GSJニュースレター NO.18 2006/3

GEO Grid 打ち合わせのため,外国人研究者が来日
村尾 智 (地質調査情報センター)


写真.左から,グリッド研究センター中村良介氏,Nguen Dinh Duong博士,胡 雄偉博士,筆者.

 2006年2月20日〜3月6日まで,中国地質調査局発展研究センターの胡 雄偉博士とベトナム科学技術院(VAST)のNguen Dinh Duong 博士が来日されました.この訪問は産総研がアジアを中心に展開しようとする「GEO Grid」構想について,協力の可能性を探るためのもので,お二人は地質調査総合センターおよびグリッド研究センターを中心に関係者と広く協議を行いました(写真).

 胡博士は中国地質調査局研究発展センター(Department and Research Center, China Geological Survey)のデータサービス室付室長(副室長)です.博士は旧工業技術院地質調査所にSTAフェローとして滞在し,資源地質学の研究に従事し,いったん帰国されました.しかし,地質情報の統合や発信のためにはITが必要との認識に立ち,間もなく再来日,IT企業に就職されました.企業では主戦力として,画像の圧縮等の技術開発を担当されました.その後,地球科学とITの両方に通じた人材として本国より強い要請があり,国土資源部(中国の部は日本の省に相当)傘下の中国地質調査局に異動されました.現在,手がけているのは,中国地質調査局の“GeoDataサービスのためのインフラ建設と開発”プロジェクトです.このプロジェクトは,発展研究センターが管理している全国範囲でのGeo-Dataと地質資料を社会に提供することを目標としています.

 発展研究センターの役割のひとつは中国地質調査局のインフォメーションセンターとして,中国全土の基礎Geo-Databaseを開発し,データサービスの環境を整備,またはデータサービスを提供する事です.これまで,GeoMapデータベース(1/5万,1/20万,1/25万,1/50万,1/250万,1/500万地質図データベース),地質文献データベース,地球物理データベース,地球化学データベースなどがほぼ完成しています.

 2003年-2005年の間,発展研究センターは中国科学技術部の重大プロジェクト“資源と環境の分野でのSIG(Special Information Grid)応用研究”を完成させました.すでにグリッドネットワークを立ちあげ,鉱物資源と地下水資源のオンライン評価,または地質図のオンライン編集などの試験を行いました.これらの試験の結果は産総研のGEO Gridプロジェクトに対して,重要な価値があると考えられます.

 なお,発展研究センターはGSJ地質調査総合センターに立場が似ているので,今後,センターレベルでの相互交流を深めることを希望するとのことでした.また欧州では,EuroGeoSurveys が GIS を用いた国際共同研究を活発に行っているので関係者を招聘して意見交換をしてはどうかとの提言が胡博士よりありました.

 Duong博士はベトナム科学技術院(VAST)傘下の地理研究所環境情報研究部長で,衛星情報の環境問題への適用の中心人物です.リモートセンシングやGISを使った土地利用変化のモニタリングなど,応用研究まで幅広く行っている地理学の専門家であり,リモートセンシングとGISに関しては,研究レベルではベトナムでナンバーワンという評価を得ている方です.昨年ハノイで開催されたアジア・リモートセンシング学会(http://www.acrs2005.ac.vn/index.htm)の組織委員会の長としても活躍されました.

 産総研とVASTは包括協定を結んでおり,産総研のもつ Grid 計算技術と ASTER 衛星画像およびその処理技術を地球科学に適用するGEO Gridの研究開発を東南アジアで展開する構想を持っています.今回はその第一歩として,グリッド研究センターと地質情報研究部門において開発中のGEO Grid技術を研修し,ベトナムにおけるGEO Grid研究の具体的推進計画について協議しました.具体的計画としてはに示すようなテーマが候補として挙げられました.Duong博士としてはまずマングローブの研究を行いたいとの事でした.また,ベトナムではスモールスケールマイニングの管理が緊急の課題との事でした.

 GEO Gridにはコンピューティングとデータシェアとの二つの側面があります.膨大な計算が必要な学問分野ではコンピューティングが重要ですが,今回の議論では,地質分野はむしろデータシェアの方が重要ではないかという結論になりました.特に,地質図を始め,さまざまな情報が地形図上に表示されることが多いので,まずはDEM(digital elevation model)を整備することになると予想されます.ただし,地形情報は機密になる国もあるので「各国が受け入れられる」共用データを作る必要があります.また,GEO Gridでは,ノードとなれる機関を見極めることが必要です.これはノードを担う機関が主にデータを管理することになるからです.中国地質調査局とVASTはノードの候補として有力です.

 今回の打ち合わせでは研究の実際に立脚した意見交換によって具体的な協力イメージを共有できたことが最大の成果でした.今後は他の機関とも同様の打ち合わせを行い,実際に行われている研究,これから可能な研究について検討を重ね,プロジェクトの運営形態を決めて行きます.また,GEO Gridは,現在アジアで大きな社会問題と成っているデジタルディバイドの解消に役立つ可能性があります.今後,この問題に貢献するための理念,構想,戦略,および,プロジェクトの運営形態をより明確にしていく予定です.


表.ベトナムにおけるGEO Grid研究テーマの候補(Duong博士による).
○ Study on mangrove distribution by using ASTER data for whole Vietnam area
○ Combination of JERS-1 and PALSAR for land slide study
○ Combination of ASTER and PALSAR for land cover mapping and urbanization process study
○ GEO Grid could be a good platform for monitoring mineral resource exploitation including large and small-schale mining, legal and ilegal mining in EA and SEA region
○ DEM could be processed by grid computing to deliver higher products as watershed boundaries,valleys,drainage system,slope and aspect and slope lengthes. These data are basic information to be prepared in advance for subsquence usage.


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