地質で語る百名山 トップへ

湯浅真人
written by Makoto Yuasa

甲府盆地から見上げる甲斐駒ヶ岳 (2,965.6m) は、比高2200mにも及ぶきりたった白壁で、「男はつらいよ」のラストシーンでその稜線を垣間見た覚えがあります。
夏でも白く、雪の山のようなたたずまいを見せているのは、この山を造っている岩石、花崗岩 (かこうがん) のせいです。


甲斐駒ヶ岳

甲斐駒ヶ岳の周辺地質図
(5万分の1地質図「市野瀬」の一部)

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花崗岩というのは、御影石 (みかげ石) という名前でも知られています。お墓の石や、ビルなどの建材に使われている、白くて鉱物の粒が粗い岩石です。中には黒っぽい鉱物 (黒雲母や角閃石) も混じっています。
後でもご説明しますが、南アルプス (赤石山地) では北岳や仙丈ケ岳のように、主として堆積岩からなる山々が連なっているのですが、北部のこの一角には花崗岩があります。
甲斐駒ヶ岳をはじめ、地蔵岳、観音岳、薬師岳の三山を合わせた鳳凰三山が花崗岩の山です。
この花崗岩は、北岳や仙丈ケ岳の岩石とみかけが全く違います。それは、でき方の違いから来ています。北岳や仙丈ケ岳の岩石は堆積岩といって、山や高原を造る岩石が川の流れに削られて、下流あるいは海にまで運ばれ、そこに溜って (堆積して) できた岩石です。
一方、甲斐駒ヶ岳や鳳凰三山を造っている花崗岩は、マグマが冷えて固まったものです。 マグマが冷えて固まったという点では、火山から流れ出る溶岩が固まった火山岩も同じなのですが、花崗岩は、マグマがもっと地面の底の深いところ (5〜10km) でゆっくり冷え固まったものなのです。ゆっくり冷えるので結晶が大きく成長し、火山岩とはみかけが全く違ってしまいます。

ここの花崗岩は、その中に含まれる放射性同位元素を使った年代測定 (*) の結果、約1400万年前に冷え固まってできたことが分かりました。
北岳や仙丈ケ岳の堆積岩からは、年代の決め手となる化石が見つかっていないので正確な堆積の時代は分かっていませんが、岩石の風貌からもっと古い時代に海の底にたまったものと考えられます。
花崗岩を造っているマグマは、北岳や仙丈ケ岳を造っている堆積岩の中に熱いまま入り込んで冷え固まったものです。なぜそれが分かるかというと、花崗岩のマグマが堆積岩の中に入り込む時にまわりの堆積岩に火傷を負わせたことが見て取れるからです。
花崗岩のそばの岩石は、もっと遠くにある岩石にくらべ赤みがかった色をしています。それが火傷の跡なのです。この場合の火傷の跡とは、マグマの熱で焼かれたことによって新しく生まれた鉱物のことです。
このような作用を接触変成作用といい、これによってできた岩石は接触変成岩 (ホルンフェルス) と呼ばれます。赤みがかった色は、接触変成作用でできた細粒の黒雲母の色です。
この他、ここの接触変成岩には、菫青石、紅柱石、ザクロ石などができています。仙水峠から駒津峰に登る急な坂道で見られるうっすらと赤い石はこういった岩石です。
花崗岩は仙水峠から駒津峰に登る道よりもずっと東側に出て来ます。
地質図でみると、花崗岩が出てくるのは駒津峰と甲斐駒ヶ岳との間の鞍部付近から東です。この地質図で見る限り、花崗岩が仙水峠より西側に出てくることはありませんが、実際には北沢を遡って仙水峠へ向かう道沿いに、花崗岩の大きな円礫がみられます。この円礫は、駒津峰と甲斐駒ヶ岳との間を南南東に流れる谷 (大武川上流の仙水谷) がかつては北沢に流れていた時に運搬されて来たものと考えられています。この谷は、東側の大武川の浸食量が大きく、北沢ヘの流路を無理矢理変えられてしまったものと解釈されています。このような現象を河川の争奪といいます。


    (*) 岩石には、溶岩のように溶けたマグマが冷え固まってできるものと、すでにあった岩石が空気中や水中での崩壊、風化などの作用で砂や泥のような粒の細かい堆積物 (たいせきぶつ) になり、主として水の底に積ってできるものとがあります。
    前者を火成岩、後者を堆積岩といいます。
    火成岩はマグマが冷え固まった時を、その岩石のできた年代とします。また、堆積岩はそれが水の底にたまった時をその岩石が堆積した時代といいます。
    火成岩はその中に含まれている放射性元素が時計の役割を果たし、ある温度より低くなるとストップウォッチがスタートを始めます。ストップウォッチの針を測定して、今から何千万年前にできた、というような言い方をします。
    堆積岩の場合は、それが水の底に積った時に、一緒に水の中に住んでいた生物の遺骸があると、その岩石の堆積した時代が分かります。恐竜の骨があったりすると、ジュラ紀とか白亜紀とかいう地質時代の岩石だということになります。

写真 : 斎藤眞 (地質情報研究部門)

地質図の入手方法は こちら です。
甲斐駒ヶ岳は5万分の1「市野瀬」という図幅の中に含まれています。この「市野瀬」という地質図には、上の説明の中に出てきた日本第2の高峰北岳と、もう一つ3000m級の高山、仙丈ケ岳も含まれています。