者が対象の募集です。また、その狙いは、室内で岩石や地層の見方等を理解した上で、野外での観察ポイントからまとめまで、地質図を作成するための一連の基本的事項を5日間の研修で習得していただくことです。昨年度から、この5日間の対面での研修に先立って、事前学習として2時間ほどのe-ラーニングとリモートレクチャーを行っています。
 対面での研修の初日は、茨城県つくば市の産業技術総合研究所第七事業所(地質調査総合センター)で行う座学研修に充て、翌日の午前に地質標本館の見学実習をしたのち、残りの3日半の期間は、茨城県ひたちなか市および福島県双葉郡広野町といわき市周辺地域で野外実習を行いました。主講師を利光誠一、講師補助を森田澄人が務めました。研修参加者は6名で、地質・資源関係の企業の地質技術者が半分、そして考古学や環境関係のコンサルなどの関係者が半分という割合でした。
 室内座学研修では、基礎的な地質調査の知識をスライドと資料で学び、合間に砂の粒度表の作成や地質図学の演習などを行い、野外実習で必要となる幅広い基礎知識を習得していただきました。地質標本館では、地質調査や地質図に関係する展示を中心に見学しました。
  一方、ひたちなか市での野外実習では、室内での演習で経験した露頭記載や柱状図の作成を、実際の地層を観察しながら実践しました。次いで福島県広野町において、各自で沢沿いや道路沿いを調査して得られた観察データから複数の地層に区分し、それらの境界についてどのように広がっていくかを予測しました。そして、最終的に地層境界の位置を実際のルート上で確認し、調査のまとめとして地質図を作成しました。こうした実践を通して、地質図作成の一連の技術を習得していただきました。

[研修概要]

5月14日以前:
事前学習:e-ラーニングとして、地質調査および地質図作成のための基礎的な事項についての学習(4月28日まで)。簡単な地質図学の課題への取り組み。これを受けて、実習日の前週に事前課題の解法とその他の基本的事項の説明のリモートレクチャーを実施(5月9日)。
5月15日:
産総研内の講義室での講義と実習:「露頭観察とは」、「ルート調査とは」、「ルートマップ予習」、「対比・地質図」、「地質図学」、「地質図の読み方」、「粒度表の作成」など。
5月16日:
地質標本館:地質調査・地質図に関する展示の見学(日本周辺の地震の震源分布、日本列島大型模型へのプロジェクションマッピング、岩石・鉱物・化石の分類展示など)。
野外での地質調査の実地研修:ひたちなか市那珂湊の海岸で、走向傾斜の測定、地層の観察と柱状図作成、地層の上下判定など。その後、歩測とクリノメーターを使って簡易的なルートマップ作成練習。
夜間の室内作業:岩石標本の観察、昼間の調査データの墨入れなど。
5月17日:
野外での地質調査の実地研修:広野町土ヶ目木(どっかめき)地域の沢を歩いて、露出する地層の調査。地図に調査データを記入してルートマップの作成。
夜間の室内作業:調査データ整理の後、地層区分と境界位置の確認、各境界の広がりを予測。
5月18日:
野外での地質調査の実地研修:広野町長畑の北方にある沢を歩いて、露出する地層の調査。調査データを地図上に記入してルートマップ等の作成。広野町長畑の道路沿いの露頭に現れている断層の観察。
夜間の室内作業:当日のデータ整理後、前日の調査データとひとまとめにして2つのルートにおける地層境界線のつながりを地質図学的に描いて地質図作成。
5月19日:
野外での地質調査の実地研修:広野町夕筋海岸で鮮新世大年寺層中の生痕化石、堆積構造の観察。大年寺層が下位の中新世吉野谷層を不整合に覆う露頭の観察。後期白亜紀双葉層群と基盤の前期白亜紀花崗岩類との不整合の観察。いわき市アンモナイトセンターで双葉層群の発掘露頭の観察と館内見学、その後、4日間の野外実習で観察した地層をもとに地史の復習と全体のまとめなど。

