GSJニュースレター No.1  2004.10
PLENARY(本会議)について    古宇田 亮一(地質調査情報センター)
 本会議講演として会期中の8/21から8/27までの7日間,毎日正午から小一時間ずつ全8講演(2日目のみ2講演)あった.第1会場は広く,プロジェクタの大スクリーンが7台,大画面CRTが4台並び,1000人以上入れたと思われ,又,連日大入りだった.筆者も滞在中毎日伺ったので,以下に紹介する.

初日は,Enrico Bonattiによる「地球内部の呼吸−マントル揮発性物質,プレートテクトニクスと気候」と題した講演で,17世紀以来のデカルト等の様々な論述も回顧しつつ,地球核−マントルを通じた揮発性物質の移動と鉱物反応の研究史をたどり,現在,我々が生活する空間の大気と水に寄与する地球内部の揮発性物質についての考察を披露された.内容的に目新しいものはなかったが,結論部分で日本のMaruyamaやKaratoの業績を紹介されていた.最後に聖書から,創世記の1章10節に「神は水の集まったところを海と呼ばれ」,黙示録の21章1節に「もはや海もなくなった」,と引用して話しを結ばれた.法王のお膝元の風土ならではだろう.

2日目の,Carlo ViggiaiとMichele Jamiolkowskiによるピサの斜塔の傾斜止めの講演は,地質工学の成功例として興味深かった.戦争で港を掘ったために大地が流動して,基盤の片方が支えきれなくなった歴史をたどり,幾度も傾斜止めのプランが挫折した経過は,地質の工学技術の歴史を語るものでもあった.最終的に,傾斜する反対側の地盤に沢山のパイプ穴をあけて鉄とコンクリートで塔の基礎を固定し,傾斜で地盤が持ち上がらないように押さえることで解決,悲観的に見ても300年,楽観的に見るなら半永久的に傾斜を食い止めたとの成果を披露された.

3日目の講演は,Victor Bakerによる「火星と地球の水・生命・地質史」である.両惑星を比較しつつ,特に,火星の水と水成堆積岩の証拠と解釈について解説し,火星にも生命が存在したことを力説されていた.

4日目は,Franco Barberiによる「火山災害と共に暮らす」と題した講演で,火山国イタリアの火山噴火と地質を紹介されていた.

5日目は,Bernard Duvalの「沖合油ガス田:出資,挑戦,展望」という講演で,陸上油田が減少し,沖合の割合がますます高まりつつあるが,そのための調査手法も高度化しており,まだ多くの油ガス田の開発が可能であることを述べられた.

6日目は,Peter Bobrowskyの「文化遺産に及ぼす地質学の衝撃」,7日目は,Wallace Broekerによる「地球規模の温暖化が欧州を氷河期に押しやる」という講演があったが,帰国後のため伺っていない.しかし,世界的にもタイムリーな話題であったことは確かである.

IGCの講演は,Plenaryも含めて,一般には新しい発見がなかなか発表されず,既に論文として出した内容や査読中のものなどが多い.一般の学会講演のように最新の発見を期待するのは難しい.しかし,各分野の比較的新しい傾向をまとまって把握することができ,ポスター会場などでは,最新の研究動向を直接聞き出すことができる.10年ぶりに古い友人に会えたりもする.4年に一度の特性を大いに生かして,研究と研究者交流を深めることができ,大変有意義な機会が大規模に提供された,ということができるだろう.

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GSJニュースレター No.1 2004.10
(独)産業技術総合研究所地質調査総合センター
GeologicalSurvey of Japan,AIST