GSJニュースレター NO.11 2005/8

産業技術総合研究所平成17年度一般公開報告

 今年も産業技術総合研究所の一般公開が7月23日に開催されました.当日は曇り空で猛暑もなく,コンディション的に非常恵まれ,夏休み開始早々ということもあってか,最終的な来場者数は5240人を記録しました.
 以下に地質調査総合センター関係の企画についてのレポートを掲載します.なお,産総研一般公開全体の報告は,
産総研ホームページhttp://www.aist.go.jp/aist_j/event/ev2005/ev20050723/old_ev20050723.html をご参照ください. 
地質標本館特別展「地質図の世界」の開幕
利光 誠一(地質情報研究部門)・谷田部 信郎(地質標本館)

 7月23日の産総研一般公開にあわせて、地質標本館1階ホールで標記の特別展が開催されました。この日は特別展の開催初日ということで、この特別展の企画を中心となって進めてきた地質情報研究部門の松浦浩久・宮地良典・吉川敏之の3氏および関係者が展示パネルの前に立ち、来館者に対して解説を行いました。展示内容は、「地質図の始まり」、「地形と地質の密接な関係」、「人の暮らしと地質の関係」、「防災のための地質図」、「豊かな暮らしのための地質図」、「地質図に地球変動を読む」、「地質調査から地質図のできるまで」、「地質図の入手方法とインターネット」という8つのテーマで構成され、1815年に出版されたイギリスの世界最古の地質図や、日本が近代工業国家の建設をめざしていた頃の1882年に地質調査所が調査・出版した福岡県の炭田地質図などの歴史的な地質図のほか、最近出版されているいくつかの地質図を使い、地質図の歴史や読み方・活用の仕方などをやさしく解説しています。中でも、1988年発行の「筑波研究学園都市及び周辺地域の環境地質図」を拡大して床面にはった展示コーナーでは、つくば市周辺地域に住む方々の関心を誘い、自分の家がどこにあり、その地盤はどうかなどについて解説の職員から熱心に話を聞く姿が多く見られました。

 また、特別展の開幕にあわせて、活断層研究センターの関口春子氏による講演会「関東平野の地震動」が地質標本館映像室で開かれました。この中では、関東平野の地下構造と地震が起きた時の地震動との関係などがやさしく解説されました。地震は自分達の生活に密着した問題であるだけに、講演終了後に活発な質議がなされ、将来予想される東海〜南海地震が起きた場合の関東平野での地震動に関する質問なども寄せられました。

 当日は2000人近い方々が地質標本館を訪れましたが、終了した午後4時半頃に比較的大きな地震があり(東京などで震度5強を記録)、話題の尽きない1日となりました。なお、特別展「地質図の世界」は9月25日まで引き続き地質標本館で開催されていますので、ぜひ見学においで下さい。

 

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地質標本館 特別講演「地質図の世界−人の暮らしと自然を結ぶ−」を聞いて
脇田 浩二(地質情報研究部門)

 上記講演会が、産総研一般公開日である7月23日11:30-12:30に、共用講堂大会議室で開催された。この講演会は、同日から9月25日まで行われる地質標本館特別展 「地質図の世界-人の暮らしと自然を結ぶー」のオープニングを飾る特別講演会であった。

  講師の小玉喜三郎氏は、現在は産業技術総合研究所の副理事長の要職にあるが、旧地質調査所(現:地質調査総合センター)において、所長を勤め、若き日には関東山地で地質調査を実施し地質図を作成していた研究者であった。特に房総半島周辺における新生代の地質構造とテクトニクスの研究分野では、優れた業績を残されてきた。最近では、オーム社から「見方,使い方地質図」を出版し、一般への地質図の普及に尽力されている。

 このような経歴を持つ小玉氏であるから、地質図を説明するのはお手の物であり、わかりやすい講演が行われるのは、自明であったが、多くの一般市民を含む聴衆の前でどのような話をされるのか、興味津々であった。

 話の前半は、つくば市周辺の地質の話であった。普通の“地質図の説明”のように、そもそも地質図とはなんぞや?とか、地質図はこうして作る、こうして読むとか、HOW TOものの本を読むような話の展開は一切なかった。多くの聴衆がつくば市およびその周辺の一般の方々、もしくは地質を専門としていない研究者とその家族といった方々であることを想定し、つくばの町や筑波山といった非常に身近な題材を元に地質図や地質の話を展開していった。産業技術総合研究所やその周辺、多くの住民が住む並木・竹園・松代といった地域の地質図(筑波研究学園都市及び周辺地域の環境地質図)を拡大し、色分けした地域の地層の違いなどを丁寧に解説し、生活の場の地下の地質にグッと興味を引き寄せた。

  続いて行われた筑波山の地質の説明では、最近実際に撮影に行かれた山の様子や岩石の露頭などの写真が示され、この講演への並々ならぬ意欲が感じられた。筑波山では平面図だけではなく、断面図を示し、地質図が地下深くまでの三次元的な地質情報を含むことを分かりやすく紹介していた。

