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第6回CASM年次総会参加報告
村尾 智 (地質調査情報センター)

はじめに
写真1:CASM年次総会の会場風景.壇上でマイクを握るのが議長のジョン・ホッブス氏(英国国さい開発省).その右,筆者,右端が事務局を務める世界銀行のゴットハルト・ウォルサー氏.
写真2:マダガスカル,イビティ地区での宝石採掘.
写真3:残土を地下から地上に上げる作業を行う少女.


 資源小国であるわが国は,海外から継続的,安定的に鉱石の供給を受けなければなりません.そのためには,初期段階から国際的な資源プロジェクトに参加することはもちろん,国際コミュニティーの一員として,国際的ルールを遵守するとともに,よりよい資源管理のあり方を提言する,あるいは実践することで存在感をアピールしていく必要があります.

 そこで,地質調査情報センターは,海外の資源開発や資源戦略について,情報を入手し分析するだけでなく,わが国の立場を踏まえた提言を行うことえ,資源外交に貢献することをめざしています.そのため,さまざまな機関と定期的に協議を行ったり,国際会議に職員を派遣したりしていますが,このたび,マダガスカルで開催された「CASM」という組織の年次総会に筆者が参加し,世界の貧困層が従事する危険で零細な鉱業「スモールスケールマイニング」について関係者と協議を行いました.

CASMとは
 今回参加した会議は「Annual CASM Conference」(ACC)の第6回でした.CASMはCommunities And Small-Scale Mining の略称です.これは,かつて世界銀行と工業技術院地質調査所等が小さな資金を持ち寄ってスタートさせ,現在は世界銀行と英国国際開発省予算により維持されている,スモールスケールマイニングのための国際イニシアチブです.その目的は「スモールスケールマイニングが存在するか,またはその影響を受ける発展途上国の人々が,統合性と持続性を持って発展できるよう支援すること(ミッションステイトメント)」です.CASMは地域ごとに分割されたサブグループを持っていますが,地質調査情報センターはそのうちのアジア太平洋グループである「CASM Asia-Pacific」を担当しています.

第6回年次総会の内容

 会議は,2006年11月10日から15日までマダガスカルのアンチラーベという宝石産地で開催されました.筆者は11日午後参加しました(写真1).会議ではマダガスカルのスモールスケールマイニング,スモールスケールマイニングに関する世界の政策,各国のスモールスケールマイニングの現状,問題に対する国際的な取り組みや地域間協力,鉱山会社とスモールスケールマイニングの協力関係構築,公平・公正な取引実現の方法,ジェンダー関係の問題などについて,話し合われました.

 今回の発表で注目されたのは「Strategic environmental assessment」(SEA)という考え方でした.これはEIAと略される従来の環境アセスメントをさらに改良したもので,評価する対象として,自然環境の変化のみならず,地域住民の生活地域経済への影響が含まれます.評価に際しては地域住民の参加があり,地域共同体のプロファイリングを行うなど,従来の環境影響評価よりも人間を中心に置いたアプローチになっており,その結果,問題予防的性格を備えています.この動きは,かつてGDPに変わる指標としてHDI(Human Development Index, 日本語では「人間開発指標」)が提唱されたことを想起させます.

 筆者は,会期中に,プレゼンテーションおよび討論の機会を使って,スモールスケールマイニングに取り組むには,地域共同体を考察の中心にすえるべきこと,対策は学際的,省際的でなければならないこと,研究要素よりも支援あるいは協働の側面が重要なことを強調し,また,地質調査総合センターが担当するCASM Asia-Pacificがよく機能していることを報告しました.

巡検
 今回の会議ではイビティという宝石の採掘ラッシュが起きている現場への巡検が行われました.この場所にたどりつくにはアンチラーベから数時間かけてバスに揺られたあと,徒歩で1時間かけて峠をこえ,さらに橋のない川を渡る必要があります.

 こうしてたどりついた現場は,無数に掘られた穴に老若男女が群がってトルマリンを主とする宝石を採掘していました(写真2).穴の中には,垂直に10メートル近くも掘られたものがあり,大変危険な状態でした.また,通常は食事の世話など補助的な仕事につく子供たちが,巻き上げ機を操作したり,残土を運んでいるのが気になりました.

 滞在中にスコールとなりましたが,すぐに現場は水浸しとなり,激しい寒さの中,人々は雨がやむまでの間,仮設テントに入ったり,ビニール袋を頭からかぶったりして,耐えていました.

おわりに
 今回の会議で感じたのは,資源開発や環境保護に関わるアプローチが以前にもまして,人間中心になっていることです.上で述べたSEAの考え方はその例ですが,わが国においても外務省が外交の柱として「人間の安全保障」という概念を推進しているところであり(外務省,2001),こうした人間を中心とする視点は世界に共通するトレンドのように思えます.

 しかし,採掘の現場に救いの手が差し伸べられる例は限られており,世界中に1300万人以上いるといわれる鉱夫たちに,どのような支援をどのように与えるべきか,検討するとともに,早急に行動を起こすべきと感じます.今回,見学した現場でも,第三者からの何らかの支援が与えられているようにはみえませんでした.

 スモールスケールマイニングには,資源の利権をめぐる対立など深刻な側面があり,そのため,これは人間の安全保障において重要なテーマとなっています.(UN Commission on Human Security, 2003).まず,採掘現場の秩序と安全が守られるよう,手を打つべきです.また,公正な買収システムやマイクロファイナンスの活用で鉱夫らの自立を実現してゆくべきです.前述のように,資源小国であるわが国は,資源コミュニティのメンバーとしての認知を得る必要がありますので,つねに責任ある態度と行動を示すよう求められています.その意味でいいますと,高度な資源技術を持つわが国が,少なくともアジアにおいて,この問題に主導権をもって対処すれば,資源外交上の大きな貢献になると思われます.

文献
外務省(2001)人間の安全保障〜21世紀を人間中心の世紀とするために〜 外務省国際広報課パンフレット.
UN Commission on Human Security (2003) Human Security Now. Commission of Human Secrity 2003, 159p.





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