 “地質調査・地質図作成初心者”である受講生にとっては不慣れな調査体験でしたが、地質調査で必要な露頭位置の確認や堆積岩の岩相識別についても実習しました。事前学習と5日間の研修を通して、地質調査や地質図の作成がどのようにして行われているかを野外調査の実践の場で理解していただけたと思います。
 本研修の実施にあたり、広野町教育委員会、公益財団法人いわき市教育文化事業団いわき市アンモナイトセンターに大変お世話になりました。産総研地質調査総合センター地質標本館では館内見学とともに教材提供などの協力を得ました。地質情報研究部門の兼子尚知氏には、砂の粒度表作成や広野町内調査エリアの地質模型作成で協力をいただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。

2023年度第1回 地質調査研修
2023年度第1回 地質調査研修
2023年度第1回 地質調査研修
2023年度第1回 地質調査研修

2023年度第1回 地質調査研修

日程 2023年5月15日(月)- 5月19日(金)
補備日程 事前のe-ラーニング(約80分)、上記研修開催日の前週にリモートレクチャー(約40分)を予定
研修場所 室内座学:茨城県つくば市(産総研)
野外研修:茨城県ひたちなか市福島県双葉郡広野町・いわき市周辺
研修内容 最近はルートマップを作成したことがあっても地質図を書いた経験のない方、岩石の見方に不安がある方など、地質調査の基本である踏査に関し、大学で充分な経験が積めなかった方もいらっしゃいます。この研修では、まず室内で岩石や地層の見方等を座学で理解した上で、野外での地層・岩石の観察ポイントからまとめまで、地質図を作成するための基本的事項を事前のe-ラーニングと5日間の対面研修で習得します。対面研修は少人数でマンツーマンに近い形での研修となります。
※今回は特に企業の地質初心者が対象となります。
※経験者(卒論等で地質図を作成したことがある方)向けは秋を予定しています。
定員 定員 6名(最小催行人数:4名)※募集終了
講師 利光誠一博士
地質調査総合センターにおいて、多くの地質図幅の作成を行い、白亜紀大型化石、層序の研究を行うと共に、地質標本館館長として、地質学の普及に努めてきました。
他1名
集合 産総研 5/15 9時(予定)
解散 産総研 5/19 17時30分(予定)
CPD 42単位(事前のe-ラーニング等と合わせて42単位になるよう、時間を調整して指導を行います)
参加費 産総研コンソーシアム「地質人材育成コンソーシアム」に63口(1口1000円)の会費が必要です。なお、申し込みをいただいた方への会費の請求書発行は4月になってからの送付とさせていただきます。
注意事項 現地(産総研)までの交通費と宿泊代(4泊)・食事代は参加者負担となります。日程のうち、前半(1泊)は産総研内の宿泊施設(素泊まり;利用料金は予約確定後通知)、後半の野外研修では、広野町周辺の宿泊施設(1泊2食付き税込8000円台前半x3泊)を予定しています。(詳細は参加者に個別にご連絡いたします)
参加には別途傷害保険の加入をお願いします。
お勤めの方は労災保険の対象となるよう職務として参加してください。
学生・院生の方で参加されたい場合は、別途お問い合わせください。

※新型コロナウイルス感染症への対処に関しては、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策「感染拡大に向けた取り組み」・「基本的対処方針に基づく対応」等に沿ってご参加をお願いします。
https://corona.go.jp
https://corona.go.jp/emergency/
※研修直前に体調不良となった方で、新型コロナウイルス感染症などへの感染の疑いのある場合には、参加をご遠慮いただくこともあります。
申し込み・
問い合わせ
training-gsj-ml(a)aist.go.jp ※(a) 部分を @ に置き換えて下さい。
主催

産総研コンソーシアム「地質人材育成コンソーシアム」 運営会則(pdf:76KB)

協力 いわき市アンモナイトセンター 広野町教育委員会