  後半は、関東山地のガス田の話になった。小玉氏が若き日に調査を行ってきた研究成果を踏まえて、地質調査の成果として得られた一般にはあまり知られていない身近な天然資源の存在をわかりやすく紹介していた。詳細な地質調査の結果地質図上に示された背斜部には、天然ガスが蓄積されており、現在もパイプラインを通じて、関東周辺へ届けられているらしい。

 約1時間の講演はあっという間に終わり、小玉氏が意図した地質図や地質情報を一般の人々にも身近なものにするという試みは、十分成功したと思われる。講演のあとの質問においても、自分の住んでいる場所の地質は水色で示された粘土層であるけど、大丈夫でしょうか?といった自分の生活に密着した質問が相次いだ。これらの質問にも、小玉氏は専門家の立場から相手に不安を与えないように丁寧に回答していた。

 最後に、この講演は、分かりやすい図の作成に一部協力した地質調査情報センターの職員によって、小玉氏の分かりやすい語り口と説明が支えられていたことを紹介しておきたい。また、講演時に配布された「地質図の世界」の分かりやすいパンフレットを作成した地質情報研究部門の研究者の努力も讃えたい。

 

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科学教養講座「巨大地震と津波−スマトラ型の地震は日本でも発生するか−」
佐竹 健治(活断層研究センター)

 7月23日の産総研一般公開の科学教養講座で,「巨大地震と津波−スマトラ型 の地震は日本でも発生するか−」というタイトルで約1時間の講演を行った.

 講演ではまず,地震や津波はどうして起きるか,震度とマグニチュード,地震の頻 度など地震に関する一般的な事項を説明した.次にスマトラ沖地震とインド洋の津波 に関して,産総研で行った現地調査結果や,津波警報システムについて紹介した. 最後に,江戸時代にアメリカや日本で起きた巨大地震と題して,産総研で行っているカスケード沈み込み帯や北海道の太平洋岸での古地震調査研究について紹介した.

 聴衆は約140名で,中会議室が満席となった.小学生からお年寄りまでの幅広い年齢層で,皆熱心に聞いており,講演後に,地震の被害想定などについて幾つかの質問が出た.講演終了の約1時間後に,千葉県でM 6.0の地震が発生,東京都内で震度5強を記 録した.

 なお,講演発表内容については,活断層研究センターのウェブサイトで閲覧・ダウンロードできる.
http://unit.aist.go.jp/actfault/event2005/index.html

 

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チャレンジコーナー「アナログ実験マジックで噴火の謎を考えよう」報告
高田 亮(地質情報研究部門)


溶岩流のアナログ実験の例.
 火山噴火を題材にして地球科学の楽しさを体験してもらおうという目的で,日頃親しんでいる材料と道具を持ち寄って,自然現象を縮小したアナログ実験を紹介した.世の中は数値計算が主流であるが,一般の人にはブラックボックスが多すぎる.アナログ実験は,サイエンスの基礎を含んでおり,理科教育の宝庫である.当日は1時間おきに5回実験を行った.まえもって実験の前に噴火のビデオを見せておいた.噴火の原因となる地下のことは直接見えないので,ゼラチンを地球に,油をマグマにみたてた,マグマの移動から割れ目噴火までを理解するシースルー実験をはじめに公開した.次に,富士山の5万分の1の立体模型の上に,溶岩にみたてた,小麦粉と染料をエタノールで溶かした溶液を子供に流してもらい,溶岩流の流れ方を観察してもらった.エタノールは蒸発するので,残った小麦粉があたかも固まったようになるのである.この実験は,直感的に分かりやすく小学生には一番うけた.最後に,20万分の1地形図を広げ,偏西風の代わりに扇風機の風を使い降下火砕物の拡散堆積実験を子供にやってもらった.地質標本館でも,展示中心ではなく,このような体験型のアナログ実験が常時できるようになればよいなと思った.

http://staff.aist.go.jp/a-takada/05July23.html

 

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研究成果コーナー「地下水観測 -地震予知を目指して-」報告
松本 則夫(地質情報研究部門)


 7月23日に行われた産総研一般公開において、地震地下水研究グループでは、「地下水観測 -地震予知をめざして-」と題して、「話題の広場-産総研の研究成果の紹介-」ブースで研究紹介を行いました。

 研究展示ブースでは、マグニチュード8程度のいわゆる「東海地震」が起こる可能性があること、産総研・地質調査総合センター(GSJ, AIST)では,「東海地震」の想定震源域付近に15本の井戸の地下水位を観測していること、さらに、もし「東海地震」の前に想定されているゆっくりとしたすべり(前兆すべり)が起こった場合に、観測している井戸の地下水位がどのように「有意な変化」となるかということ、さらに、気象庁が発表する東海地震に関する情報の内容とそれに対してGSJ, AISTがどのように貢献するか、などについて説明しました。

 なお、発表の内容には直接には関係しませんでしたが、来訪された方の近辺(主に茨城県・千葉県)での地震活動の状況についての質問も多数ありました。それに対しては手持ち資料を持ち込み、説明を行いました。

 用意した100部あまりの説明資料はすべてなくなり、また、熱心に質問される方もいらっしゃるなど、地震研究・地震予知研究にたくさんの方が興味を持たれていることを実感しました。

 

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