科学で海底資源に迫る

2021年 4月13日 開設

海底鉱物資源の地質学的解明

海底資源探査の先駆け

 近年、海底下の鉱物資源についての注目が高まっています。しかし、海底鉱物資源を見つける手法は、いまだ確立していません。私たちは、延伸大陸棚を含めた資源ポテンシャル海域を調査対象として、特に現在は、最も可能性の高いと言われている海底火山周辺の調査を重視しています。その調査結果をもとにして、「どのような場所にあるのか」という科学的知見を蓄える必要があるからです。
 海底資源の探査には、総合的な地球科学の研究が必要になります。とくに、海底熱水系の形成過程の解明が不可欠です。形成過程を解明することができれば、海底鉱床の場所を把握するために必要な情報を得ることができます。
 私たちは、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC*)や、海洋研究開発機構(JAMSTEC**)などの機関と共同で研究を進めています。地質学的な背景をもとに、海底資源開発に有望な海域を絞り込むことが、地質調査総合センターの役割です。いわば、海底資源探査の「先駆け」の役割を担っています。近年では、伊豆諸島青ヶ島沖の東青ヶ島カルデラ域において、多金属塊状硫化物を伴うチムニーと熱水活動を発見しました。

多様な音波で、海底を“視る”

 海洋地質の重要な情報として、海底下の地質断面、海底地形を含む海底面情報、重磁力情報、海底堆積物情報などがあります。私たちは、これらの情報を統合的に取得・解析を行い、海洋地質情報として整備しています。
 例えば、海底面及び海底下の地質情報を得るために、その目的に応じて、様々な周波数の音波を使用しています。大きな地質構造を把握する際にはエアガンなどの低周波(10~50Hz程度)を、高分解能な地質構造を得る必要がある際にはブーマーなどの高周波(1~10kHz程度)を、海底面の情報を得る際には更に高周波(30kHz以上)を用いて調査を行います。また、より明瞭な地質断面を効率的に得るためにマルチチャンネルストリーマ(MCS)ケーブルを受信器として使用したり、詳細な海底地形を得るためにマルチビーム音響測量装置(MBES)を使用したりします。MBESでは水中音響異常も面的に捉えることができるため、海底からの物質の湧昇等で特徴づけられる海底資源有望域を把握することが可能です。最近では、より高分解能の音響データを取得するために、深海曳航探査装置を用いた調査を実施しています。産総研が導入した深海曳航装置は、高周波(120kHzと410kHzの2周波)のサイドスキャンソナーと3.5kHzのサブボトムプロファイラーを搭載しており、海底面音響画像と海底表層部の地質断面を取得することができます。 また、この深海曳航探査装置をさらに改良して、化学センサや民間企業と共同開発した音響機器などを搭載しました。多種多様なマルチセンサから同時に地質情報を取得できる深海曳航探査ユニットとして、海底資源調査などに利活用しています。

注釈:

* JOGMEC: Japan Oil, Gas and Metals National Corporation
** JAMSTEC: Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology

深海曳航探査装置の写真

深海曳航探査装置の写真

マルチビーム音響測深機を用いて復元した海底地形の様子。海底熱水域における海底面・海底下の情報と音響記録を示している。

マルチビーム音響測深機を用いて復元した海底地形の様子。
海底熱水域における海底面・海底下の情報と音響記録を示している。

日本はメタンハイドレート研究のリーダーとして、常に世界を牽引していきます

表層型メタンハイドレートの調査研究

 日本のまわりには、将来のエネルギー資源として期待されているメタンハイドレートが分布していることが知られています。私たちは、1990年代にこのことを示しました。この成果は、2001 年から始まった国のプロジェクトにおいて、2013 年の太平洋側南海トラフでの世界初の“海底下「砂層型」メタンハイドレートからの天然ガス生産試験の成功”へとつながりました。
 現在私たちは、日本海側の海底下のごく浅い部分に分布する「表層型」メタンハイドレートの調査研究を行っています。2013年から、主に音響探査や掘削調査を行うことでメタンハイドレートの分布の様子や量などを評価する研究を行ってきました。この成果をもとに、2019年からは産総研内の他の領域と連携し、回収・生産技術の開発、海底下におけるメタンハイドレートの分布状況のより精密な把握、資源開発のために必要な海底の現場状況の把握、環境影響評価などの総合的な研究開発プロジェクトを進めており、表層型メタンハイドレート資源開発への貢献を目指しています。

AUV(自律型無人潜水機)を用いた精密海底地形及び地下構造探査

AUV(自律型無人潜水機)を用いた精密海底地形及び地下構造探査

海底下の地層中から採取された塊状メタンハイドレート

海底下の地層中から採取された塊状メタンハイドレート