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産総研一般公開及び地質情報展への「風船でカルデラ地形を作ってみよう」出展報告
並木 敦子(地質情報研究部門、現 金沢大学)


写真1 一般公開で子供がカルデラを作る様子(高田 亮氏撮影).

写真2 地質情報展で噴火してできるカルデラ.

  

  昨年の産総研一般公開では火山活動研究グループとマグマ活動研究グループから火山関係の体験型実験を出展し好評を得た.そこで2007年の一般公開では地質標本館の前で地球科学関係の実験をまとめて展示する事になった.地質標本館では三宅島火山の特別展が行われる為,実験の方でも三宅島に関連したものを出展する事になった.2000年の三宅島の活動では山頂にカルデラが出来た.実験でカルデラを作ろう,と一般公開の火山実験を中心となって進めている高田 亮氏が発案された.昨年から一般公開に出展している他の方々はそれぞれ持ちネタがあるのだが,今年から参加の筆者には何も無い.気がついたら筆者がカルデラ担当になっていた.

 文献をあたってみると,カルデラ実験の簡単な方法としては風船を使うのがごく一般的な方法である事がわかった.マグマ溜まりには風船を使えば良いという事で風船と足踏みポンプをチューブで繋ぎ,間に空気をリークさせる為のバルブを加えるシステムが出来上がった.陥没地形を作る土には試行錯誤の結果,ジョイフル本田で扱っていた黒焼土を使う事にした.容器にはタライ(直径1m強)を用いた.道具立てが揃い,実験の方法も固まった.まず,先端に風船の着いたチューブをタライの底にガムテープで固定する.その上に十分な量の土をかぶせる.足ふみポンプを用いて風船を膨らませる.膨らんだ風船が土から出てきてしまったならばその上に土を被せ,軽く押して土の表面を固める.バルブを開いて風船の中の空気を抜くと,風船の上部が陥没し,カルデラが出来る.

 何とかカルデラは出来る様にはなった.しかし,風船がしぼむとその上が陥没するというのはあまりにも当たり前である.そんな事で火山学者ならまだしも,一般の人や子供の興味を引き付けられるのか,不安なまま一般公開当日を迎えた.

 一般公開当日,まずはサイエンスパートナーシッププログラムに参加していた中学校の先生方にカルデラ実験を見てもらった.その反応はあまり芳しいものでは無かった.それも仕方の無い事である.2000年に三宅島でカルデラが出来た事を多くの人は知らないし,火山の実験なのに噴火しないで穴凹だけが出来ても何だか良くわからない.

 朝からの雨もあがり,ぼちぼち子供の来客が増えてきた.すると何故か子供は大人と違う反応をしてくれた.カルデラを作ると興味深そうに観察し,風船が膨らんだだけでもびっくりする.膨らんで土の上に出てきてしまった風船を隠す作業も率先して手伝ってくれる.足ふみポンプを押したり,バルブをひねって風船の空気を抜く操作もやりたがる(写真1).結論として,この実験は大人には受けないが,子供は喜ぶ,と思いながら一般公開は終わった.

 後になって,子供にこの実験が受けたのは単に子供は泥遊びが好きだから,という事に気がついた.泥遊びが好きな子にとって,タライに土が入っているのは,それだけで魅力的なのだろう.しかも,これまた子供が好きな風船を使って彼らが見た事もない陥没地形を作るのだから,それは受けて当たり前である.しかし,そこには火山学的興味や理解はまったくない.一般公開の目的は子供に遊んでもらう事ではなく,興味を持ってもらう事である筈だ.そういう意味で敗北感が残った.

 リベンジの機会は札幌で9月に行われた地質情報展で与えられた.まず,改良点として高田氏から「噴火しながら陥没すると良い」と提案を頂いた.そこでリークバルブの先にもチューブを付け,風船の空気を抜くときに火山灰代わりの小麦粉が噴火するようにした.この噴火は実演に参加していただいた古川竜太氏の工夫により長時間続くようになった(写真2).また,札幌という土地柄を生かして「カルデラを作る実験」ではなく「洞爺湖や支笏湖のでき方を見せる実験」と説明した.

 その結果,大人の方からは「噴火でカルデラが出来るメカニズムが分かった」と前向きな評価を頂いた.反省点として,洞爺湖や支笏湖では噴火している真下が陥没したと思われるが,実験の都合上,噴火する位置とカルデラが出来る位置が異なってしまった為,別の場所で噴火した為に洞爺湖や支笏湖が出来たと誤解を与えてしまった.噴火した場所が陥没する実験を今後模索したい.

 さて,気になる子供の反応であるが,タライに張り付いて何度も実験を見ている子に聞いてみた.

 「火山に興味ある?」「全然」「…….」

やはり,泥遊び以上の意味を感じ取ってもらうのは難しいようである.

 最後にこの場を借りてカルデラを作るように提案頂いた高田 亮氏,実験方法の議論をして頂いた竹内晋吾氏,実演に参加して頂いた及川輝樹氏,篠原宏志氏,東宮昭彦氏,古川竜太氏,に感謝したい.








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