GSJニュースレター No.6  2005.3
2005年三宅島噴火に対する緊急対策本部解散  川辺 禎久(地質調査情報センター)・篠原 宏志(マグマ活動研究グループ)
写真1 三宅島と火山ガス
写真2 COSPEC(相関スペクトロメーター)によるSO2放出量測定.

2000年三宅島噴火に際して設置された「産総研三宅島火山噴火緊急対策本部」を地質調査総合センター(代表:佃 栄吉)は,本年度末(2005年3月31日)をもって解散することとし,緊急対策本部長である副理事長に報告を行い,了承を得ました.

 2000年6月に噴火が始まった三宅島の火山活動に際して,島民の安全確保と火山災害防止のため,工業技術院地質調査所長(小玉喜三郎:当時)を本部長とする「三宅島火山噴火緊急対策本部」を設置し,緊急の観測調査・研究を行ってきました.2001年4月,産業技術総合研究所に移行後も,地質調査総合センター内に設置した火山活動研究推進部会を中心に,「産総研三宅島火山噴火緊急対策本部」(本部長:平石副理事長,その後小玉副理事長)による緊急体制を維持してきました.

 しかしながら,三宅島における火山活動は次第に沈静化し,去る2月1日には全島避難指示も解除されるに至りました.この状況変化を考慮して,火山活動研究推進部会で検討を行なった結果,産業技術総合研究所としての緊急対応を終了し,上記緊急対策本部を解散,今後は各研究ユニットにおける通常研究業務の一環として観測調査研究を継続することとしました.

 緊急観測研究に当たっては,地質調査総合センターに三宅島火山噴火緊急観測班を設け複数の研究部門をまたがる研究体制を築きました.三宅島火山噴火緊急観測班には地球科学(現・地質)情報研究部門,地圏資源環境研究部門,深部地質環境研究センターの研究者延べ約30名が参加しました.全島避難指示発令後には,火山噴火予知連絡会内に三宅島総合観測班が設けられ,産総研も総合観測班の一員として参画し,関係各機関との連携・分担による観測研究を進めてきました.

主な研究成果と外部貢献

1)マグマ上昇モデルの作成

噴火当初は,噴火にマグマの直接の関与は少ないと考えられていましたが,現地の噴出物調査などの結果から噴火へのマグマの関与を明らかにし,陥没火口の形成に伴うマグマ上昇モデルを提示し,マグマ上昇による噴火の可能性を示しました.この結果をもとに,2000年8月31日火山噴火予知連の見解で「マグマの上昇の可能性」について言及することとなり,三宅島の全島避難指示への行政判断の根拠のひとつとなりました.


2)総合観測の実施と火山噴火予知連などへの貢献

避難指示発令後には,関係各機関との連携協力により,火山活動監視,火山ガス放出量の観測を実施してきました.産総研では,ヘリコプターからの目視観察,噴煙放出量・組成測定,噴火映像解析,衛星からの監視,地下水観測等からなる総合観測を実施しています.噴火当初約1年間はヘリコプターからの目視観察・噴煙観測は週に3回程度,現在でも月に1〜2回の観測が実施されています.

 これらの調査結果は定期的に火山噴火予知連に報告され,たとえば,火山ガスによるSO2放出量は2000年後半には日量数万トンでしたが,放出量は次第に減少し2002年には日量1万トンレベルに,最近では日量数千トンになっています.これらの噴火活動・火山ガス放出活動の現状把握と推移解釈は,結果的に島民避難継続の必要性と帰島時期の行政判断に貢献することができました.また,地下水観測により明らかにされた水質の変化のデータは三宅村にも提供され,火山活動に伴う飲料水の水質の悪化・改善状況の把握に貢献しています.

今後について 

 三宅島の避難指示は解除されましたが,火山ガスの放出活動は続いており,監視調査・研究は継続して実施する必要があります.現在,現地での火山ガス組成および地下水観測を年数回程度行っており,今後も継続する予定です.また,週に1回程度実施されているヘリコプターによるSO2放出量観測にも技術協力および三宅村の安全確保対策専門会議の専門家などの形で,関与していく計画です.今後の観測計画にあたっては火山活動研究推進部会を通じて,複数のユニットをまたがった組織的な研究としての調整・推進を図る予定です.

 緊急対策本部を設置して組織的に取り組んだことにより,長期にわたる緊急調査・観測にも関わらず,1件の事故もなく無事に実施できました.ご尽力いただいた関係者に対し心より謝意を表するとともに,今後も引き続きご理解とご協力をお願いしたいと思います.





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(独)産業技術総合研究所地質調査総合センター
GeologicalSurvey of Japan,AIST