GSJニュースレター NO.17 2006/2

2005年パキスタン地震国際会議および現地予察調査報告
-地震災害軽減に向けての大きな足がかりとなるか?-
金田 平太郎(活断層研究センター)


写真1:テクニカルセッションで講演を行う粟田氏.
写真2:Jhelum川左岸で確認された地質断層.人物のすぐ後ろに1mほどの小崖として見えているが,撓曲状の変形も含めると上下変位は約2mに達する.


 昨年10月8日にパキスタン北部カシミール地方の山岳地域で発生した大地震(マグニチュード7.6)は,パキスタン・インド両国で計86,000名以上の犠牲者を出す大惨事となった.地震の発生から3ヶ月後の2006年1月18日〜19日,パキスタン地質調査所の主催する国際会議「2005年10月8日パキスタン地震に関する国際会議-その意義と災害軽減-」が首都イスラマバードのマリオットホテルを会場として開催された.日本をはじめ,フランス・イギリス・オーストラリア・アメリカ・インド・イラン・ネパール・トルコの各国からの出席者を集め,パキスタン側からは石油資源省大臣・県知事クラスの要人が出席したこの会議は,石油資源関係の各企業のほか日本の国際協力機構(JICA)の後援も受けている.産総研からは,佃 栄吉GSJ代表,粟田泰夫氏(活断層研究センター),浦井 稔氏(地質情報研究部門),筆者の4人のほか,産学官制度来所者として中田 高広島工業大学教授,堤 浩之京都大学助教授も参加した.


 会議は,パリ地球物理学研究所 Paul Tapponnier 博士による基調講演を含む開会セッションのあと,「アクティブテクトニクス」,「地震と古地震学」,「地震工学」,「地すべり」および「リモートセンシング」の5つのテクニカルセッションが順番に開催される形で行われた.このうち,「アクティブテクトニクス」のセッションでは,1991年にパキスタンの活断層図を刊行している中田氏が,同国の活断層および今回の地震で活動したと見られる活断層について,講演を行った.また,「地震学と古地震学」のセッションでは,佃氏がGSJの地震研究に対する取り組みについて,粟田氏が兵庫県南部地震の前後における日本の活断層研究の進展についてそれぞれ講演を行い,「リモートセンシング」のセッションにおいては,浦井氏が,ASTER衛生画像から今回の地震の地すべりと地殻変動を検出する技術と結果につて講演した.今回の会議で特筆すべきは日本人講演者の多さであり,およそ30の全講演の実に4割以上が日本の大学・研究機関の研究者によるものであった.

 今回の会議では,多岐にわたる分野を2日間という短い期間で網羅したため,やや焦点がぼやけてしまった感もあるが,各国の研究者から今回の地震や類似する他の地震についての多くの提案がなされ,今回の地震を契機に地震対策・研究を充実させようとするパキスタンにとっての採取の大きな足がかりとなったものと思われる.もちろん,本当の道のりはこれからであり,今回多くの講演を行った日本あるいはGSJとしても,関連分野でひきつづき技術協力・支援を行ってことが望まれる.

 会議のあと,産総研活断層研究センター・広島工業大学・京都大学・オレゴン州立大学の調査チームは,パキスタン地質調査所と共同で計8日間の現地調査を実施し,これまではっきりした報告のなかった地震断層を確認,その全容を明らかにした(2006年2月3日プレス発表).地震断層は既存の活断層に忠実に沿う形で出現しており,全長約65km,上下変位は最大で約5.5mに達する.活断層研究センターでは,広島工業大学・京都大学とともに3月にふたたび調査チームを派遣し,パキスタン地質調査所と共同で詳細な地震断層のマッピングを実施する予定である.

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