GSJニュースレター NO.16 2006/1

アメリカ地球物理学連合2005年秋季大会報告
大谷 竜(地質情報研究部門)

 
2005年12月4日から9日までアメリカ合衆国サンフランシスコ市において,2005年のアメリカ地球物理学連合(AGU:American Geophysical Union)秋季大会(Fall Meeting)が開催された.同学会は世界でも屈指の地球物理全般に関する大規模な学会であり,今回も世界中から多くの研究者による発表が行われた.構成としては,連日,午前・午後に各2時間のセッションが2つ,合計4つのオーラルセッションに加え,ポスターセッションも同時に開催されている.筆者が関わったセッションでは,コンビ-ナを行った非線形地球物理セッション,及び測地学のセッションでの発表があった.

 前者については,従来の分野の枠に収まらない,固体地球からの気候変動,超高層・電磁気圏までの様々な分野における学際的な研究を取り扱っており,特に筆者がコンビ-ナを行った地球惑星科学における時系列解析に関するポスターセッションでは,地球物理における最新の時系列解析手法の紹介,及び地球惑星科学現象に適用した結果を中心とした多彩な発表が行われた(写真).筆者の目を引いた研究として,カルマンフィルターを用いた解析手法について,新たな手法が開発され,実際に海洋・電磁気圏現象を中心に適用されてきている研究があった.これは筆者の専門とする固体地球物理現象の解析の高度化に直接用いることができるものであり,大きな収穫であった.本学会のような大きな国際学会は得てして巨大がゆえに,自分の専門とする分野しか出席しない傾向に陥るが,このようなセッションを催して多様な分野の研究者と情報交換をはかる意義を感じた.

 一方,筆者が発表を行った測地学セッションでは,2年前から始まった米国のEarth Scope計画の成果が出始めているのが印象的であった.どう計画は,アメリカ合衆国西部に,稠密な地震計やGPS等の基盤観測網を整備するとともに,産アンドレアス断層の掘削を行って,地震発生域での物性等を直接調査し,更に「その場観測」を行うことで地震発生のダイナミクスの解明に資するという野心的なプロジェクトである.一般に米国では計画の準備段階で十分な時間をかけるので,実際に計画が動き始めてから成果がでるのは早い.今回も観測網の整備や,2004年に発生したパークフィールド地震(掘削地点のすぐ近くで発生)の解析結果などが数多く紹介され,その充実ぶりに目を見張った.かくいう筆者の発表も,米国の研究者と共同で,稠密GPS観測網から「ゆっくり地震」を検出するための新たな解析手法の開発を扱ったものであり,これはどう計画で米国に展開されつつある,稠密GPS観測網のデータに直接適用できる手法である.そのためか,米国の多くの研究者から質問を受けた.

 以上のほかにも,20以上のメインセッションが存在し,更にその下には数多くのサブセッションが開催されており,この数年だけを見てもセッション数は増加しつづけている.実際,メイン会場のMoscone Center Westだけでは収まりきれず,近所のホテルを会場としているなど,AGU自体が年々巨大化しているのが印象的であった.

 なお,今回の参加・発表にあたっては日本学術振興会の国際学会等派遣事業の補助を受けました.ここに記して感謝します.


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