GSJニュースレター No.7  2005.4
モンゴル地質学会(東ユーラシア地質セミナー) 高橋 裕平(地質情報研究部門)

 2005年3月9〜13日に東ユーラシア地質セミナー2005(East Eurasian Geological Symposium 2005,略してEEGS2005)がモンゴルで催された.9日と10日の一般講演と11日の鉱床に関するワークショップがモンゴル科学技術大学を会場として行われた.12-13日はエルデネット銅鉱山とボロー金鉱山の巡検である.セミナーへの参加者の総数を公式には知りえなかったが,会場には常時70名前後がいたので,出入りを考慮すると100名前後と思われる.ワークショップへの参加者が80名,巡検参加申し込みが60名と聞いている.ただし,筆者は日程と旅費の都合で巡検には参加していない.

 地元モンゴル以外の参加国は,カナダ,アメリカ,タイ,チェコ,日本からこのセミナーのために来蒙し,現地滞在の外資系鉱山会社からカナダ,オーストラリア,インドネシアの専門家も参加した.頼もしいのは,東北大学大学院の長谷川精さんで,一年近くモンゴルの家庭にホームステイしながらモンゴル科学技術大学で恐竜の研究を行っている.彼は今回のセミナーではモンゴルの学生とともにセミナーの運営に手を貸し,かつ堂々たる口頭発表を行った.

 このセミナーは過去2回,JICA(国際協力機構)の技術協力プロジェクトのプログラムの一つとして,1998年と2003年に行われたもの(EEGS1998,EEGS2003)を引き継いだ形になっている.今回のセミナーは,モンゴルの研究者がJICA地質プロジェクトでの経験を活かして自ら企画したものであり,開催にかかる一切の費用を,自らモンゴル国内の地質調査研究機関や鉱山会社に出向いて協力を求めて寄付を仰いだ.

 9〜10日の一般講演の要旨あるいは論文は,モンゴルの地質系の英文雑誌「Mongolian Geoscientist」の27号に収められている.この雑誌もJICAプロジェクトの技術協力プログラムの一環で刊行されたものであるが,今号はモンゴルの研究者が編集し,印刷費をIvanhoe Mining Mongoliaが全面的に賄った.上質紙でカラーの図や写真が印刷されている.

 一般講演は一つの会場で口頭とポスター発表が行われた(写真1).講演は,大きく,一般地質(地質・テクトニクス・層序・古生物),資源地質(鉱床・探査手法),環境地質(水文地質学・地球環境学)の3分野に分かれている.論文数は,要旨集の目次では,一般地質が15,資源地質が28,環境地質が6である.環境地質分野が少ないようであるが,一般地質の中に湖のコア解析による環境変遷史がある.資源地質の中にも持続的な発展のための資源開発という特別講演があって,決して環境問題への関心が薄いわけではない.ポスターセッションで,神谷ほかの「東アジアの鉱物資源図(Mineral Resources Map of East Asia)」(出版準備中)を開会前からもっとも目立つ場所に貼っておいたところ,多くの人の関心の的となった(写真2).

 11日は鉱床関連のワークショップで,Society of Economic Geologistsが実質的に主催したものである.午前がアメリカ地質調査所のRichard J. Goldfarb氏による「オロジェニック金鉱床」で,オロジェニック金鉱床の特徴,アラスカでの事例,オロジェニック金鉱床の時空分布といった内容で,ふんだんな図表を使った講義である.午後はカナダアルバータ大学のJeremy P. Richards氏による「中央アンデスにおける斑岩及び浅熱水性鉱床でのテクトノマグマ規制」で,アークの火成活動,アークのテクトニクスとマグマの定置,上部地殻でのマグマのプロセス,斑岩銅鉱床形成プロセス,というように一般地質の導入から鉱床成因論までの講義で,新しい斑岩銅鉱床モデルも示された.

地質学が国家経済を支えている国で行われた,熱気に満ちたセミナーに大いなる刺激を受けて帰国した.

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GSJニュースレター No.7 2005.4
(独)産業技術総合研究所地質調査総合センター
GeologicalSurvey of Japan,AIST