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谷川岳

写真・文  斎藤 眞
photo and written by Makoto Saito

トマの耳
トマの耳
西黒沢からの谷川岳全景.双耳峰で右側がオキの耳(山頂),左側がトマの耳.右手前の尾根は西黒尾根.
西黒沢からの谷川岳全景.双耳峰で右側がオキの耳(山頂),左側がトマの耳.右手前の尾根は西黒尾根.
オキの耳
オキの耳
 
谷川岳は一の倉沢などロッククライミングで有名ですが,一般登山道では山頂まで行くのは比較的易しい山です.谷川岳には東麓(標高 750m)から天神平スキー場(標高 1,321m)までロープウェイがあるので,それに乗れば頂上(1,977m)までの標高差の半分強を稼ぐことができます. ロープウェイ山頂の天神平スキー場
ロープウェイ山頂の天神平スキー場
谷川岳南部のルートマッブ.西黒尾根,天神尾根の一般コースを歩くときの参考になる.滝沢・佐藤(1986)に一部加筆
谷川岳南部のルートマッブ.滝沢・佐藤(1986)に一部加筆(クリックで拡大します)
谷川岳の地質は標高の高い部分が時代不詳の蛇紋岩・玄武岩などからなり,標高の低い部分が鮮新世の花崗岩類でできています.この様子は,ロープウェイの山麓駅から西黒尾根を登って山頂を目指すとよくわかります.花崗岩類の分布域ではあまり岩石の露出が多くないのですが,1,516m のラクダの背に近づくと,花崗岩類による接触変成作用を受けた蛇紋岩に変わり,登山道も急に険しくなります.
これより標高の高い部分は接触変成作用を受けた蛇紋岩,玄武岩類でできています*1.花崗岩類の部分より,標高の高い部分を占める接触変成作用を受けた蛇紋岩・玄武岩類の方が浸食に強いために,全体として切り立った崖をなしています.このように花崗岩の上に,それによる接触変成岩が存在する場合,切り立った崖になるのは比較的よく見られる地質現象です.山頂に立ってどこまでが花崗岩類かよく見てみるのも良いでしょう. 西黒尾根ではらくだの背付近から標高の高い部分が主に蛇紋岩,標高の低いところが花崗岩類.
(クリックで拡大します)
西黒尾根からみたマチガ沢上部の岸壁
西黒尾根からみたマチガ沢
上部の岸壁
山頂(オキの耳)からみた一の倉沢上部
山頂(オキの耳)からみたマチガ沢(右)と
一の倉沢(左)
山頂(オキの耳)からみた一の倉沢上部)
山頂(オキの耳)からみた
一の倉沢上部
 

谷川岳の頂上付近からロープウェイ山頂駅につながる天神尾根は,おおむね接触変成作用を受けた玄武岩類と蛇紋岩からなっています(避難小屋付近だけが花崗岩類).蛇紋岩に比べて玄武岩類が多く分布し,山頂に近い部分には,枕状溶岩を思わせる産状の玄武岩もあります.このほかに蛇紋岩中にはブロックと考えられる結晶片岩があることが知られていて,約3億年前に変成作用を受けたことが知られています*2.しかし蛇紋岩や玄武岩はいつできたのでしょうか? 花崗岩のマグマに焼かれる前にできたのは確かですが,まだ謎として残っています.

*1 蛇紋岩,玄武岩が繰り返しオフィオライトのように見えます.
*2 Yokoyama (1992)

参考文献

雁沢好博・久保田喜裕 (1987) 谷川石英閃緑岩体の形成とその冷却史.日本地質学会第94年学術大会演旨, 194.
川野良信・大平寛人・島津光夫 (1992) 北部フォッサマグナ谷川岳鮮新世深成岩体の岩石学. 地質学雑誌, 98, 497-508.
河野義礼・植田良夫 (1966) 本邦産火成岩のK-Ar dating (IV) −東北日本の花崗岩類−. 岩鉱, 56, 41-55.
中村庄八・鷹野智由・久保誠二・伊藤収・矢島祐介・戸谷啓一郎 (2004) 表層地質図「岩菅山・四万」. 土地分類基本調査「岩菅山・四万」,群馬県.
相馬恒雄・吉田勝 (1964) 谷川岳附近の深成岩類. 岩石鉱物鉱床学会誌, 51, 39-52.
滝沢文教・佐藤興平 (1986) 谷川岳付近の"中生層"の再検討. 上越帯・足尾帯研究報告, no.3, 76-83, 新潟大学理学部鉱物学教室.
Yokoyama, K. (1992) K-Ar ages of metamorphic rocks at the top of Mt. Tanigawa-dake, Central Japan. Bull. Natn. Sci. Mus., Series C (Geol. & Paleont.), 18, 43-47.

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