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平成19年(2007年)新潟県中越沖地震の緊急調査報告
丸山 正・粟田 康夫(活断層研究センター)


写真 緊急調査で最大隆起が計測された椎谷でみられる海棲生物の産状.ほぼ満潮時にもかかわらずカキ群集や緑色藻類の上限は海面より高い.7月18日17時55分撮影.

図 間瀬,寺泊,柿崎の3地点のカキ群集上限の平均値を基準とした場合の各地点におけるカキ群集上限の分布高度(平均値).基図は地質調査所発行20万分の1地質図幅「長岡」「高田」を使用.

 2007年7月16日10時13分頃,新潟県上中越沖を震源とするMJMA 6.8の地震が発生した地震の規模,破壊のメカニズム,余震分布などから,今回の地震に伴う地殻の上下変動が柏崎市などの海岸付近で観察できることが予測された.そこで,7月17日から20日にかけて,カキ類・イガイ類などの潮間帯海棲生物の高度分布を指標とする地殻上下変動調査を中心とした緊急調査を行った.その結果,余震域と一致する地域で最大約20cmの海岸隆起を含む地殻変動が確認された.

 海棲生物の群集を指標とする相対的な地殻上下変動量は,次のような計測に基づいて算出した.

1.波浪の影響を受けにくい漁港の港湾内など(宮川海岸では消波ブロックの内側)において,岸壁などに固着する潮間帯海棲生物群集の分布上限と海面との比高を計測した.計測は,地点ごと,生物種ごとに5回ずつ行い,その平均値を求めた.なお,計測にあたっては,人為的な計測誤差を最小にするため,一貫して同一調査者が計測した.

2.調査範囲内にある国土地理院柏崎験潮場(柏崎市鯨波)における観測データに基づいて潮位補正を行い,各計測地点の生物群集の分布上限高度を求めた.

3.局所的,時間的な海況の変化が計測結果に及ぼす影響を評価するため,いくつかの地点では異なる日時に繰り返し計測を行い,計測値の再現性を検証した.

 余震域の北東方に位置する新潟市間瀬から南西の上越市柿崎までの約65km区間において計11箇所でカキ類・イガイ類の分布高度を計測したところ,以下のような結果が得られた.

I.同一地点において異なる日時に求めた値の差は,概ね5cm程度に収まっている.このことは,今回の調査の精度が5cm程度であることを示している.

II.余震分布や電子基準点の変動データなどから,今回の地震による地殻変動をほとんど受けていないと推定される間瀬,寺泊,柿崎の3地点のカキ群集分布上限の平均値を基準にすると,寺泊〜荒浜間では椎谷(+22cm)を頂点とする隆起(写真),柏崎〜鯨波間では柏崎(-7cm)を基底とする沈降の傾向が認められる(図).この変動の量とパターンは,その後に明らかにされた干渉SARや水準測量による地殻変動の解析結果とも調和的である.

 以上のように,潮間帯海棲生物を指標とした地殻上下変動の調査では,5cm程度の誤差を伴ったものの,1)地震発生から4日以内に地殻変動の概要を把握することができ,2)最大22cm程度の小さな変動であっても変動のパターンを検出することができた.本調査手法は,衛星測地技術が進歩した今日においても,沿岸域の地震に伴う地殻上下変動の概要を早急に検出する手法として有効である.








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